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エロを明るく健康的に考える?ユニークなアート展を企画した女性アーティスト二人がそこに込めた思い

水上賢治映画ライター
<健康的なエロ展>を企画したn a g o h o(左)とMisii  筆者撮影

 そのときのインタビュー(前編後編)でも触れたが、彼女は、俳優のみならず、自身のアートガレージであるNOSE art garageの運営をしながら、アーティストとして、舞台、音楽、映画など、多様なフィールドでの表現活動を展開している。

 その彼女が運営するNOSE art garageで現在「健康的なエロ展」なるアート展が開催中だ。

 このアート展、ユニークな試みであると同時に実はものすごく切実なことを伝えている。その思いをもっと多くの人に届けたい、と急遽会期が1カ月延長された。

 健康的なエロとは?このアート展に込めた想いとは?

 その真意を、n a g o h oと、彼女のパートナーで同じく企画を手掛けている音楽家のMisiiに訊いた。(全三回)

アートと社会を繋ぐ場×多様な価値観が交差する場、そういう場所になれたら

 まず、以前のインタビューの際、彼女は「私自身、アートや表現にずっと救われてきたからこそ、本当に価値のあるアートを届けていく事で、少しでも社会貢献できたらと思っています」と語っている。

 この言葉からもわかるように、彼女には、アートを通じて、社会や人がポジティブになることを目指している。

 そのことを実践しながら実現しようとしている場が、「NOSE art garage」というアートガレージといっていいかもしれない。

 はじめに「健康なエロ展」を開催している「NOSE art garage」という場についてこう語る。

n a g o h o「『NOSE art garage』は、アートと社会を繋ぐ場×多様な価値観が交差する場、そういう場所になれたらと思っています。

 すべての人が平等に自分らしく、自分で自分のことを肯定して生きていける、ありのままにいられる、そう思える場所をアートを通じて、創っていければなと思っています。

 また、そういう多様な価値観を共有できるような、作品や企画を発信していければなと」

Misii「いまn a g o h oがいった通りなんですけど、世の中にはいろいろな価値観があると思うんです。

 そのことをお互いに受け入れてリスペクトし合い、ともに歩んでいけるような空間であり、場所を目指しています。

 いろいろな意見をもっている人が世の中にはいる。だからこそ、とことん対話をすることがすごく大事。

 意見の違う者たちがきちんと向き合って、話し合って、それぞれの思いを共有するには、何か言っても最初から否定しない。

 受け入れるところから始まる気がするんです。

 そういう互いを尊重して対話ができるような場所になるよう心掛けています」

n a g o h o「すごいパーソナルなことですけど、自分自身がいろいろな社会の問題に、さまざまな場面で当事者になり得る人生をこれまで歩んできている。

 それこそジェンダーに関しても、わたしはいまの社会からすると、マイノリティーになる。性暴力被害にもDV被害にも遭っている。

 ただ、当事者ということをあまり認識できないでいたといいますか。

 自分が傷つかないように、どこか気がつかないフリをして流していたところがあったんですけど、わたしと同じような悩みや被害でものすごく苦しんでいる人がいっぱいいることを知ったりするうちに、なにか立ち上がらないといけないという気持ちが芽生えてきました。

 様々な声の上げ方がある中で、日々自分たちなりの形を模索中です。私自身声を上げるまでにすごく勇気が必要だったからこそ、声を上げてきてくれた先人たち、まだ上げられずにいる方たちと、その両者を繋ぐ、かけ渡しができればと考えています。

 その中で、自分も救われてきたアートだったら、なにか自分らしく社会へのメッセージを発信できるんじゃないかなと思って。

 その発信拠点として、『NOSE art garage』があるといまは思っています」

人前では触れてはいけない、口にしてはいけないことに、

性や性差といったことのすべてが押し込められてしまっている気がする

 今回、「エロ」をテーマにしたいきさつをこう明かす。

 ちなみに、本展示におけるエロの定義は、言葉の意味としては「エロティカ」と同等とするが、今回の展示ではポップな作品を展示することで自分の性、カラダのことを始め自分の「好き」にオープンになれる場を目指す。

n a g o h o「日本では、『エロ』というと、『猥雑』や『卑猥』といったことが連想されて、いまだどこかタブー視されがち。

 そういう人前では触れてはいけない、口にしてはいけないことに、性であったり、性差であったり、といったことのすべてが押し込められてしまっている気がするんです。

 たとえば、今回のコロナ禍では、生理用品の貧困問題が明らかになりました。

 また、全国各地で災害が起きる中、避難所に生理用品がストックされることが進められたりした。

 これは女性の生理がどういうものなのかをオープンにしたからこそ、そういう支援につながっていったところが多分にあると思うんです。

 このように性についてはオープンにしたほうが、男女問わず理解が深まることが多くあるのではないか。

 でも、実際は性について『隠すもの』といったイメージがまだまだ強い。

 自分の身体に関するコンプレックスであったり、セックスに関する悩みだったり、生理に関する悩みだったりとか、意外と人に話せないし、打ち明けられない。

 自分で抱え込んで、隠して悩み続けるような流れがある。それが単純にすごく不健康だなと。もっとオープンにすることで解消されることがもっとあるんじゃないか。

 あと、性というテーマは、すごく自己肯定感に直結していると思って。少しの違いで自分は変なんじゃないかと思い悩んでしまう。

 でも、実際は同じような悩みを抱える人がほかにもいっぱいいたりする。

 そういう多様な『性』があることを知って、話せるようなことができないかと考えたのが今回の企画の出発点になっています」

性やセックスのことは自分の身体のこと

自分の身体のことだから、ほんとうは自分が一番知っておかなければならない

Misii「性やセックスのことは自分の身体のことにつながっている。

 自分の身体のことだから、ほんとうは自分が一番知っておかなければならないし、愛していなければいけない。

 でも、ほとんどの人が自分の身体に自信を持てていない気がする。なにかしらコンプレックスを感じている。そのコンプレックスの部分って恥ずかしいから隠すし、自分でも見ないですよね。目をつぶってしまう。

 ただ、きちんと見ることで自分の意識が変わるというか。コンプレックスもきちんと見ることでこれも自分として受け入れることができるのではないかと。

 わたしは胸にコンプレックスがあるんですけど、でも、今回のアート展の企画で胸の写真を撮ってもらって、きちんと向き合ったら、なんか自分の一部だと思って愛おしく思えた。

 変な話ですけど、『これまであまりみてあげなくてごめんね』という気持ちになりました。

 こういう感じでエロスをテーマに、自分の身体を知ろうというのも今回の企画ではやりたかったことのひとつです」

n a g o h o「先ほど少し触れたようにわたし自身、性暴力を受けた経験があって……。

 エロス=性の問題は、こういうところにも深くつながる。

 男女にかかわらず、相手に一生の傷を負わせることになることもある。

 正しい認識があれば、防げることがあると思うので、そういうことを考える機会にもなればと思いました」

(※第二回に続く)

提供:NOSE art garage
提供:NOSE art garage

<健康的なエロ展>

展示会期:9月30日(木)まで

(※15日は休館。また、17・18・19・26日はイベントあり。

イベントにより時間が異なるので、詳細は公式Instagramにて確認を)

時間 :13:00~19:00

料金:500円+1Drink

場所:NOSE art garage(表参道)

Instagram : アカウント名 @noseartgarage

URL : https://www.instagram.com/noseartgarage/

YouTubeにてトークセッションなどの動画配信中

https://www.youtube.com/channel/UC596e20BU-TbHC7oTmLDGew

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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