なぜレアルは“補強終了宣言”をしたのか?エムバペ獲得失敗の夏と現有戦力への上乗せ。
数ヶ月前まで、スタープレーヤーの加入が確実視されていた。
今季開幕前にキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)を引き入れようとしていたレアル・マドリーだが、移籍成立には至らなかった。最終的に、エムバペがパリSGとの2025年夏までの契約延長を決め、稀代のアタッカーはマドリーに到着しなかった。
マドリーは現在、カリム・ベンゼマが攻撃の中心にいる。ただ、34歳というベンゼマの年齢を考えれば、後釜を見つけなければいけないのは明らかだ。そのトップターゲットが、エムバペだった。
エムバペは来なかった。しかしながらカルロ・アンチェロッティ監督は「これ以上の選手獲得はない」と語っており、補強の終了を明言している。
■補強費とプランニング
マドリーはこの夏、アントニオ・リュディガーをフリートランスファーで、オウリエン・チュアメニを移籍金8000万ユーロ(約112億円)で獲得した。
「金満クラブ」のイメージがあるマドリーだが、今夏の補強費は欧州で15位(8月3日時点)だ。バルセロナ(補強費1億5300万ユーロ/約214億円)、バイエルン・ミュンヘン(1億3750万ユーロ/約192億円)、アーセナル(1億3200万ユーロ/約184億円)、マンチェスター・シティ(1億870万ユーロ/約152億円)、リーズ・ユナイテッド(1億860万ユーロ/約151億円)と補強費ランク上位陣に水をあけられている。
無論、マドリーは昨季のチャンピオンズリーグとリーガエスパニョーラを制したチームだ。アンチェロッティ監督には、自信があるのだろう。現有戦力の維持と少しの上乗せが2年連続のタイトル獲得につながるという自信だ。
一方、アンチェロッティ監督は戦術面で昨季とは異なるプランを持っている。それがファルソ・ヌエベ(ゼロトップ/偽背番号9)だ。
エムバペ獲得を逃した一方で、マドリーはルカ・ヨヴィッチをフィオレンティーナに、ボルハ・マジョラルをヘタフェに放出した。ストライカータイプでベンゼマに代役になり得るのはマリアーノ・ディアスだけである。
そのような状況で、アンチェロッティ監督はエデン・アザールを3トップの中央に据えようとしている。昨季、マルコ・アセンシオ、ロドリゴ・ゴエス、イスコ、ガレス・ベイル、ルカ・モドリッチといった選手がそのポジションで試された。
■指揮官の期待
アザールは2019年夏に移籍金1億ユーロでチェルシーからマドリーに移籍した。マドリー移籍以降、度重なる負傷に苦しめられてきたが、2018−19シーズンにはチェルシーで21得点をマークしている。いま、マドリーの左ウィングではヴィニシウス・ジュニオールが好調を維持している。そこで、アザールをゼロトップ起用して「再生」させるというのがアンチェロッティ監督の算段だ。
もう一人、期待されるのがアセンシオである。2023年夏までマドリーと契約を結ぶアセンシオは、この夏に移籍する可能性が取り沙汰されていた。しかし、多くの選手の放出があり、残留に傾いている。昨季、12ゴールでチーム内得点ランクで3番手だった。右ウィング、あるいはアザール同様にゼロトップの起用で、攻撃への貢献が求められる。
「我々はベンゼマに依存している。否定しないよ。そういうものだ。私はベンゼマに依存していることを嬉しく思っている」
「ベンゼマはモダンなCFで、必要な要素をすべて兼ね備えている。守備もする、という意味を含めてね。現代フットボールで、FWがどうあるべきか、それを完璧に体現している」
これはアンチェロッティ監督のコメントだ。
ベンゼマは昨季、負傷で10試合を欠場している。その前のシーズン(6試合)に比べ、欠場数は増えている。代表戦の影響は大きい。また、今年はカタール・ワールカップが控えている。
エムバペに「ノー」を突きつけられ、アンチェロッティ監督はゼロトップを拵(こしら)えている。新たなチャレンジが、マドリーを待ち受けている。