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「新しい景色」は見えるのか。日本のマックス値はコスタリカ戦の選手起用法で推察できる

杉山茂樹スポーツライター
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 カタールW杯。サッカー協会は本大会が迫ると「新しい景色を2022」なるキャッチフレーズを掲げた。ベスト8だったはずの当初の目標も気がつけば、ベスト8以上と「以上」が付随されることになった。その間に抽選会が行われ、グループリーグでドイツ、コスタリカ、スペインと同じ組を戦うことが決まったにもかかわらず、目標値を半歩上昇させた。

 初戦で対戦する強豪ドイツに2点差以上のスコアで敗れれば、決勝トーナメント進出の可能性はほぼ失われる。それと新しい景色(ベスト8以上)という目標とのバランスをどう取るかが問われていた。

 ベスト8以上とは、試合数では5試合以上戦うことを意味する。6試合目を戦うチームは、勝てば決勝進出、敗れても3位決定戦に回るので、自動的に計7試合を戦うことになる。5試合戦いたいのか。7試合戦いたいのか。以上という言葉を添えられると範囲は広がるが、ならば「何試合でも戦い抜く備えができている」としても、大きな問題はないだろう。

 試合間隔はほぼ中3日。この強行軍を乗り切るためには、26人中23人を占めるフィールドプレーヤーをいかに有効に使い回すかが、問われることになる。そうした前提に立ったうえでの初戦、対ドイツ戦だった。

 結果は2-1。日本はまさかの勝利を飾ったが、収穫はそれだけではなかった。出場時間を多くの選手でシェアすることができた点にある。「目標」から逆算した時、問われるのは選手の出場時間だ。多くの選手を使いながら勝ち抜くことが、W杯のような短期集中トーナメントでは不可欠になる。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 146分とは、日本の交代出場選手5人(冨安健洋、三笘薫、堂安律、南野拓実、浅野拓磨)が、プレーした時間の合計になるが(アディショナルタイム分は含まず)、ドイツの69分と比べると違いは際立つ。スペイン139分、コスタリカ129分。同じD組を戦う他の2チームとの比較でも、日本は勝った。スペイン対コスタリカのスコアは7-0。スペインはこの上なく楽な展開で、日本よりはるかに交代カードを切りやすい環境で試合をしていた。大きなリードを許したコスタリカも、同様に交代カードを切りやすい環境にあった。

 試合展開から見ても日本の146分という数字は光るのだ。目標値から逆算してみても好ましい傾向になる。できるだけ多くの選手を起用しながら勝つ。次につながる勝利とはこのことを指す。

 この森保采配は想定外だった。森保監督と言えば、交代は遅め。5人の交代枠を使い切ることが出来ない試合もあった。交代下手の監督として知られていた。東京五輪ではその典型とも言える采配をしたばかりか、大会後の会見では、自らの思考を正当化させるような、以下のような台詞も吐いていた。「日本は先を見越して戦うことはまだできない。世界の中で日本が勝ち上がろうとした時、1戦1戦全力で戦いながら次に向かっていくことが現実的である」

 先を見越した戦いと、一戦一戦をトーナメントのように全力で戦うことは、全く異なる概念に見える。だが、これをクルマの両輪のように共存させることが代表監督に課せられた使命になる。その自覚がまるでない森保監督に、懐疑的な目を向けたくなるのは当然だった。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 ところが先のドイツ戦では、1戦1戦全力で戦うことと、先を見て戦うことを見事に両立させた。たまたまなのか。狙って実行したことなのか。その答えは、次戦のコスタリカ戦に隠されている。

 そのスタメンがドイツ戦とどれほど変わっているか。交代出場した選手の出場時間はどれほどになるか。第1戦で出場しなかった選手をどれほどピッチに送り込めるかなどが、最大の注目ポイントになる。そのうえ勝利を収めることができれば、長い戦いをする態勢が整うことになる。

 前回2018年ロシア大会で采配を振った西野朗監督は、1戦目、2戦目と同じメンバーで戦った。体力的な問題から3試合目は、それまでサブだった6人をスタメンに加えて戦ったが、4戦目(決勝トーナメント1回戦)のベルギー戦では、再び1、2戦目のスタメンに戻した。もしベルギーに勝利していたら、5戦目(準々決勝)はどんなスタメンを組むつもりだったのか。再び従来のサブを大量にスタメンに送り込むつもりだったのか。

 レギュラーとスタメンを分けて戦う起用法の限界を見せられたのが前回大会だった。決勝トーナメント1回戦に進出できれば御の字。目標値が低かったので、そうしたやり方を採用したのだろうが、まさに「日本は先を見越して戦うことはまだできない。世界の中で日本が勝ち上がろうとした時、1戦1戦全力で戦いながら次に向かっていくことが現実的である」を地で行く戦い方だった。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 だがこのやり方ではベスト8に進んでも余力はない。体力的な面だけを見ても可能性はゼロに近くなる。2018年ロシア大会の西野式と180度異なる価値観で2戦目を戦わないと、5試合目以降は見えてこないのである。

 注目はコスタリカ戦のスタメンだ。ドイツ戦からスタメンをどれほど変えることができるか。さらに言えば5人の交代枠を早めに使い切ることができるか。それこそが日本の期待値になる。選手は粒ぞろいだ。悪く言えば、どんぐりの背比べとなるが、誰が出場しても大差ないところが、これまでの日本代表と異なる点だ。日本のそうした特徴を、監督が采配を通して生かすことができるか。

 コスタリカ戦の選手起用法を見れば、日本のマックス値は推察できる。どこまで進めそうかを占うことができる。明日が待ち遠しい限りだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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