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【DMJ】楽譜の意味と演奏者の概念を融合させる新現代音楽(シニフィアン・シニフィエ@横濱エアジン)

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
シニフィアン・シニフィエ@横濱エアジン
シニフィアン・シニフィエ@横濱エアジン

富澤えいちが足を運ぶ直前に、“ジャズの醍醐味”と言われているライヴの“予習”をやろうという“出掛ける前からジャズ気分”、略してDMJ。今回は、現代音楽に新たな解釈を施すシニフィアン・シニフィエ。

シニフィアン・シニフィエは、作曲家・ピアニストのshezooの呼びかけで集まったメンバーによって現代音楽の曲を演奏するプロジェクトだ。

“シニフィアン”と“シニフィエ”はもともと言語学に用いられる用語で、“シニフィアン”が“意味しているもの”、“シニフィエ”が“意味されているもの”を指す。たとえば、“音”という文字が“シニフィアン”で、実際に楽器などから発せられて“音”と認識するものが“シニフィエ”ということになる。

こうしたアウトラインだけを頼りにシニフィアン・シニフィエのライヴに通うこと数回、このプロジェクトが“現代音楽の楽曲を再現するだけ”ではないことはわかったものの、それをジャズと呼びたいわけでもないらしく、気難しいイメージの現代音楽を簡易版で楽しむだけという安易なニュアンスも感じられない。

そこで首謀者であるshezooにメールでのインタビューを試みることにした。

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ーーシニフィアン・シニフィエを結成しようと思ったとき、人数や楽器編成のアイデアはどんなものだったのですか?

最小限のオーケストラを表現できうるフォーメーションとして、2弦2管+ピアノをまず考えましたが、最初のライヴ(2013年6月29日@大泉学園インエフ)を終えた時点で、ここにはパーカッションが必須であると感じました。

ーー参加してほしいと思った人には、シニフィアン・シニフィエについてどのようなバンドにしたいと伝えたのでしょうか?

あるメンバーに話した内容をご紹介します。

「現代曲の書き譜を演奏することに興味はありますか」とまず打診して、「基本的には言葉どおり“楽譜のある現代曲を演奏する”ということなのですが、楽譜をそのまま再現するのであれば別に私たちがやらなくてもいいと思うので、もう少し勝手な“カヴァー”というニュアンスを持ち込んでやれないかと考えています」と説明しました。すでに何曲かアレンジをしていたものがあったので、試しにやってみませんかという感じです。

具体的な方向性については、「既成曲の楽譜である記号表現“シニフィアン”が意味するもの、表現するものとはどのような音楽であるのかーー楽譜に書かれた音符(記号)は単なる再現のためのレファラン(指示対象)ではなく、その記号(音符)が意味しているもの、表しているものが演奏者のフィルターを通すことによって生まれる概念を経た記号内容“シニフィエ”=音楽を表現する」というコンセプトに基づいて、「現代にいたるまで影響を及ぼしている古典であるバッハと、書き終えた時点からすでに古典となっていく現代曲をアレンジした楽曲を演奏する音楽集団をめざす」ということになります。

ーー選曲の基準を教えてください。

現代音楽にはすばらしい作品がたくさんあります。しかし、クラシックという枠を意識してしまうことで物足りない内容になってしまうことも多いのが事実です。一方で、クラシック以外のさまざまなプレイヤーとのセッションやインプロヴィゼーションをとおして、プレイヤーの力量や判断の違いで音楽がとても魅力的になることも経験してきました。

そのことをふまえて、“現代音楽”という言葉の意味から考えれば、私たちが生きている“現代”で生み出されている“音楽”であればそれはすべて“現代音楽”になりうるわけですから、クラシックという枠を意識せずに、メンバーが面白いと感じてくれるであろう楽曲を自由に選べばいいんだという考えにいたりました。

ーーシニフィアン・シニフィエにとってアレンジはどんな意味をもち、どんな結果をもたらしていると考えていますか?

シニフィアン・シニフィエにはふたつのアレンジが存在しています。ひとつは、作曲者の指定とは違った楽器編成へのアプローチ。もうひとつは、原曲はそのまま演奏するという縛りのなかでメンバーが自由に動き回れる空間を作ること、さらにはその空間でメンバー全員がインプロヴィゼーションを通して原曲をアレンジしていくということです。

唯一の古典であるバッハについては、楽器編成のアレンジ以外は原曲を忠実に演奏しています。

こうしたシニフィアン・シニフィエ独自の束縛によって、従来のクラシック・アレンジに見られたメロディやコードを使うアレンジとは一線を画し、メンバーひとりひとりが原曲に踏み込んでアレンジをしながらソロをとり、アプローチをしていくかたちになると考えています。

ーーありがとうございました。

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なお、10月5日の公演では、バルトーク「ミクロコスモス151」とバッハ「マタイ受難曲」から「Ich will dir mein Herzen schenken」を新曲として上演予定とのこと。

では、行ってきます!

●公演概要

シニフィアン・シニフィエ〜現代音楽をカバーするライブ〜

10月5日(日) 開場 15:00/開演 15:30

会場:横濱エアジン

出演:shezoo(ピアノ)、壷井彰久(ヴァイオリン)、土井徳浩(クラリネット)、加藤里志(サックス、フルート)、水谷浩章(ベース)、ユカポン(パーカッション)

♪Bela Bartok- Mikrokosmos, Volume VI, 148-153

クロード・エルフェとホーカン・アウストボによるバルトークの「ミクロコスモス」で予習。149はすでにシニフィアン・シニフィエのレパートリー、151が今回の新曲。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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