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霜降り明星・粗品の「1人賛否」に集まる賛否、そして定番の台詞「ただぁ!」が与えるいくつかの効果

田辺ユウキ芸能ライター
霜降り明星・粗品(写真:つのだよしお/アフロ)

お笑いコンビ、霜降り明星の粗品がYouTubeチャンネル『粗品 Official Channel』でおこなっている恒例企画「1人賛否」の賛否が分かれている。

同企画は、話題になっている出来事や人物に対して粗品が「賛否」をまじえて持論を展開するもの。動画が更新されるたびにネットニュースでもトーク内容が取り上げられるなど、芸能ネタとして定着。後述するが、今後はこの「1人賛否」をフォーマットとする動画がTikTok、YouTubeなどSNSのユーザー間でも流行しそうな勢いだ。

木村拓哉への「容姿いじり」などで「否」の意見も多数

人気コンテンツではあるが、その遠慮のない発言や、先輩であっても呼び捨てにする態度などから、「否」の感想は多数噴出している。

5月6日の投稿動画で粗品は、ドラマ『Believe 君にかける橋』(2024年/テレビ朝日系)で主演をつとめる木村拓哉に言及。番宣素材上の木村拓哉の背丈について、身長163センチの相方・せいやと比較して「(以前会った際)俺の首の角度が、せいやと目が合ってるときよりも下やった」「たぶんキムタクは161センチとか?」などと話した。加えてかつて挨拶をしたときに無視をされたエピソードまで暴露。そういった内容から、木村拓哉のファンを中心に強い反発があった。また背丈に関するトークであったことから「容姿いじり」として捉えられ、その点では木村拓哉のファン以外からも否定的な感想が挙がっていた。

以前より粗品は、ベテランの漫才賞『THE SECOND』について「15年以内に成功していない人らのネタの大会。しゃあないかなって感じちゃう」とレベルを疑問視したり、講談師・神田伯山のことを「全然おもんない」とこきおろしたりすることもあった。そういった内容に対し「調子に乗っている」「暴走」と表現されることも少なくない。

人が言いづらいこと、聞きづらいことも遠慮なく持ち出してオチをつけるスキル

ただ、そうであってもこの「1人賛否」は粗品の高い実力を認めざるをえないコンテンツである。

「遠慮のない発言」と前述したが、粗品のすごさは、人が踏みこみづらいことも上手に触れられるところだ。これはややテイストが異なる例だが、自身の単独公演に余命宣告をされた「太客」(粗品のゲーム配信内で1万円以上の高額課金(スーパーチャット)をしてくれたファン)が来場した際、「3年後に生きている確率が10パーセントです」と聞いて「でも俺な、宇宙戦艦ヤマト(のパチンコ)の継続率90パーセントのやつ、1連でよう終わるから大丈夫やで」と粗品らしい切り返しで励まし、その上で「3年後に亡くなってしまうかもしれないのか?」という旨を尋ねるなどもした。本来、そういった直接的な言葉をかけるのはためらわれるもの。しかしその辺りも躊躇なく聞いて、芸人として笑いも起こしながら最後に「頑張れ」と言えるのは、なかなかできることではない。

メンバー数が減少したアイドルグループのKing&Princeに対する「今の状態のキンプリ、誰が見るねん」という過去の発言など、明らかに暴論と感じるものも少なくない。それであっても粗品は、人がちょっと言いづらいこと、聞きづらいことも遠慮なく持ち出してそれにオチをつけるスキルは異様に優れている。彼のそういった才能は「1人賛否」でもしっかりうかがうことができる。

「1人賛否」はコント=お笑い、先輩芸人ならおもしろく返せるはず

また粗品は、この「1人賛否」をコントであると語っている。つまりは「お笑い」なのだ。粗品は権威を持つ芸能人や先輩のお笑い芸人に噛み付くことが多いが、これを「お笑い」としている以上、本人は「お笑いにはお笑いで返してみれば良いじゃないか」という気持ちがあるのではないか(もちろん木村拓哉などはこれに当てはまらない)。

特に先輩芸人を標的にした場合「先輩なんだから、もっとおもしろい返しができるんじゃないですか」と言いたげでもある。話題になった「ユーチューバーはおもんない」の発言にしても、「ユーチューバーがおもしろいのであれば、ネタ振りをするので、おもしろい返しをしてみてくださいよ」というワケだ。それを真顔で反論されると、粗品的には「おもんないのぉ」になるのでは。

あとなにより粗品には『M-1グランプリ』と『R-1グランプリ』の優勝者という勲章を持っているところが大きい。「おもしろい」が評価される大会で、大金をつかみとり、知名度を手に入れた。笑えるという意味での「おもしろい」を追求する分野のエキスパートなのだ。お笑い芸人に限った場合、ほとんどが『M-1』や『R-1』に出て敗北している手前、粗品が「笑い」としているものは批判しづらいのも事実。その説得力に勝るものがなかなかないのだろう。

もう一つ重要なのは、むやみやたらに「否」を唱えているワケではないところ。5月20日更新の動画では、元雨上がり決死隊の宮迫博之が始めたトークレクチャーなどをおこなう事業「月額50万円の顧問制度」について「(値段が)高すぎるなあ」とコメントしたが、それは多くの人がなんとなく感じていることではないか。またその事業内容への疑問も然りだ。それをズバリと斬った。2月26日更新動画では、当て逃げ事故で芸能活動を自粛していた藤本敏史(FUJIWARA)の謝罪と復帰の報告動画に対し「活動自粛されていた割には顔がパンパンに太られていた」と皮肉った一方で、「藤本さんの芸風とか、あの人どうなんの。人をイジるようなことばっかりしてた人やから。『誰がそれ覚えてんねん』みたいなマイナーなニュースのことも掘り起こして言うみたいなのがおもしろかった人じゃないですか」と鋭い指摘もあった。

毒舌ながら核心をついた話でもあり、ファンでなくても思わず頷いてしまう意見も含まれている点が、「否」だけでなく「賛」のムードを広げている要因だ。

「ただぁ!」は汎用性が高く、「そこ、試合決定で」同様につい口にしてしまう

なにより「1人賛否」のなかで、賛辞を一転させて否定しまくる展開に持ち込むときに必ず口にする台詞「ただぁ!」が非常に効果的。とにかく「ただぁ!」は汎用性が高い。格闘技の人気コンテンツ「BreakingDown」で本戦出場選手を決めるオーディション時に主宰・朝倉未来が発していた「そこ、試合決定で」と同様、「ただぁ!」もつい言いたくなる要素を秘めている。学校、飲み会などでの友だち付き合いの場でも使いやすそうだ。

あとこれはルール違反なことだが、「1人賛否」は非公式の切り取り動画がTikTokなどで多数“流出”している。そして事実、多くのユーザーがそういった非公式の切り取り動画を観ている。もし粗品が「ただぁ!」を言わずに「賛否」のトークを展開し、その一部分が動画で切り取られれば、それを視聴したユーザーから単純に「粗品が悪口や批判を言った」と受け止められるのではないか。

しかし「ただぁ!」の一言が挿みこまれているだけで、「単なる悪口や批判ではないのでは」、「『ただぁ!』の前にどんなことを言っているのか気になる」となり、ひとまずネタ元の「1人賛否」を観てみるきっかけになる。前述したように粗品は、口は良くないにしても批評としては真っ当なことを言っている場合が多い。なにより話芸としてすごい。ネタ元をたどれば彼なりの真意をつかむこともできる。木村拓哉の件の動画にしても、それを肯定的に観るかどうかは視聴者次第だが、粗品にとっては芸能界の先輩に無視されたという理由づけはあり、あくまで同件に関してはやみくもに攻撃したものではない。

粗品本人が意図しているかは分からないが、「ただぁ!」はいろんな効果や可能性を持っているように感じられる。

今やなにをしても脚光を浴び、またどんなことでもコンテンツ化できるのが、粗品というお笑い芸人である。ダウンタウンの松本人志もTwitter(現・X)やバラエティ番組でその才能を絶賛していた。そんな松本人志の不在が濃厚な2024年の『M-1グランプリ』では審査員候補にも挙げられている。お笑いシーンは「粗品時代」が近づいてきているが、その流れにも賛否が集まることは間違いない。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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