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『M-1』王者・令和ロマンが若手賞レース『ABCお笑いグランプリ』へ異例の参戦、2つの狙いを読み解く

田辺ユウキ芸能ライター
(C)ABCテレビ

『M-1グランプリ2023』王者の令和ロマンが『第45回ABCお笑いグランプリ』にエントリーし、準決勝(6月21日開催)進出を果たしたことが6月3日、発表された。

『ABCお笑いグランプリ』は、デビュー10年以内の若手芸人を対象とした大会。漫才、コント、ピン芸などなんでもありの「お笑い異種格闘技」として毎年、注目を集めている。今大会は568組がエントリーし、一次選考の末に45組が準決勝へと駒を進めた。

2011年まで『ABCお笑い新人グランプリ』という大会名で、関西で活動する5年以内のコンビが出場対象だった。しかし2012年以降は、全国で活動する10年以内(グループであればメンバーのいずれかのプロデビュー年が起点)の芸人に参加資格が与えられた。決勝戦では、ファイナリスト12組がA・B・Cブロックに振り分けられファーストステージを戦い、各ブロックの勝者3組がファイナルステージで争って優勝者を決める。現行ルールになってからの優勝者には、かまいたち(2012年)、ジャルジャル(2013年)、霜降り明星(2017年)、オズワルド(2021年)といった売れっ子の名前も並んでいる。

同大会に『M-1』王者がエントリーしたのは史上初。なによりこういった「若手芸人の登竜門」として知られるお笑いの賞レースに『M-1』の優勝者が参戦すること自体が異例である。

2023年の同点準優勝の悔しさを晴らす意味、そして『M-1』連覇への布石

『第44回ABCお笑いグランプリ』で優勝したダブルヒガシ、ファイナルステージでは令和ロマンと同点だった/(C)ABCテレビ
『第44回ABCお笑いグランプリ』で優勝したダブルヒガシ、ファイナルステージでは令和ロマンと同点だった/(C)ABCテレビ

令和ロマンが『第45回ABCお笑いグランプリ』にエントリーした理由は2つ考えられる。

1つは、2023年の第44回大会で同点準優勝だった悔しさを晴らすため。決勝戦のファーストステージを通過した令和ロマンは、ファイナルステージで、素敵じゃないか、ダブルヒガシと激突。審査の結果、671点でダブルヒガシと大会史上初の同点に。そして大会規定により、ファーストステージの得点が高かった方に軍配が上がることになり、ダブルヒガシが王者となった。ダブルヒガシの大東が「1本目(のネタ)、サボらんで良かった!」と歓喜するなか、やや呆然とした感じで勝者を讃える令和ロマンの姿が印象的だった。

ちなみに令和ロマンは、2022年大会、2023年大会と2年連続で準優勝。高比良くるま(註1)、松井ケムリのなかにも「このままでは終われない」「忘れものを取りに来た」という熱い気持ちがあるのではないだろうか。二人にとって『ABCお笑いグランプリ』は意地でも欲しい、因縁のタイトルなのかもしれない。

※註1:高比良くるまの「高」は正しくは「はしごだか」

もう1つは、「『M-1』連覇」への布石を打つような意味合いではないだろうか。

『M-1グランプリ2023』で優勝した直後、令和ロマンの高比良くるまは壇上で「来年(2024年)も出ます」と宣言。早くから『M-1』2連覇を目標として公言していた。その一方で、お笑いファンらの間では「本当に出るのか」と半信半疑な雰囲気も漂っている。なにより令和ロマンは、漫才の頂点に立った身。どんな物事でもそうだが、一度なにかで達成感を得ると、普通であれば気持ちが一旦落ち着いてしまうもの。実際、6月1日更新の鬼越トマホークのYouTubeチャンネル内で高比良くるまは「尋常じゃなく虚しかったです」と目指すものがなくなった感覚に陥ったことを振り返り、松井ケムリも「確かにやることないなと思ったんですけど」と話していた。

だからこそ令和ロマンとしては、若手芸人たちがしのぎを削る『ABCお笑いグランプリ』にエントリーして、もう一度、自分たちを戦うモードへと持っていこうとしているのではないだろうか。つまり今回のエントリーは、『M-1』連覇への本気度のあらわれと捉えることができる。

結果を残さなければ「話題作り」と言われる可能性大、また勢いに乗るライバルの存在も

ただ、令和ロマンがスムーズに準決勝を通過し、7月7日の決勝戦へ進出できるとは思えない。

準決勝を審査する側も「『M-1』王者だから決勝へ進んで当たり前と思われてはいけない」と、見る目が厳しくなることが考えられる。この点が非常に難しいところで、仮に令和ロマンが決勝戦へ進んだとしても相当な結果を残さないと、「『M-1』王者を贔屓して決勝戦へ上げた」「話題性作り」「主催のABCテレビは『M-1』もやっているから」などと言われかねない。ほかの出場芸人よりも、令和ロマンは背負うものが今回はたくさんあるのだ。

また、ライバルの顔ぶれもすさまじい。準決勝進出者には、2024年の『第54回NHK上方漫才コンテスト』の優勝者であるフースーヤ、『THE W 2022』の優勝者で関西の賞レースも獲りまくっている天才ピアニスト、2023年の『UNDER5 AWARD』や『マイナビ Laughter Night』第9回チャンピオンなど若手大会で実績を残す金魚番長、2022年、2023年の『ABCお笑いグランプリ』決勝戦で存在感を示した8人組のダウ90000、『M-1グランプリ2023』敗者復活戦で高評価だったナイチンゲールダンスとエバース、2024年の『第13回ytv漫才新人賞』優勝の空前メテオと同準優勝のぐろうなど、錚々たる面々だ。

なかでも令和ロマンのライバル筆頭となりそうなのが、フースーヤではないか。賞レースには不向きとされるギャグの応酬漫才で『第54回NHK上方漫才コンテスト』を制するなど、いまもっとも勢いに乗るコンビだ。筆者が2023年にフースーヤをインタビューしたときも、「他の人からは『喋りもおもろいんやから、そういう漫才をやったら?』『そのスタイルはきついんちゃうか?』と言われたことも何回かありました。でも俺らはこれでおもろいことをやりたいし、これで認めさせたい」(田中ショータイム)、「50歳、60歳になっても今みたいなギャグ漫才をやり続けていたい」(谷口理)と決意を固めて、ギャグ漫才をやり続けてきた。結成8年目でついにタイトルを獲得するなど、実績としてそれがあらわれるようになってきた。現在のフースーヤなら“令和ロマン食い”の可能性も十分だ。

例年以上に盛り上がりそうな『第45回ABCお笑いグランプリ』。令和ロマンは悲願の優勝を果たせるのか、それともそれを阻む存在が現れるのか。準決勝は6月21日、決勝戦は7月7日に開催される。

『第45回ABCお笑いグランプリ』準決勝進出者
春とヒコーキ/きつね日和/かが屋/フランツ/ダウ90000/ハマノとヘンミ/青色1号/オッパショ石/ぎょねこ/豆鉄砲/ゼンモンキー/金の国/Gパンパンダ/こたけ正義感/友田オレ/フランスピアノ/レインマンズ/鈴木ジェロニモ/キャプテンバイソン/涼風/シンバルモンキー/伝書鳩/狛犬/ナイチンゲールダンス/エバース/イチゴ/プール/10億円/オフローズ/軟水/ヨネダ2000/エルフ/金魚番長/令和ロマン/ぎょうぶ/天才ピアニスト/空前メテオ/cacao/フースーヤ/どんちっち/ウイスキーカノン/ぐろう/やました/はるかぜに告ぐ/三遊間

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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