Yahoo!ニュース

結局、北陸新幹線はいつ全線開業するのか? 難題の京都駅付近、案によって時期が変わる

小林拓矢フリーライター
北陸新幹線W7系。新大阪開業時には車両も変わっているだろう(写真:イメージマート)

 この3月に金沢~敦賀間が開業した北陸新幹線。敦賀駅の構造を見てもわかるように、ここで終点とする、ということはない。計画では、敦賀から先、新大阪まで向かうことになっている。

 しかし、敦賀から先はまだ着工の見通しが立たない。

 長大なトンネルの工事もさることながら、京都駅や新大阪駅の工事をどうするかといった問題が発生している。

 先日、国土交通省鉄道局と鉄道・運輸機構が、北陸新幹線敦賀~新大阪間の詳細駅位置とルートの案を公表した。

 全体的に見ると、小浜市を経由するルートを採用しているものの、京都駅付近は3案に分かれ、案によって工期や予算が異なっている。

 最短で2028年に着工し、それから25年以上かかることになる。どんなに早くても2053年以降だ。

北陸新幹線敦賀~新大阪間のルート(鉄道・運輸機構発表より)
北陸新幹線敦賀~新大阪間のルート(鉄道・運輸機構発表より)

地下水の課題は解決するのか?

 ルートは当初計画されていたように、小浜市を経由し京都駅付近へ。そこから京田辺市を通り、新大阪駅へ。

 このルートでは、京都市周辺エリアの地下水への影響について懸念の声が上がっていた。シールドトンネル掘削の際には、地下水を引き込まないように工夫された工法を採用する。外部からの圧力に対して、シールドマシン内部から同等の圧力をかけることでバランスを取り、地下水を引き込まない状況を保持しながら掘削を行うことにする。また、セグメントの接合部に水膨張性ゴムを設置し、セグメント接合部から地下水を引き込まないように工夫している。

 地下水への影響に関しては、この工事でつくるシールドトンネルの性質もさることながら、複数の帯水層の間に難透水層があり、その層の下にシールドトンネルを通すことで解決しようとしている。その分、京都市内のトンネルは深くなる。

 広大な地下水域に対して、シールドトンネルは「点」の構造物となっており、地下水への影響は小さいというのが国土交通省や鉄道・運輸機構の考え方だ。

「解決した!」とは言い切れないまでも、ある程度京都市内で地下水問題を心配している人に対しての答えにはなっている。京都市内のルートも、人が多くかつ地下水利用がさかんなところを避けている傾向がある。

工期はどれくらいになるのか?

 長大な山岳トンネルは、おおむね20年の工期となっている。この工期は、「働き方改革」で5年プラスする可能性もある。新大阪駅の工期は、おおむね25年程度である。

 課題が大きいのは京都駅だ。各案を見ていこう。

 まずは京都駅周辺を東西に横切る東西案である。この案は地下鉄烏丸線などのいまある地下構造物を避けるため、駅が地表から約50mと深くなり、ほかの案よりも工期が必要になっている。東海道新幹線の京都駅が近く、地下鉄烏丸線を下から支えながら施行する必要があるため、工事の難易度が高くなっている。八条通の交通規制も必要だ。この案では、工期が28年程度となっている。

 次に京都駅付近を南北に横切る南北案である。この案は、駅を作るにあたって大型物件(おそらくイオンモール京都)の用地協議・取得が必要なことが課題だ。JRの在来線や東海道新幹線とは八条通を挟んでいるため、施工管理上の影響はない。工期は20年程度だ。

 最後に、桂川駅近くを通る桂川案である。東海道本線をアンダーパスする府道などの地下構造物を避けるために、駅が地表からおよそ50m下と深くなっている。また東海道本線が近くにあるので、工事が難しい。工期は26年程度だ。

 東西案は概算事業費が3.7兆円程度(物価上昇を見込むと5.3兆円程度)、南北案は3.9兆円程度(物価上昇を見込むと5.2兆円程度)、桂川案は3.4兆円程度(物価上昇を見込むと4.8兆円程度)である。

京都エリアの詳細ルート図(鉄道・運輸機構発表より)
京都エリアの詳細ルート図(鉄道・運輸機構発表より)

どの案がモア・ベターか?

 乗り換えなどがしやすいように駅施設などの構造物を利便性のいいものにするか、工期を短縮してなるべく早く作るか、とにかく安く作るか、といった選択肢が提示されている。

 だが、安さ第一の桂川案は、京都駅から在来線にいったん乗るという点で不便さがある。となると、京都駅で乗り換えられる東西案か南北案という選択肢になる。

 南北案を採用した場合、大型物件にお金を払って立ち退いてもらえば工事はできてしまうものの、東京駅の京葉線ホームのように駅の主要部分から大きく離れた場所にホームができる、という状況になりかねない。京都駅の在来線からは約13分で乗り換えられるものの、心理的な遠さはけっこうなものになるのではないか。今後できる札幌駅の北海道新幹線ホームのように、既存の駅からの利便性が悪いという印象を与えかねない。コストパフォーマンスはいいものの、悪い印象を与えかねない場所にある。

 残るは東西案。工期は長く予算もかかる。だが京都駅の在来線から約11分となっている。東北・上越・北陸新幹線の上野駅地下ホームのようなものであろう。利用者の利便性から考えると、これが第一のように思える。

 だがこの案を採用すると、どんなに早くても2056年全線開業となる。いまから32年先だ。予算不足の問題を考えると、北海道新幹線が全線開業してから北陸新幹線に資金を投入するしかない。いっぽうで国はリニア中央新幹線の全線開業を急ぎたいという意向も示している。予算不足・人手不足・資材不足の中、想定通り工事ができるとは限らない。

 北陸新幹線全線開業は、最低でも29年先~32年先であり、普通にいけば40年先の2064年以降となる可能性もある。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事