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東京五輪セーリング競技を蒲郡で開催!? 蒲郡市長を直撃してみた

大宮冬洋フリーライター
海陽ヨットハーバーにて。稲葉市長の後ろを豊田自動織機49erFXチームが快走中

3日前に一部の新聞で「東京五輪セーリング競技 蒲郡 開催立候補へ」といった報道がなされた。「カマグンってどのへん? 蒲田駅の近く?」と思った読者もいたことだろう。

カマグンではない。筆者も3年前から住んでいるガマゴオリである。関東地方ですらなく、愛知県東三河地方の港町だ。

なぜ東京五輪の競技を愛知でやるのかという疑問はよぎるが、新聞記事によれば東京圏の候補地(東京の若洲沖、千葉の稲毛、神奈川の江の島)にはそれぞれ「羽田空港が近すぎて空撮ができない」「競技水面やマリーナの面積が狭い」「観光地として人気過ぎる」といった問題を抱えているという。

では蒲郡は大丈夫なのか。そもそもセーリング(ヨットとウィンドサーフィン)競技のどこが面白いのだろうか。学生時代は選手として全国大会に出場した「ヨットマン」でもある稲葉正吉・蒲郡市長を直撃した。

――蒲郡が2020年の東京五輪開催地に立候補、という新聞記事を見て驚きました。

立候補という表現はちょっと違うのです。セーリング競技の実施は日本セーリング連盟が責任を持って行います。本来は若洲でやるつもりだったのが、航空管制上の問題でヘリコプターを飛ばせないことがわかって代替地を探しており、その一つとして蒲郡を選んでもらいました。県としても市としても「オリンピックをやっていただけるなら大いに歓迎します」とアピールしているところです。

――蒲郡には県営「海陽ヨットハーバー」(1993年開業)がありますね。世界選手権や国体が開催されるほどの実績があるとは知りませんでした。

この後、一緒にヨットハーバーを見に行きましょう。広いですよ。600艇は余裕で泊められるのに今でもガラガラです。プレスセンターとして使える施設も十分にありますし、(バックヤードなどに使える)未使用地もあります。

国体では必ず前年にリハーサル大会を行って、競技関係者の運営能力を上げることを図ります。オリンピックの場合は「プレ」に加えて「プレプレ」の大会も開かれます。つまり3年間に渡って夏の数週間、ヨットハーバーを借りなければなりません。本大会では選手と関係者を含めて1000人規模で宿泊できる施設が必要です。セキュリティのためにはあまり分宿するのは望ましくありません。ただでさえ混んでいる江の島で実施できるのでしょうか? 蒲郡ならまったく問題ありません。

――江の島のように歩いて渡れる島(竹島)があり、かつては温泉地として栄えた蒲郡も現在はさびれつつあるのは確かですよね。蒲郡随一の観光スポット「ラグーナテンボス」に隣接する海陽ヨットハーバーが脚光を浴びるのは珍しく明るいニュースです。

問題は世界レベルで見ると風が少ないことぐらいですね。しかし、これは三河湾でも東京湾でも同じです。世界選手権の実績もありますし、オリンピック開催も十分に可能です。

――市長は愛知大学の学生時代からヨットに親しんできたそうですね。なぜヨット部に入ろうと思ったのですか?

中高ではスポーツをやりませんでした。私は3月生まれなので同級生に比べて体力が劣っていたからです(笑)。高校生になって急に身長が伸びて、体格もようやく人並みになった。大学に入ったときに「みんなが大学から始めるので正選手になれる可能性があるスポーツをやろう」と思ったのです。馬術やホッケーなどの候補もありましたが、私は海沿いの町で生まれ育って小さい頃から魚釣りや水泳をしていたので海のスポーツであるヨットを選びました。大学では選手としてインカレに出場。社会人になってからは監督として国体に出ました。

――ヨット部は金持ちの学生しかいないのでしょうか。葉山で石原裕次郎が遊んでいるというイメージです。

そんなことはありません。ヨット自体は新品だと1千万円以上するし、維持費もかかりますが、学生のときはOBからの寄付で賄っていました。それでも毎週末の合宿費を払うのが大変だった記憶があります。金曜日の夜に合宿所に集まって、土日はみっちり練習するのです。食事に充てるお金が少ないので、味噌汁・ご飯・タクアンだけの週末を4年間過ごしました。せめて卵が食べたい、といつも思っていましたよ(笑)。それだけに結束は固くて、大学の学部を聞かれたら「ヨット部です」と答えていました。いま、仲間たちと持っている船は「ヤマハ31EX」の中古艇です。400万円しましたが8人で割ったので一人50万円。年間の維持費も一人当たり10万円です。

――それぐらいならば社会人の趣味としては可能ですね。よく海に出ているのですか?

市長になってからは忙しくてほとんど行けていません。昨年は半日を3回だけ。釣りに行くぞって仲間に声をかけてね。基本的にはエンジンで移動しますが、時間があるときはマストに帆をはります。以前は、鳥羽や答志島(ともに三重県)まで船で行って泊まってくることもよくありました。自然を相手に体を動かすのは面白いですよ。ヨットは、風を感じながら海の上を走っていくのです。(エンジン音がないので)聞こえるのは波の音だけ。ものすごく気持ちいい体験です。

年に一度の整備も楽しい。船を陸に上げて、まずは船底にびっしりついたフジツボを取り除きます。その後は、分担してペンキを塗り直したり、エンジンやバッテリーの調整をしたり。船大工や料理係も必要です。それぞれ得意分野があるもの。私はペンキ塗りが中心ですが、(宴会や宿泊をする)宿を見つける係も担当しています。みんなで集まってワイワイと作業するのは楽しいですよ。

――海陽ヨットハーバーのある三河湾は知多半島と渥美半島に抱かれていて静かですが、外海に出ると波が高そうですね。危ないことはないのですか。

海はどこでも危ないですよ。穏やかそうに見えても、一瞬にして急変して牙をむきますから。30代の頃、伊良湖水道(渥美半島の先端・伊良湖岬と三重県神島の間。名古屋港や三河港に向かう大型船舶が頻繁に行き来する)付近をヨットで出かけた際、前線通過に遭ってしまいました。視界がすべて海になってしまうほど巨大な波の中に入り、ものすごく怖かったことを今でも覚えています。こういうときは海のなすがままになるしかない。無駄に船を操ろうとして海に落ちてしまったらまず拾えません。「みんな動くな!」と声をかけ合って前線が通り過ぎるのを待ちました。

このような怖い経験を何度かして、「決して無理はしない」ことの大切さを身に染みてわかって初めて海の人間になるのだと思います。今では天候などで危険がわかっていたら絶対に海に出ません。平穏な海の上でおしゃべりをしていても、天気の急変や他の船の動きなどにはみんなで常に注意しています。「あそこの雲行きがおかしいね。そろそろセールをたたんじゃおう」「あの漁船の動きを見ておいてね」などと言い交わすのです。

――楽しみながらも緊張感を持って備えること、仲間とのコミュニケーションを大事にすることは陸上の社会生活にも役立ちそうですね。

その通りです。シーマン(海の人間)の躾の一つに「右舷警戒、左舷見張れ」という言葉があります。何か危険があって警戒をするときも、誰か一人は違う方向を見ておけ、という教えですね。「遠くの灯台、足元の提灯」という表現も私は好きです。遠くにある灯台を目指しながらも、近くもきちんと照らさなければならない。市長の仕事である街づくりにも通じると思っています。

市役所でのインタビューの後、海陽ヨットハーバーに移動した。広々とした敷地に新しい設備が揃っている。にもかかわらず、停泊しているヨットは確かに少ない。人影もまばらだ。「もったいないなあ」と感じた。

一艇だけ港内で練習をしているヨットを見つけた。豊田自動織機所属の波多江慶(ちか)選手と板倉広佳(ひろか)選手による女性チームであり、来年のリオデジャネイロ五輪などに向けて猛特訓中らしい。コーチの鈴木恵詞さんが稲葉市長を見つけて走り寄ってきて、「オリンピックでメダルを取ります!」と元気に宣言していた。

海を相手にスポーツをする喜びと怖さを知り尽くす気さくな市長がいる蒲郡市。東京からも新幹線を使えば2時間で観戦に来られる。東京五輪のセーリング競技はわが町・蒲郡での開催に決定、と勝手に確信した。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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