【JAZZ】ジャズ・ギターが変革する予兆を秘めた小沼ようすけ『GNJ』
小沼ようすけが2014年10月にリリースした、個人名義としては4年ぶりとなるアルバムが『GNJ』だ。
2001年にアルバム『nu jazz』で衝撃的なデビューを果たした彼も40歳。これまでアルバムごと、定期的なライヴ・ツアーごとに新境地を切り拓いてきた彼だが、今回のアルバムでは“新たな分野に乗り出した”的なニュアンスよりも、“掘り下げた”“深みを増した”といった印象をより強く感じる。
“四十にして惑わず”と言われるが、ひらめきに加えてギターの立ち位置を含めた世界観を全面に出し、音楽活動の成熟期に突入したことを知らせる“狼煙”の役割を果たすのが、本作ではないだろうか。
ジャズ・ギターが抱える革新と保守の二面性
タイトルは“Green Note Jazz”の略とのこと。
ジャズ独特のサウンドを表現する言葉に“ブルーノート”がある。これをふまえて小沼ようすけは、この数年取り組んできたオーガニックでナチュラルな自身のサウンド・コンセプトを対峙させる。
ジャズの“本筋”と言われる“ブルーノート”に対して、「ちょっと待てよ」と言っているに等しいのだ。
ジャズという音楽は、革新的であることを求める一方で、イメージの部分では保守的であることを捨てようとしない。このアンビバレントな性質ゆえに、100年も前のスタイルがいまだに現在進行形のスタイルと拮抗して語られることを許されていると言える。
とくにギターという楽器は、ジャズのルーツでもあるブルースに欠かせないサウンドを担っているため、“ブルースであること”を過度に要求される背景をもっている。その洗礼は、小沼ようすけもうんざりするほど浴びてきているはずだ。
変革を最大に評価するジャズにおいて、ジャズ・ギターのサウンドを変えなければという意識はこれまでも絶えず湧き上がってきた。しかし、変えてしまうとジャズとは呼ばれなくなるというジレンマを抱えていたというのも事実だ。この40年、すなわちロックのテイストを導入したギター・サウンドが席巻した1970年代以降は顕著であり、その結果はジャズが変わったのではなく、フュージョンという“別の名称”を与えられることで一件落着している。
そうした激動の40年のなかに人生がすっぽりと収まる小沼ようすけは、誤解を恐れずに言えば純粋な“ジャズを知らない世代”ということになる。いや、正確にはジャズとフュージョンの異なる流派を吸収した“二刀流”というべきか。
“ジャズのカベ”を越える可能性を提示
冒頭で、GNJはGreen Note Jazzの略で、ブルーノートへの対抗概念と、オーガニックでナチュラルなコンセプトを表現しようとするものだと述べた。
オーガニックでナチュラルなジャズへのアプローチはこれまでも多くのアーティストによって試みられてきたが、ブルースに歩み寄ろうとしなかったものはスムーズという括りに分けられ、歩み寄ったものでもクラブジャズのようなサブ・ジャンルに甘んじて、メインストリームを形成するまでに至っていない。
本作で小沼ようすけが示した“グリーン”というコンセプションは、ジャズ・ギターが越えようととチャレンジし続けて越えられなかったカベを“越えるかもしれない”というほど大きな可能性を秘めていると考えている。
これから小沼ようすけを通してジャズ・ギターを体験することになるボクたちは、その可能性が提示するであろう“未来の音”が徐々に明らかになっていくようすに直面できるはずだ。楽しみにこの展開を待ちたい。