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毎年2軍で最多登板の釜山ロッテの左腕は、なぜ1軍でたった1試合しかチャンスがないのか?

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
チョン・テスン(写真:ロッテジャイアンツ)

筆者は2004年から毎年、「韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑」という本を刊行している。今年はKBOリーグ所属選手598人の寸評を書いたが、その過程でとても気になる選手が1人いた。ロッテジャイアンツの左腕投手、チョン・テスン(33)だ。

チョン・テスンは2017年から昨年まで、4年続けて2軍での登板数がチームで最も多かった投手だ(17年40試合、18年47試合、19年36試合、20年35試合)。一方でその間の1軍登板はというと、17年はゼロ。18年は3試合、19、20年はそれぞれ1試合しかなかった。

2軍は1軍でのプレーを見据えて経験を積み、レベルアップを図る場所だ。2軍でたくさん投げても、年俸が跳ね上がることはほぼない。実際にチョン・テスンの年俸は19、20年と据え置きで、リーグ最低年俸よりわずか100万ウォンだけ多い2800万ウォン(約266万円)だった。21年は最低年俸が3000万ウォンに引き上げられたこともあり、3200万ウォン(約304万円)に微増した程度だ。

なぜチョン・テスンは2軍で誰よりもマウンドに上がっても、1軍昇格の機会を得られないのか。本人に尋ねると、とても冷静な答えが返ってきた。

「自分がチーム内で貴重な左投手という点はあっても、1軍登録の13~14人の投手と比べた時、実力が足りないと思っています」

チョン・テスンが昨季1軍登板した1試合は7月17日のサムスンライオンズ戦。2-4の4回裏、2番手投手としてマウンドに上がり、1回2/3を投げてカン・ミンホに喫したホームランを含む4安打、2四球、4失点という内容だった。この結果を本人の言葉通り、「実力不足」と見ることもできる。しかしわずか1回の登板で登録抹消されたことに疑問も感じる。

それについてチョン・テスンは「僕はこのチームで、1回の小さな失敗も許されない立場だということはわかっています。1軍に1度も上がっていない投手よりも、僕は機会をもらっていると思っています」とチョン・テスンは話した。ではコーチはチョン・テスンをどう見ているのか。

現役時代、自身も左投手だったカン・ヨンシク2軍投手コーチは、「正直、チョン・テスンにはバッターを圧倒するような、『これ』という長所がないのか現実です。若手選手であれば育成目的として、1軍で2、3度チャンスが与えられますが、(チョン)テスンは年齢も上ですし、結果を見せないといけない投手ではないかと思います」

コーチのチョン・テスンへの評価も厳しいものだった。しかし2人ともあきらめているわけではない。

「テスンとたくさんの時間を共に過ごして、球速アップのために取り組んできました。ボールに動きを出そうとツーシームに着手したところ、バットの芯でとらえられるケースが減っています。カーブもバッターの空振りを誘うには物足りませんが、努力は続けています」(カン・ヨンシクコーチ)

ロッテの2軍から1軍への昇格の仕組みは2軍首脳陣からの推薦ではなく、チームで共有しているデータを基に総合的な判断によって決定しているという。それによるとチョン・テスンは球速、ストライクの比率などが1、2軍のボーダーラインにあり、「左投手が足りない」というロッテのチーム事情はあっても、すぐに1軍から声がかかる状況ではないようだ。

そのロッテ1軍に最近ある変化があった。5月11日、1軍のホ・ムンフェ監督が成績不振を理由に事実上の更迭。ラリー・サットン2軍監督が1軍の指揮を執ることになった。サットン監督は昨年1年間、チョン・テスンのことを見ている。

チョン・テスンはサットン監督について「僕をクローザーとして使ってくれて、今年は『昨年のペースを維持すれば大丈夫』と言ってくれました。チョン・テスンの昨季の2軍成績は0勝1敗7セーブ、防御率1.69だった。

1、2軍のボーダーラインに立ち、ワンチャンスにかけるチョン・テスン。彼はプロ10年目の今年が最後の機会と覚悟を決めて、2軍のマウンドに上がっている。

(本記事は筆者がスポーツ朝鮮に韓国語で寄稿したコラムを、日本語で再編集したものです)

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FM那覇)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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