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米国防総省「中国の軍事力2020」報告書のミサイル推定保有数の読み方

JSF軍事/生き物ライター
米国防総省より「中国の軍事力2020」報告書

 9月1日、アメリカ国防総省が毎年提出している「中華人民共和国が関与する軍事および安全保障の進展に関する報告書」の2020年版が発表されました。

DOD Releases 2020 Report on Military and Security Developments Involving the People's Republic of China [SEPT. 1, 2020]

 報告書は200ページと文量が多いので、ここでは中国軍のミサイル部隊「火箭軍」のミサイル戦力について見ていきます。

アメリカ国防総省の「中国の軍事力2020」報告書より
アメリカ国防総省の「中国の軍事力2020」報告書より

 上の2020年の報告書の表に掲載されているのは中国軍の火箭軍の主要な地上発射ミサイルの大まかな推定保有数です。下の2019年の報告書の表の数字との差異から読み取れる意味は以下の通りです。

アメリカ国防総省の「中国の軍事力2019」報告書より
アメリカ国防総省の「中国の軍事力2019」報告書より

予備弾を含めた推定保有数を書かなくなった2020年版報告書

  • ICBM・・・ランチャー数10基増、ミサイル数10発増
  • IRBM・・・ランチャー数120基増、ミサイル数の正確な数は不明
  • MRBM・・・ランチャー数は変わらず、ミサイル数の正確な数は不明
  • SRBM・・・ランチャー数は変わらず、ミサイル数の正確な数は不明
  • GLCM・・・ランチャー数10基増、ミサイル数の正確な数は不明

 ICBMは戦略兵器であり搭載されている弾頭は全て核弾頭です。ゆえに一撃で何もかも決めるために予備弾は用意されておらず、ランチャー数=ミサイル数になります。一方、IRBM以下は核弾頭だけでなく通常弾頭を用意して戦術目標を攻撃する用途も担っているので、再攻撃用の予備弾が用意されておりランチャー数<ミサイル数という構図になっています。

「200+」を200発と理解してはならない

 アメリカ軍の「中国の軍事力」報告書の2019年版と2020年版を見比べれば直ぐ分かりますが、2020年版ではミサイルの予備弾数の推定を止めてしまっています。「+」とは「~より上」「~以上」という意味であり、例えば「200+」とは「少なくとも200発はあるけれど正確な保有数は分からない」という意味です。決して「200+」を200発そのままだと理解してはなりません。

 つまりアメリカ軍の報告書は最新版で推定数値がかなり大雑把になりました。正確な数はよく分かっていないと正直に書いたものと思われます。

 2019年の報告書にあるSRBMのランチャー数250基・ミサイル数750~1500発とはランチャー1基あたり予備弾を含めて3~6発という推定です。SRBMはランチャーに1発搭載されているのでランチャー1基あたり予備弾2~5発が用意されて3~6回を撃てるという意味です。同様にMRBMのランチャー数150基・ミサイル数150~450発とは予備弾無しからあるいは3回分まで、IRBMのランチャー数80基・ミサイル数80~160発とは予備弾無しからあるいは2回分という意味の推定値です。

 GLCMは三連装ランチャーなのでランチャー数90基・ミサイル数270~540発とは予備弾無しかあるいは2回分(ランチャー搭載分と合わせて2斉射分)という意味になります

 2020年の報告書ではこれらの数字が消えて「+」という大まかな表現に変わったということは、2019年の報告書でのこの部分の数字は参考程度に捉えておくのがよいでしょう。

※略記号の説明

ICBM 大陸間弾道ミサイル

IRBM 中距離弾道ミサイル

MRBM 準中距離弾道ミサイル

SRBM 短距離弾道ミサイル

GLCM 地上発射巡航ミサイル

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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