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外務省が安倍政権の「功績」を否定?安田純平さんが指摘

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
帰国後に日本記者クラブで記者会見する安田純平さん  2018年11月(写真:ロイター/アフロ)

 今月22日、岸田内閣が、安倍晋三元首相の国葬を、今年9月に行うことを閣議決定した。その理由として、岸田首相らは「安倍元首相は内政・外交で大きな功績を残した」とするが、野党や有権者から反対の声も上がるなど、その是非が論議を呼んでいる。こうした中、ジャーナリストの安田純平さんは、自身にとっての安倍政権の「功績」について触れた。

〇安田さんにとって安倍政権の「功績」とは

 安田さんは、自身のツイッターで、

 私の拘束事件についての安倍政権の“功績”は、拘束者側からの接触を一切無視し、交渉しそうな気配すら全く見せず、拘束者側に何一つ譲歩しなかったこと。「政府が救出」と吹聴する人々は「テロに屈した」とむしろ貶めているに等しいということに気づいた方がいい。

 とツイート。安田さんは2015年6月、取材に訪れたシリアで正体不明の武装勢力に誘拐された。拘束は3年4か月にも及んだが、安田さんはイスラム教に改宗し、犯行グループを自ら説得するなどして、2018年9月末、ついに解放され、帰国した。他方、当時の安倍政権は、「テロリストとは交渉しない」「身代金の要求には一切応じない」として、安田さんの生存証明を確認することもなかった*。

 一方、安田さんは安倍政権時の決定により、憲法上の権利を侵害されている。拘束中に自身のパスポートを取り上げられていた安田さんは、2019年1月、パスポートの再発給を申請したが、その半年後、外務省から通知されたのは、パスポートの発給拒否。現在にいたるまで、安田さんのパスポートは再発給されておらず、この処分は違憲無効だとして、安田さんは2020年1月に裁判を起こしている。

〇外務省が安倍政権の「功績」を否定?

 パスポート発給拒否の理由とされたのが、「安田さんがトルコから入国拒否されている」というもので、筆者が外務省に確認したところ、「旅券法13条1項1号は、渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者について一般旅券の発給をしないことができる旨規定している」とのこと。だが、ウクライナ侵略に対する制裁への報復として、岸田首相はじめ、日本の衆議院議員はロシアから入国禁止処置を科せられた。彼らのパスポートも、理論上は、旅券法13条1項1号で発給拒否できるではないか、なぜ、安田さんのパスポートだけ発給されないのか、と筆者はメールにて問いただしたが、「係争中」を理由に外務省は具体的な回答をしなかった。

 解放時、引き渡されたトルコ側から今後の入国拒否を言い渡されるどころか、VIP待遇を受けた安田さんのケースでは、旅券法13条1項1号は根拠として無理があるため、安田さん自身は、パスポートが発給されない真の理由は、旅券法13条1項1号ではなく、同7号によるものではないか、と疑っている。すなわち、「著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」と外務大臣が判断した人物について、パスポートの発給拒否を行うことができるという規定だ。

 ただ、上記の安田さんのツイートの通り、安倍政権は、安田さんを拘束した犯行グループ側からの接触を一切無視し、交渉しそうな気配すら全く見せず、何一つ譲歩しなかった。つまり、日本としては、安田さん拘束で国益を損なうことはなかったのだ。それにもかかわらず、外務省が安田さんを「日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがある者」としているのであれば、まるで安田さんの解放のため、日本が何か代償を支払ったかのように見え、テロに屈しなかったという「安倍政権の実績」を、外務省が否定していることになる。これについて、安田さんは以下のように疑問を呈する。

 「そのような具体的な証拠は誰一人示していないにもかかわらず、多くの人々が私の解放が『身代金の支払いによるもの』だと思い込んでいます。しかし、そうなると、2015年のIS(イスラム国)による、後藤健二さんと湯川晴菜さんの誘拐・殺害の事件との矛盾が生じます。2人の件では、安倍政権はISから家族への脅迫メールがあった段階から知っていながら『テロに屈しない』を理由に関与を拒否したことが、内閣府の検証委員会報告書から分かります。しかし、私の件で『身代金を払った』ことを外務省が明確に否定しないのなら、身代金を払えば救えた後藤さんと湯川さんの件ではなぜ払わなかったのかということになります。もし、そうであれば、国民の命の扱いに区別をつけた矛盾に答えなければならないし、『テロに屈しない』は交渉しなかった理由にはならないことになるから、安倍政権時の内閣府報告書が何の検証にもなっていない茶番だったことになります」(安田さん)

〇外務省は一切説明せず

 筆者は、誘拐犯による犯罪行為の被害者である安田さんに発給拒否という人権の制限を加えることは「テロに屈した」ということにならないかと外務省に問いただしたが、やはり、これについての回答も無かった。また、安田さんの裁判で外務省側が主張する「安田さんのせいで他国がテロ対策の変更を余儀なくされた」というものについて、具体的な事実は何か、また、そもそも、それを理由にパスポートの発給拒否をすることは妥当なのか、とも質問したが、これも回答拒否。今回、外務省は安田さんのパスポート発給拒否について、何一つまともに回答しなかったが、「移動の自由」(日本国憲法22条)を制限する、重大な人権の抑圧であるパスポートの発給拒否について、外部からその判断が適当か検証できるようにし、救済措置も用意することも必要だろう。

 岸田首相は、安倍元首相の葬儀を国葬とすることの理由として、「民主主義を断固として守り抜く」とも主張しているが、不透明なかたちで個人の人権を制限し、「報道の自由」をないがしろにすることは、民主主義とは相反するものだ。パスポート発給拒否は、受け継ぐべきではない、安倍政権の負の遺産なのである。

(了)

*安田さんの「身代金」については英NGO「シリア人権監視団」が、「カタールが代わりに支払った」と主張したが、同団体はその根拠を求める安田さんの質問にも回答せず、カタール政府も否定。そもそも、安田さんの解放の日時や犯行グループについての情報が誤っており、シリア人権監視団の主張は信憑性がないと見るべきだろう。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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