伊藤詩織さん出席の #metoo シンポジウム、200人超え 出席者が語った #metoo と刑法
2月23日、専修大学神田キャンパスで、ヒューマンライツ・ナウ主催のシンポジウム「#metooからChangeへ~私たちの声をどう生かすか~」が行われた。インドの人権活動家ナンディーニ・ラオさんの講演が行われたほか、性犯罪刑法の更なる見直しを目指す一般社団法人Spring代表理事の山本潤さん、ジャーナリストの伊藤詩織さんがスピーカーとして出席。会場は200人以上が詰めかけ、熱気に包まれた。
シンポジウムでは、性犯罪に関する法律についての言及が目立った。
■インドでは性犯罪刑法に「同意の定義」
インドでは2012年に起こった凄惨な集団強姦事件をきっかけに大きなデモや運動が起こり、性犯罪に関する刑法が変わった。最初に登壇したナンディーニさんは次のように語った。
「(インドの)刑法改正の中の大きな点は、同意(Consent)に関する定義でした。同意に関しては、NOという拒否の主張について、言葉によるものでなくても良い。身体を動かしてのNOもあると。同意しないことがどういうことかが定義されたことが画期的でした」(ナンディーニさん)
「レイプに関する定義も変わりました。これまでは男性器の挿入のみでしたが、他の部位の挿入もレイプと定義され、また被害者の性別は女性だけに限らないように変わりました」(同)
日本でも昨年、性犯罪刑法が110年ぶりに大幅に改正された。インド同様、レイプの定義が女性器への男性器の挿入(膣性交)のみではなく、肛門性交や口腔性交の強要まで含まれることとなり、被害者を女性のみに特定すると指摘のあった「強姦罪」の名称が「強制性交等罪」に変わった。
一方で、インドでは男性器以外の部位(指など)や異物の挿入が「レイプ」と見なされるのに対し、日本では異物挿入は「強制わいせつ」だ。これについて日本国内では、「挿入されるのが何であっても、被害者の傷つきは変わらない」といった批判がある。
また、性犯罪について、日本では「同意」についての定義はなく、論点とされていない。「暴行・脅迫を用いて」行われる性的な行為の強要が強制性交等罪や強制わいせつにあたると定められており、被害者の抵抗の度合いが、レイプか否かの争点となりやすい。被害者が恐怖や困惑から抵抗できなかった場合に罪にならないケースがあり、性暴力の実態に則さないという指摘がある。
■#metooは自分のことを話すだけではなく、聞くことでもある
ナンディーニさんは、インドの人口は13億人であり、「13億人を代表して話すわけにはいかず、これから話すのは一部のこと」と前置きしながらも、インドでは教育や宗教、カーストによってヒエラルキーがあり、性差別を考える上でもヒエラルキーを無視できないと言及。女性の中でも、ヒエラルキーによって享受できる権利が違う状況があることを訴えた。
また、男性やトランスジェンダーの被害を軽視してはいけないことも繰り返し触れた。
「#metoo は単なるハッシュタグではなく、より大きな叫び、スローガンであると思いたいです。世界中の女性が団結とシスターフッド(女性同士の連帯)を感じる、その契機になると思っています。そしてこの活動は、女性だけでなく男性やトランスジェンダーの方も経験を公開していく、拡散していく活動です」(ナンディーニさん)
「この大きな活動のうねりというのは、自分のことを話すだけではなく、聞くことでもある。お互いを理解することでもある」(同)
「女性の怒りは、(性暴力などによって)人生をひどく“変えられて”しまったから。しかし私は、“破壊された”という言葉は使いません。なぜなら女性の人生は、簡単には破壊できないからです」(同)
■親からの性虐待 「警察に行こうと思わなかった」
一般社団法人Spring代表理事の山本潤さんは、2017年の性犯罪刑法改正の際、被害者の立場から意見を訴えた。改正に附帯決議がついたことを受け、3年後に予定されている再度の見直しに向けて、昨年同団体を起ち上げた。著書の『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』で、13歳から7年間、実父から性虐待を受けたことを綴っている。
「当時、自分のされていることが性暴力とは思わなかったし、警察に行こうともさっぱり思わなかった。恐れの方が強かった。私のような、近親姦虐待の人で、きちんと罰せられているケースをニュースなどで見たことがなかったから」(山本さん)
「去年、ようやく刑法が改正されて監護者性交等罪ができたけれど、これはとても狭い範囲。たとえばおじさんやお兄さんは含まれていない」(同)
監護者性交等罪は、18歳未満の子どもを監護する実親や養親などが子どもと性交などの行為を行った場合に適用される。強制性交等罪と異なり、暴行・脅迫要件がない。監護者の児童に対する影響力は大きく、暴行・脅迫を用いずとも言うことを聞かせるのが容易いからという理由だ。しかし、山本さんが指摘する通り、一緒に暮らす親戚やきょうだいからの性加害については、含まれていない。つまり、きょうだいや親戚との性行為は、従来通り暴行・脅迫が用いられた場合のみ罪となる。関係性を利用し、影響力に乗じた性加害については、教師と生徒やコーチと部下などのケースについても問題が指摘されている。
■「日本の性犯罪刑法は40年遅れている」
「(性犯罪刑法の改正が早くから行われていた)カナダや他の国でも、自動的に法律が変わったわけではない。被害の痛みを受けた人たちがいて、応援する輪が広がって、法律やシステムが変わった。日本の場合でも声を上げている人はいました。#metooの前から訴えてきた人たちはいた。でも社会が聞いていなかった」(同)
「日本の性犯罪刑法は他の先進国に比べ40年遅れていると言われています。今も力強い#metooができているのかどうか。被害者が批難されず、声を聞いてもらえているか。影響力のある人たちが『社会が変わらないといけない』と言っているかどうか。(そういった状況でなければ)『私もです』と声を上げることはできないのではないか」(同)
このほか山本さんは、ドイツでは性虐待を被害者が50歳になるまで訴えられることや、スイスでは性犯罪の時効が撤廃されたことを紹介。これは、被害者が被害を打ち明ける前に長い時間を要することがあるため。日本でも改正の際に検討事項に盛り込まれたが、結局見直されなかった。
「私の場合も人に話せるようになったのは30代の後半。そのときには時効はとっくに過ぎていた。日本では加害者は時効で守られる。これは法律を変えないと変わらない」(同)
■イギリスの警察は、被害者に繰り返し質問しない
ナンディーニさん、山本さんに続いて登壇した伊藤詩織さんは現在イギリスを拠点に活動しているといい、現地で取材した内容を紹介した。
「イギリスの警察が性犯罪の捜査をするときに重視するのは、心身の傷について。すごく理解がある。何があったのかを1度だけシンプルに聞く。それで終わり。何度も何度も同じ話をさせないのです。また、話を聞く人は必ず一人で、その人は捜査を担当しない。捜査する人は、いろんな質問を持ってしまい、(被害者は)その質問で傷つくから。そういう配慮をしています」
「日本では、(犯行の様子を被害者に)人形を使って再現させるという話をすると、毎回衝撃を持って受け止められます。交通事故で骨を折ったときに、それを再現しろなんて言わないですよね。それほど酷なこと。それがイギリスでは理解されていて、そういうことはされない」
今は加害者臨床の現場など、性犯罪の加害者側の取材をイギリスでも行っているという。
「その人(加害者)だけを排除しても意味がない。彼らがどのような背景で事件を起こしたのか、背景だったり、構造だったり、そこを取材をしています」
また質疑応答の際には、南アフリカ出身の友人から聞いた「性教育」について触れた。
「身体のパートを信号の色に変えて教えるそうです。たとえば、プライベートな部分は赤、肩は黄色、でも危険を感じる触り方だったら肩でも赤だよというふうに。大人の中にはペドファイルがいることも教える。(子どもだった)彼女があるとき女子トイレに入ったら、成人男性がポルノ雑誌を持って迫ってきたそうです。でも彼女は走って逃げて『赤です。誰かがいます』と大人に伝えることができた」
■日本の性交同意年齢は13歳
最後にマイクを持ったヒューマンライツ・ナウ理事の後藤弘子さんは、昨年の性犯罪改正についての失望を語った。中でも、性交同意年齢(13歳)の引き上げが行われなかったことを強調。
「性交同意年齢を引き上げることは絶対やるだろうと思っていましたが、結局13歳で変わらない。インドでは(改正時に16歳から引き上げられ)18歳。(日本では)13歳という話をすると、どこの国の人も驚きます」
刑法では、13歳未満との性交は、たとえ同意があったとしても強制性交等罪として罰せられる。13歳以上の場合は、暴行・脅迫要件がつく。性交同意年齢とはつまり、性交がどのようなものかを理解し、性行為を行うかどうかの判断を自分でできると見なされる年齢のこと。この年齢が設定されたのは明治時代だ。
他国の場合、スイスでは16歳、ドイツでは14歳から18歳まで段階的に規定が設けられるなどしており、国連は2008年に日本に対して性交同意年齢を13歳から引き上げるべきとする所見を採択しているが、昨年の改正では見送られている。
シンポジウムは、ナンディーニさんが紹介した、こんな歌の歌詞で締めくくられた。
ひとりの女性が声を上げるとき、小さな変化が起こる
数人の女性が声を上げるとき、爆発が起こる
村中の女性が声を上げるとき、地球がひっくり返るでしょう
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