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「ロストフの14秒」を見て想う。森保ジャパンへの不安。サッカーは監督で決まる

杉山茂樹スポーツライター
写真:岸本勉/PICSPORT(本文中も)

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 ベルギー戦。延長戦にもつれ込み、そこでたとえばPK戦で日本が勝利を収め、ベスト8進出をはたしたとする。しかし、そこで日本が勝利を飾る可能性は限りなく低かったと思う。準々決勝の相手が強敵ブラジルだったからではない。

 外的要因ではなく内的要因。原因は西野ジャパン自身にあった。日本にもはや余力は残されていなかったのだ。

 第1戦(コロンビア戦)、第2戦(セネガル戦)、第3戦(ポーランド戦)、そして第4戦(ベルギー戦)の選手起用法にそれは表れていた。

 川島、昌子、長友、酒井宏、吉田、長谷部、柴崎、香川、乾、原口、大迫。第1戦、第2戦でスタメンを飾ったのはこの11人だった。

 交代選手は第1戦が山口、本田、岡崎で、第2戦が山口、本田、宇佐美。すなわち、1、2戦で使われた選手は、岡崎と宇佐美以外すべて同じ。総数はわずか15人だった。

 そして3戦目(ポーランド戦)。西野さんはスタメンを一挙に6人入れ替えて臨んだ。槙野、武藤、酒井高は初出場。山口、宇佐美、岡崎は交代出場からの昇格だ。

 これはまさにギャンブルだった。1、2戦目と同じスタメンで戦えば、チームとしての体力は底を突く。目先の結果を最大限優先し、新たな可能性の追求を怠れば、4試合目(ベルギー戦)は戦えない。

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 西野さんの選択は吉と出た。試合には0-1で敗れたが、フェアプレーポイントに助けられ、日本はベスト16に進むことができた。

 ところが、ベルギー戦のスタメンを見た瞬間、残念な気持ちになった。スタメンが1、2戦の顔ぶれに完全に戻っていたからだ。

 メンバーの選択肢は狭くなっていた。勝負の4戦目を1戦目と同じ顔ぶれで戦うと言うことは、大会が進む中で、西野さんの選手を見る目が、少しも変わっていないことを意味していた。新たなアイディアが湧かなかったことも意味する。

 ベルギー戦。選手交代が本田、山口の同時投入のみに終わった理由だ。3人目の交代を行わずに「ロストフの14秒」を迎えることになった一番の原因だと思う。

 交代選手の選択肢として浮かんだのは宇佐美と岡崎のみ。だが、試合は彼らを投入する展開ではない。西野さんはそう読んだため、動けなくなってしまった。

 西野さんは、5試合目を戦う想定をしていなかったと言うべきだろう。4試合目を戦う想定もできていなかったが、そこは運で乗りきった。なんとかベルギー戦を戦うことができたが、そこまでが精一杯。そこでアイディアが枯渇した。

 3試合目のポーランド戦にあれほどの大冒険をしたのなら、なぜ2戦目から、少しずつスタメンをいじっていかなかったのか。起用した選手の総数が、2戦目を終えた段階で、15人ではなく17〜18人であれば、ベルギー戦のラストは変わっていた。西野さんは選択にもっと広がりが持てていた。3人目の交代が滞ることはなかった。すなわち「ロストフの14秒」は起きていなかった。

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 サッカーは監督で決まる。もちろんそうではない場合もあるけれど、他の競技に比べれば、断然その可能性が高い。W杯本大会ともなれば、その優劣が結果に素直に反映する。「ロストフの14秒」を西野采配に原因ありと結論づけると、ノンフィクションとしての魅力は薄れるかもしれない。しかし、これがサッカーの現実だ。

 サッカー監督の重要性をまさに再認識させられたロシアW杯だった。次期代表監督探しは慎重に。簡単に決めるべきではない。よりよい監督を求め、焦らずじっくり探すべき。そう思っていた矢先、森保一監督の就任が発表された。

 それからおよそ半年が経過。森保ジャパンは5試合を戦い、来年初めUAEで行われるアジア杯に臨もうとしている。

 森保監督はそのメンバー発表記者会見で、7試合を戦うつもりだと述べた。西野さんが5試合目を戦う準備なしにロシアW杯に臨んだ(ようにみえた)後だけに、その7試合という言葉になにより反応したくなった。メンバー交代の選択肢を森保監督は、最後の7試合目まで豊富に保てるだろうか。

 発表されたメンバー23人の顔ぶれを見ると、いささか心配になる。

 当初のメンバーで、今回外れている選手は車屋紳太郎、植田直通、天野純、三竿健斗、小林悠、伊藤達哉の6人。しかしこの中には怪我人も含まれている。さほどメンバーが変わっていないことに気付かされる。5試合戦ったのに、変わった選手はごく僅か。選択肢は広がっていないことを示す事象とは言えまいか。

 スタメンも見えている。空で言えそうな状態にある。西野ジャパンと似ている。7試合先に向け、メンバーをどう崩しながら戦っていくか。勝ち負けよりもそちらの方が気になる。この監督は、W杯本番で何試合を戦えそうな指揮官か。「ロストフの14秒」から得た視点だ。サッカーは監督で決まる。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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