監査法人はどう選ぶ?その選定ポイントとは
■監査法人の選定について
上場企業においては、監査法人または公認会計士(以下、両者を監査法人と称します)による会計監査が求められます。
また上場準備中の会社でも上場申請における決算書において、監査法人の監査が求められます。
さらに、上場企業や上場準備企業ではなくても会社法上の大会社においては監査法人による監査が義務付けられています。
そこで経営者としては監査法人を選定する必要がありますが、どのようなポイントに気をつける必要があるでしょうか。
なお、監査法人の選任は株主総会決議事項となります。株主総会における監査法人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しない議案については、監査役会が決定するものとなりますので、経営者が単独で決められる事項ではない点にはご留意ください。
■監査法人選定の3つのポイント
監査法人の数自体は全国で271法人(日本公認会計士協会 会員数等調(2022年2月28日)より)あります。
なお、このうち上場会社を監査している上場会社監査事務所登録名簿に登録されている監査法人は126件(上場会社監査事務所登録情報より 2022年3月30日現在)となります。
これだけの数の監査法人から1社を選ぶことは大変ですが、監査法人を選ぶ際に注意すべきポイントとしては以下の3つが挙げられます。
①監査法人の実績
②監査法人の規模
③監査チームの構成や監査担当者の実績、経験
では、それぞれみていきましょう。
①監査法人の実績について
まずは監査法人を選定する際に、その監査法人の実績をしっかりと確認しましょう。
この際に実績としては、監査法人としての歴史や、どのような会社の監査をしているのか、上場支援を依頼するのであればどのような会社の上場を支援したことがあるのか等を確認していきましょう。
実は監査法人の中には「上場企業監査はお引き受けしておりません」という監査法人も多数あります。そのような監査法人に上場企業や上場準備企業が監査の相談にいっても門前払いとなってしまいますので、事前に上場企業監査を担当しているのか、上場準備企業の支援をしているのか等は確認しましょう。
なお、上場企業監査を受託していない監査法人では会社法における会計監査や学校法人監査、任意監査、会計コンサルティング業務等を業務として行っています。
また、監査法人は日本公認会計士協会による監査の品質管理レビューを受けます。さらに金融庁公認会計士・監査審査会によるモニタリングを受けます。
監査法人の監査品質を知るうえで、この品質管理体制はとても大事です。
監査法人を検討する際には、その監査法人の品質管理体制や日本公認会計士協会からの品質管理レビュー状況等についてもしっかりと確認をするようにしましょう。
②監査法人の規模について
監査法人は、その規模に応じて大きく下記の通り分類されます。
・大手監査法人(有限責任あずさ監査法人、有限責任監査法人トーマツ、EY新日本有限責任監査法人及びPwCあらた有限責任監査法人の4法人)
・準大手監査法人(大手監査法人に準ずる規模の監査法人。現在では仰星監査法人、三優監査法人、太陽有限責任監査法人、東陽監査法人及びPwC京都監査法人の5法人)
・中小監査事務所(大手監査法人、準大手監査法人以外の監査事務所)
大手監査法人であれば、公認会計士(試験合格者含む)が4千人を超える監査法人もあります。
監査法人が実施する会計監査は決算書に対する会計監査ですが、対象企業の規模により監査チームの人数は異なります。
大企業の監査においては監査チームが100名を超えることもあります。
そのため大企業の監査を担当できるのは必然的に大手監査法人や準大手監査法人となります。
また海外展開をしている会社の監査においては海外子会社、海外支店の監査も必要となります。
その際に、グローバル規模でネットワークを構築している監査法人の方が、現地での監査対応等において優れていることから、自社の海外展開状況によってはグローバルネットワークのある監査法人を選ぶことが望ましいでしょう。
その一方で、近年多くの事例が見られるのは自社の規模に応じた監査法人を選択する会社です。
この傾向は近年、上場企業でも上場準備会社でも増加しているのですが、例えば上場企業であれば大手監査法人や準大手監査法人から中小監査法人へ監査法人を変更したり、上場準備会社でも中小監査法人を選択したりする事例が増えています。
これは会社の規模に応じて、監査チームが少人数で済む場合や、監査チームが少人数であるからこその監査業務のスピーディーな対応、そして監査報酬等を総合的に勘案し自社に応じた監査法人を選択する企業が増えているということです。
特に令和3年においては大手から準大手、中小監査事務所への異動が100社を超え急増しました(表1参照)。
まだまだ監査法人というと大手監査法人の存在が大きいですが、その一方で大手監査法人から準大手監査法人、中小監査事務所への動きが増加傾向にあるのが昨今のトレンドです(表2参照)。
【表2 同資料より 筆者作成】
③監査チームの構成や監査担当者の実績、経験
監査法人選定の3つめのポイントとしては、やはり実際の監査担当者と会社との相性が大事ということです。
会計監査においては会社の決算書のみならずビジネスモデルの理解やビジネス環境、法規制等への理解、海外情勢や地政学への理解が求められることもあるでしょう。
そのため監査をする担当の公認会計士にはその業界・業種の監査経験が深いことやその業界、ビジネスモデル、サービスに精通していることが望まれます。
担当する公認会計士が、その業界に詳しいことで、自社への理解も深く、会計処理へのアドバイスや決算書の表示、内部統制の構築等についても有益な助言をもらえるでしょう。
さらに監査法人は年間を通じて会社と向き合います。期末の決算監査のみならず、期中における内部統制監査や四半期レビュー、支店や子会社往査、海外子会社監査など年間を通じて監査業務が生じることから、監査法人と会社・経営者・監査役会等との信頼関係が非常に大切となります。
そのためどのような方が自社の監査を担当するのか、監査チームはどのような構成になるのか、チームリーダーはどのような方なのか等も確認し、実際に監査が始まってから「ちょっと違うなぁ」とならないようにしましょう。
■大手監査法人と準大手、中堅・中小監査法人を選ぶそれぞれのメリット
では、大手監査法人と準大手、中堅・中小監査法人のメリットをそれぞれみてみましょう。
①大手監査法人を選ぶメリット
公認会計士が多数所属していることから大企業の監査にも十分対応できます。
売上高が何兆円もの規模の会社ともなれば、必然的に大手監査法人を選択することになります。
また、海外におけるネットワークファームも大手グローバルファームと提携しており、海外子会社の規模が大きい場合でも対応が可能です。
プライム市場に上場しているグローバル企業の場合は、会社規模を考慮すると大手監査法人を選択する例が多く見受けられます。
さらに所属する公認会計士の人数が多く、多種多様な会社の監査実績もあることから、複雑な事例や珍しい事象、最新の事象等に対する対応力の面でも優れています。
②準大手、中堅・中小監査法人を選ぶメリット
近年、多く見受けられるのが自社の規模に応じた監査法人を選択する方針から準大手、中堅・中小監査法人を選ぶ会社が増えていることです。
大手であっても準大手、中堅・中小監査法人であっても監査業務の本質には変わりはなく、監査法人の対応スピードや監査報酬の水準と自社の規模を考慮して自社に合う視点から監査法人を選ぶ会社が、中堅上場企業でも増えています。
また準大手、中堅・中小監査法人であっても大手監査法人出身者が多く在籍している監査法人も多く、担当者の実績や経験値の面で大手と遜色ない監査チームを組成できるケースや高い監査品質を保っている監査法人もあります。
準大手、中堅・中小監査法人だからといって一括りにするのではなく、各監査法人の監査品質や専門性を確認し監査法人を選ばれると良いでしょう。
■おわりに
近年、監査法人の就任期間について「長期間にわたり同一の監査法人では会社と癒着やなれ合いが生じるのでは」という懸念から定期的に見直しを図る傾向が見られます。
その一方で、あまりにも短期間で監査法人が交代している会社は「監査法人が短期間で変わりすぎている。会社側に何か問題があるのでは」と嫌疑の眼を向けられることがあります。短期間で監査法人の交代が重なることは、外部からの眼や会社の対応コストの面からも有益なことではありません。
さらに監査報酬についても投資家や株主の関心が高まっています。あまりに安い監査報酬の場合は「そんなに安い監査報酬でしっかり監査法人に監査をしてもらえるのか」と疑念を持たれることもありますので、監査報酬だけを重視して選ぶことも問題となります。
ぜひ本日のコラムを参考に、自社にあった適切な監査法人を選択していきましょう。
※ より詳しく監査法人について知りたい方は「監査とは?監査法人・会計士の役割と業務内容について」をご覧ください。