『世にも奇妙な物語’22 夏の特別編』が描いた、「奇妙」では済まされない現実的な問題
「奇妙」という非現実性の名の下で、いま起きている「現実」を表現
「現実だと思っていた世界が、現実ではなかったらどうしますか」
6月18日放送のドラマ特番『世にも奇妙な物語’22 夏の特別編』(フジテレビ系)でストーリーテラーのタモリは視聴者にこのように問いかけたが、まさに今回の4編は「現実」について考えさせるものだった。
いつものように細かい説明はいれずに、奇妙な世界へと観る者を引き込んだ同作。SNS上では、オオガネモチというキャラクターが登場する2編目『何だかんだ銀座』や、ゲーム『ファイナルファンタジーX』の使用曲『ザナルカンドにて』などいろんな音楽が脳内で流れる女性の苦悩を追った3編目『メロディに乗せて』などの話題で賑わった。
そういったキャラ設定やカルチャー要素で楽しませる部分もあったが、今作が視聴者の心をつかんだ理由は、「奇妙」では済まされない現実的な問題が背景として描かれていた点にあったのではないか。
特に前半2本は、「奇妙」という非現実性の名の下で、いま起きている「現実」の出来事を表現しているように思えた。
『オトドケモノ』の「元の世界への戻り方が分からない」という戸惑い
1編目『オトドケモノ』は、実在する具体的なモノであれば、注文からわずか2秒で届けてくれる不思議な出前サービスが題材。若い夫妻がその便利さを満喫するが、あるトラブルが原因で「2秒で配達」のカラクリとなっている異空間へ迷い込むことに。
劇中では出前サービスほか、ネットさえ繋がればどんな場所であっても仕事ができることなど、コロナ禍で定着した現在のライフスタイルが映し出されていた。
一方で印象的だったのが、かつて「片時も離れたくない」と離ればなれになる時間を惜しんでいた夫・タクヤ(北山光弘)と妻・ゆかり(小島藤子)が、誰もいない異世界でふたりきりになった途端、衝突ばかりで険悪になる場面。ここは、一緒にいる時間が長くなったことで相手の嫌な面が目についてしまい、別れを決める「コロナ離婚」を連想した。
あと、元の世界へ戻るための手段として一旦離婚し、別の相手と再婚しようとする展開も重要だ。タクヤは、再婚相手を見つけるためにリモート婚活をするが、必死にアプローチしても相手女性に「実際に会っていないのに」と拒否される。ここでは、彼が置かれている状況も含めて、コロナ禍での「会いたくても会えないこと」「他人と距離をとって生活しなければならないこと」の影響について考えさせられた。
なにより「元の世界への戻り方が分からない」というタクヤとゆかりの姿は、いまの日本社会が直面している戸惑いそのものをあらわしているようである。
『何だかんだ銀座』では人間の都合でオオガネモチが捨てられる
2編目『何だかんだ銀座』は、お金持ちがペットのように飼われている世界が舞台。
主人公の一家は、大金持ちの男性・オオガネモチ(有田哲平)を捕まえる。ちなみにその捕まえ方は、木に蜂蜜を塗るというカブトムシの捕獲と同様だ。
一家は気軽な気持ちで、オオガネモチを飼い始める。ただオオガネモチは、銀座で売っている高級食材以外は口にしないなど、とにかく贅沢をさせなければならず、費用や手間がかかる。そんなある日、父親がリストラ対象となったことで今までのような暮らしができなくなり、オオガネモチを手放すことを決断。そして父親は、息子を連れてオオガネモチを捨てに行く。
オオガネモチが人間の都合で捨てられるところは、コロナ禍で在宅時間が増えたことによるペット人気と、「思っていたよりも世話が大変」と無責任に手放す人たちの多さ、そして野良になったり保護団体に引き取られたりしているペットたちの現状に絡めているのではないだろうか。
『何だかんだ銀座』でもオオガネモチは「かわいい」と褒められるが、それだけではペットは飼えない。そこには必ず多額の費用と世話が生じる。なにがあっても一生、面倒を見る覚悟が必要なのだ。だからこそ身勝手に飼育放棄されたオオガネモチが息子に対してとったラストの行動は、痛切なものがあった。
ちなみに父親のリストラの原因が「半導体不足」という点も非常に具体的かつ現実的だ。そういった内容からみても、この物語は新型コロナが背景にあるのではないか。
『世にも奇妙な物語’22』は、非現実な物語に現実的な問題がいろいろと内在している。こうやって考察させるほど、見ごたえのある作品が並んでいた。