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【獣医師からの提言】動物病院でのYouTube撮影が物議を。動画を撮るのはありなのか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

J-CASTニュースは、「ペットをテーマにした動画や写真コンテンツが人気を博す中、インターネット上では動物病院に連れてこられたペットが不安や恐怖から暴れる様子を面白おかしく紹介するような動画が問題視されている」と伝えています。

今日は、動物病院で動画の撮影はありなのか?を考えてみましょう。

ペットが不安や恐怖で暴れる様子をインターネットにあげると再生回数が上がる?

ruイメージ写真
ruイメージ写真写真:アフロ

YouTubeやTwitterやインスタなどを覗くと、ペットが動物病院に行くのを嫌がる、不安な表情などの投稿があります。再生回数やいいね!などが増えるので、このようなことを投稿する人が増えているのでしょう。

ペットにしてみれば、自分の具合が悪い、どこか痛いところがある、体がだるいなどのときに、ケージに入れられて注射などの痛いことをされる動物病院に行くので、抵抗するわけです。ペットは、そのことを理解しています。

獣医師の筆者は、犬や猫が好きでこの仕事を選んでいるので、彼らの気持ちはよくわかります。その一方で、病気を治したいと思って治療するので、嫌がる姿を見て、心を痛めます。なるべく、犬や猫に負担にならないように工夫をしています。

たとえば、待つのが苦手な子には空いている時間に来院してもらったり、予約をしてもらったりする、猫の場合は洗濯ネットに入れてきてもらう(猫自身が隠れていると思うので、比較的おとなしい)などお願いして配慮をしています。

このように、獣医師はなるべく犬や猫に負担がなくリラックスしてもらえるように考えているのです。J-CASTニュースの記事の中に「動物病院での治療は『エンタメ』ではありません」という文章がありますが、まさにその通りです。

動物病院では、がんの宣告を受けて余命を言われている子もいますし、猫の慢性腎不全のグレードが進んで点滴治療をしている子もいます。命を守ったり、病気を治していたりして緊迫した状況の子も多いことを理解してほしいです。

動物病院で動画を撮影することはよくないの?

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

動画を撮影することが全て、よくないと言っているわけではありません。筆者の動物病院でも動画を撮ることをすすめていることがあります。それは以下の場合などです。

治療方法の説明

皮下点滴などの自宅で治療方法

たとえば、愛する子ががんですと告知されたときに、獣医師が治療方法などを紙に書いて渡しても、そのときは、頭が真っ白になっている飼い主が多く、しっかり理解できないのです。

そのため、動画を撮影しておくと、飼い主が自宅で冷静になったときに、撮影しておいた動画を再生することで治療方法などの理解を深めることができます。

また、当院では自宅での点滴などをお願いしているので、実際に病院で練習してもらい、それで同じことを自宅でやってもらっています。動物病院ではできたけれど、自宅に帰っていざ注射をしようと思ってもできないことがあります。そのような場合に備えて、動画を撮っておくと、復習して自宅でも同じようにできやすいので便利です。

動物病院で動画を撮影する場合の作法

そんなこと言われても愛犬や愛猫の治療風景を記録しておきたいと思う人はいるでしょう。

そのときは、以下のことには気をつけてください。

・動画を撮ってもいいか、動物病院で尋ねる。

・動画を撮ることで、愛犬や愛猫が逃げないか注意する。

・動画を撮るときは、周りの犬や猫を写すのは、よくないので、その子だけを撮れるようにする。

・飼い主が、動画を撮ることで愛犬や愛猫の様子を見ることがおろそかにならないように注意する。

気を配って撮影してください。

まとめ

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

SNSなどで、愛犬や愛猫を投稿するのは、一般的な時代になっています。再生回数を増やすために、いわゆる「やらせの投稿」などがあることは事実です。以前、なぜ子猫を浴槽で泳がせ画像投稿した飼い主は逮捕された? ニャンコの行動学からわかることという記事を書きました。

このように虐待の疑いのある投稿をする人もいるのです。犬や猫の自然の姿を投稿するのは問題がないのですが、再生回数をかせぐために彼らに虐待まがいのことをしている人もいます。犬や猫のことを考えて愛おしんでほしいものです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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