コロナ禍の「ビジネス」入国、実態は留学生・実習生 中国・ベトナム・インドネシアが7割
菅義偉首相は13日、コロナ禍にあって就任以来推進してきた入国緩和政策を全面停止することを打ち出した。「ビジネス往来」再開を掲げた緩和政策に基づいて日本に入国した外国人のうち、中国、ベトナム、インドネシアの3カ国国籍の人が合計で約7割を占めていたことが、出入国在留管理庁(入管庁)の集計で分かった。3カ国からの入国者の在留資格は、「留学」「技能実習」が計8割強に上った。
実習生は「技術移転」の名目の下、工場や農林水産業の現場などで就労している。留学生の中にはアルバイトなどで働く人も相当数いるとみられる。いずれも「ビジネス往来」という言葉でイメージされがちな短期出張ではなく、就労や長期滞在を前提とした在留資格だ。
経済界が求める外国人労働者受け入れに、積極的に応える菅首相の姿勢が反映した入国状況、との見方もできる。
2カ月で9万7000人超
入管庁の集計「国際的な人の往来再開に向けた段階的措置等による入国者数(速報値)」によると、2020年11月1日から21年1月3日までの2カ月余りで、緩和政策に基づいて計9万7716人が入国した。このうち国籍別では中国が3万1835人(32.58%)、ベトナムが2万9549人(30.24%)、インドネシアが6783人(6.94%)を数えた。この3カ国だけで計6万8167人となり、緩和政策入国者全体の69.76%を占めた。
中国と並べて報じられることがある韓国は3421人で、緩和政策入国者全体の3.50%にとどまった。
中国・ベトナム・インドネシアの3カ国国籍入国者の合計では、在留資格は留学が41.11%、技能実習が40.84%で並び、合わせて81.95%を占めた。次いで多いのが、在留外国人の配偶者や子どもの「家族滞在」5.00%、「技術・人文知識・国際業務」4.71%だった。
技術・人文知識・国際業務は技術者や通訳などの専門性のある職種で働く外国人向けの在留資格だが、実習生と同様に工場などでの現場作業に配置されている事例が多いと、インドネシア人労働者の支援に当たる専門家が指摘している。このほか、外国人労働者受け入れ拡大のために19年4月に新設された在留資格「特定技能」が2.86%だった。短期出張などのビジネス往来に使える「短期滞在」は1.44%にとどまった。
国籍別で在留資格を見ると、中国は留学が最多の57.11%を占めた。技能実習がベトナムで51.54%、インドネシアでは66.05%となり、それぞれ構成比のトップだった。
3カ国以外も含めた、緩和政策入国者総数の内訳でも留学が35.59%、技能実習が34.30%を占めた。
緩和停止のドタバタ
菅政権は発足から間もない20年10月1日に、全ての国・地域からの新規入国を、防疫措置を確約できる受入企業・団体があることなどを条件に認める措置を始めた。しかし、国内の感染急増を受け、政府のコロナ対策への不信感が高まる中、水際対策として、この入国緩和措置を12月28日に原則として停止した。停止期間は21年1月末までの予定だ。
一方で菅政権は、前記の全世界対象の入国緩和措置とは別枠で、「感染状況が落ち着いている」(入管庁資料)とする11カ国・地域との間で二国間の往来再開を進めてきた。この措置も停止するよう求める意見が自民党内で相次いだと報じられたが、存続させていた。しかし、13日になって結局、これも含めた全面停止を発表するドタバタ劇を演じた。
入管庁によると、11カ国・地域はベトナム、タイ、カンボジア、シンガポール、マレーシア、ミャンマー、ラオス、台湾、韓国、ブルネイ、中国だ。いずれも長期滞在者を往来の対象としていた。このうちシンガポール、韓国、ベトナム、中国については短期出張者も対象になり、入国後すぐに、待機場所以外の用務先に出掛けることもできた。
「感染落ち着く」東アジア
確かに現時点で、東アジア(東北アジア、東南アジア)の大半の国では、新型コロナウイルスの感染状況が、日本より落ち着いているように見える。
各国の感染状況を、検査件数の格差に大きく左右される感染確認数ではなく、最も重大な数値である死亡者数で見てみよう。worldometerの13日午後10時時点のまとめによると、人口100万人当たりの累計死亡者数が日本(32人)を上回っているのは、11カ国・地域ではミャンマー(53人)だけだ。台湾(0.3人)、ベトナム(0.4人)などは日本と比べ、桁違いに効果的に感染を抑え込んでいる。インドネシア(91人)とフィリピン(88人)が日本より多いが、11カ国・地域には含まれていなかった。
ただ状況は流動的で、11カ国・地域に含まれるマレーシア(同17人)では感染確認が急増している。同国保健省は12日、新規感染者がこれまでで最多の3309人に達したと発表、アブドゥラ国王は国家非常事態を宣言した。
13日、日本は11カ国・地域からの入国者らを対象に、従来の入国時の検査に加え、出国前72時間以内のPCR検査などの陰性証明取得を義務づける防疫対策強化を始めたばかりだったが、夜になって菅首相が会見し、入国緩和の全面停止を発表した。
そもそも
日本政府はこれまで、「研修生」「実習生」などと呼びながら、外国人労働者を「玄関」からではなく「勝手口」から受け入れてきた。コロナ禍の入国緩和にあっても広義の「ビジネス往来」として、実習生らを入国させてきたのは、同様の言い回しのように聞こえる。
自民党の重要な支持基盤である経済界は、外国人労働力の導入拡大を求める。一方で、党の「岩盤支持層」となっている保守・右派層は、「移民社会」につながる動きを排撃する傾向がある。どちらにもいい顔を見せようとすると、微妙な言葉遣いとなってしまう。今回のような入国緩和政策の迷走にもつながるのだろう。
しかしそうした弥縫策も限界に近づいている。少子高齢化の深化に伴い、後継者難にあえぐ伝統的地場産業や、自動車などの基幹産業の裾野を、今や外国人労働者が支えている。彼ら・彼女らを「労働力」として使うだけではなく、人間として尊重する社会をつくっていけるかが問われている。逆に、外国人労働者を受け入れない選択をするのならば、産業の在り方を根本的に転換する戦略の提示が求められよう。
コロナ禍の入国緩和政策による入国者の実態は、差し迫った現実の一端を示している。