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ハリルJAPANは岡崎なしでロシアW杯を勝ち上がれるのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
プレミアリーグで猛者を相手に奮闘する岡崎慎司。(写真:ロイター/アフロ)

 今回の欧州遠征を前にしたメンバー発表会見。日本代表監督であるヴァイッド・ハリルホジッチは、プレミアリーグ、レスター・シティのFW岡崎慎司を「他の選手のほうがより得点が取れる」という理由でメンバー外にしている。しかし、岡崎は一番得点が計算できるFWである。それは過去の実績が示しているし、今シーズンもプレミアで6得点。立派な数字で、レベルの違うJリーグやブンデスリーガとは単純に比較ができない。

 ハリルホジッチは、「自身の戦術に岡崎は向かない」と高を括っている。選手ありきではなく、一つの枠にはめる。それ自体、ストライカーの能力を制限してしまうのだ。

 筆者は週末に上梓する小説「ラストシュート 絆を忘れない」(角川文庫)で、過去に取材してきたサッカー風景を投影させている。なかでも主人公の広瀬ゆうはストライカーだけに、「ストライカーの資質とは」を改めて考えさせられた。実は、そこのあやふやさに日本サッカーの問題点が隠れている。

 ストライカーとは、簡単に説明が付かないポジションなのだ――。

マラドーナの語るストライカー、キニ

 2018年2月、スペインフットボール史上最高のストライカーの一人で、5度のラ・リーガ得点王に輝いているキニが心筋梗塞で68才の生涯を閉じている。

「キニは今は見かけなくなったタイプの選手だっただろうか。(アルゼンチン代表だった)マルティン・パレルモに近い。90分間、ほとんどボールを触らないのに、左足で触れば、最高の左を見せるし、右足なら、最高の右となった」

 そう語る"フットボールの神さま"ディエゴ・マラドーナは80年代、バルサでキニとチームメイトだった。その表現は的を射ていたが、次の台詞は極めつけだ。

「まるで、ボールが彼を愛するように集まった」

 キニはボールに愛されるストライカーだったという。オカルトのような話ではない。練習場でプレーを見ているだけでも、なぜかその人のいる方にボールが転がるという現象はある。それは「犬や猫を普段から可愛がっている人が、道ばたで犬や猫に出くわしたときに、寄り添ってくる感覚に近い」とも言われる。

<こいつは敵ではない>

 そんなイメージか。ボールは生き物でなく、意志はないはずで、ばかげた妄想に聞こえるだろうが、マラドーナの表現であることを忘れてはならない。スペインや南米の人たちはその感覚を大事にするのだ。

ボールの意志

「ボールに好かれる」

 それは異能である。その力を授かったストライカーはしばしば技巧的ではない。しかしマラドーナもキニについて語っているように、触ったボールをゴールに入れるセンスには優れていた。ペナルティエリアに入った瞬間に、技術が研ぎ澄まされる。

「こんなにうまい選手だったか!?」

 周りが驚嘆する。そこに、ストライカーの極意が見える。不思議なもので、普段はボールテクニシャンであるほど、エリアに入ってGKと対峙したときには輝かない。うまさ、の種類がまるで異なるのだ。

 ボールは、ネットに放り込んでくれる選手を探し当てる。

 そういうことかもしれない。

泥臭さでは表現しきれない岡崎

 日本人ストライカーとして、ボールをゴールに入れる、という単純で、至難の技術に長けているのが、岡崎慎司だ。

 岡崎は突出してテクニックがある選手ではない。むしろ、泥臭さのほうが目立つFWだろう。しかし、彼ほどコンスタントに高いレベルでゴールし続けている日本人FWはいない。ゴール前でのポジショニングとコントロールにミスがなく、ペナルティエリアに入ると水を得た魚になるのだ。

「左で崩し、右で仕留める」

 2014年ブラジルワールドカップまで日本代表を率いたアルベルト・ザッケローニ監督は、その戦法を確立したが、仕留め役に岡崎がいたからこそ、成立した。

「LISTO」

 スペイン語で説明するなら、賢い、利口な、機転が利く、抜け目ない、という選手で、ディフェンス、ボール、自分の走り込むポイントを瞬時に計算し、貪欲でありながら冷静にフィニッシュできる。敵のプレッシャーが増すゾーンで、より集中力が高まって、プレー精度が上がる。エリア内では違った顔を見せるのだ。

 その岡崎抜きで、日本はワールドカップを戦えるのだろうか?

岡崎をメンバー外にするほどストライカーは豊富か?

 ハリルホジッチ監督は、「高く速くストライカー」を求めていたという。しかし見当たらず、得点はサイドのアタッカー二人にリクエストするようになった。必然的に、原口元気、久保裕也の得点が増えた。一方、岡崎からポジションを奪った大迫勇也は決してゴール数は多くなく、ブンデスリーガでも得点数は4点にとどまる(ブンデス日本人最多は武藤嘉紀の7点)。

 指揮官は、自らの戦術に選手を当てはめる考えしかない。岡崎のような選手を生かす戦い方を志向するべきだろう。今さら、の話ではない。代表チーム同士の戦いは、クラブチームのように成熟していないだけに、個人の力量を生かすことで、直前でも活路は開けるはずだ。

 岡崎をメンバー外にするほど、日本はストライカーに恵まれていない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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