Yahoo!ニュース

【K-POP論】来日間近! チョンハの今夏の名曲「Snapping」作曲家に聞く、”濃厚制作秘話” 

作曲家パク・ウサン氏。チョンハ最新曲「Snapping」を手掛けた。写真本人提供

いよいよ、今夏のK-POPのヒット曲を引っ提げ、ソロ歌手チョンハがやってくる。

”Snapping”。

6月21日に発表された楽曲は、7月上旬から中旬にかけての韓国音楽番組で6度の1位を獲得した。

そんな彼女が、8月24日、25日に新宿でファンミーティングを行う。

アーティスト本人の来日を待つ。そこまでに楽曲の作品性をネチネチと分析しつつ、YouTube鑑賞を楽しむ。これが本連載の狙いだ。

今回はこのガールクラッシュ(女性が憧れる女性)の名曲について、作曲家に話を聞いてきた。

パク・ウサン 作曲家。34歳。20代前半にソロ歌手として活動するも「流行りのスタイルと違うものを追求しすぎたうえに、あまり努力をしなかった」。アイドル歌手が全盛の2010年頃に、「ダンス系の音楽を好んだ」という。R&B、ヒップホップを志向した。歌手活動の傍ら作曲活動を始め、しばらくは小規模の仕事に取り組んだ。「経済的にも苦しかった」というなか、4minitueの楽曲が現在の事務所RBW社のキム・ドフン社長の目に留まり、スカウトされる。その後は同社所属のMAMAMOOの「ビョリ ピンナヌン パム(光り輝く夜)」「ノナヘ」、「Wind flower」、「モンチョンイ(ファサのソロ曲)」などを手掛けた。外部のグループではBTOBやAOAに楽曲を提供。今回のチョンハの「Snapping」の成功により、韓国メディアでは「スターメーカー」とも評される。日本の音楽はケミストリー、久保田利伸、Fantastic Plastic Machineなどを好んで聞いてきた。

Park Woo Sang提供
Park Woo Sang提供

チョンハからのオファーを待っていた。かなり強い気持ちで

――今回、チョンハの「Snapping」を作曲することになった経緯をお聞きしたいです。

チョンハさんに関しては、実のところ前作の「すでに12時」の頃に一度、先方から連絡をいただいていました。僕は彼女の仕事をものすごく待っていたんです。もう「刀に手をかけて待っていた」というくらいに待っていた。いい曲を書きたいと。「タイトル曲をやりたい」というような欲はなかったのですが、歌手が聞いて「これはすごくいい」と思ってくれることが好きなので、そういう曲を書きたいという意気込みがすごく強かったんです。ただ……気合が空回りし過ぎて、曲が出てこなかったんです。

――そこまで臨んだ理由とは? 

私の個人的な好みとして女性のソロ歌手が好きだ、というのがあります。ここまでも多く作業してきました。だったらもっと多くの人に会って営業活動をしていけばいいんですが……根が消極的なので、あまり自分から周囲に連絡が出来ないんです。普段からマメに連絡を取っている人は5人いるかどうか。そういうところです。いつも考えているのは「相手からコンタクトをいただけるように、仕事をする」ということです。待つほうなんです。

筆者撮影
筆者撮影

――待ちに待った機会だったのに、書けなかった。かなり焦ったでしょう。

そうですね。強く願望を持って待っていたからこそ、曲が書けなかったんです。で、あきらめて、「次にぜひ機会をください」とお願いしました。仮案を提出するまでも至らなかった。その後発表された「すでに12時」を聴いたらすごくいい曲だった。「自分にもこういった曲が書けるだろうか」と考えすらしましたね。僕もこれまで曲を書いてきた自負はありましたが、やっぱりヒット曲というのはポイント部分が強烈なんです。ストレートな部分が。

――フックソング、という言葉もありますね。

そうです。でも僕が元々好きだったのは、全体的なイメージで聴かせるものだったのです。大きなヤマをつくるのはあまり好きではなかった。いっぽう、僕は作曲活動をやってきながら、それほどタイトル曲制作に強い意欲を抱いてこなかったのです。今回も同じような考えがあったのですが、考えが変わる機会がありました。チョンハさんが韓国で「ナイキ」の広告をやっているイメージを見たときです。

NIKE KOREAアカウントより

――チョンハ本人がショーケースでもその話をしていました。

その時、パク・ジェボム氏と一緒に踊っていたのですが、それがすごく僕の好みのスタイルだった。その時、インスピレーションを感じたんです。こうやって楽しそうにダンスが踊れる人なんだと。そこまでは妖艶なダンス、というイメージがあったので意外でした。だから彼女にもストリートダンスを踊れる曲があれば、と思い。作り始めた時は「絶対タイトル曲をやる」というよりは、ライブなどでやったときに「お、こういう曲もあるんだな」「カッコいい」と思っていただけるような曲を書こうと決めたのです。だからポイント部分を強調するよりも、パフォーマンス全体がどうあるのかを考えて作ったと思います。「チョンハさんのいいダンスを引き出せればな」と。で、この曲を送ってみた。すると、ある考えがよぎりました。「うーん、収録曲で終わらせるには、ちょっと惜しい気もするな」。まあ、タイトル曲にするには「ポイント部分が弱いかな」という気持ちも少しありましたが。すると先方からフィードバックが返ってきた。「とてもよい感じなので、タイトル曲を作るつもりで、もう少しブラッシュアップしていってください」と。

「Snapping」の制作過程「感じるままに作り始めた」

――先生ご自身の作曲家としての音楽スタイル、ジャンルはどういうものでしょう。

僕は、範囲が広い方だと思います。好きな音楽もありますが、同時に大衆性のあるものを好みます。基本的には80~90bpmのミディアムテンポの曲を書くのが一番楽な方なのですが、僕がここまで手掛けた曲のなかにはバラードもあり、モダンロック調のものもありミディアムテンポバラード、ミディアムテンポR&Bもあり、様々なジャンルがあります。ボツになったものを含めると、本当に多様です。

――今回のSnappingを聞くに、けっしてシンプルな曲ではないですよね。この曲はどういったジャンルなのでしょうか?

この曲のジャンルは……難しいですよね。実際のところ、作曲のオーダーが入るときに「このジャンルで」と言われると作業が難しくなるほうなんです。うーん、Snappingは決して曲の構成自体は複雑なものではないんですよ。ただ僕は、ネットでの曲の反応を病的に何度も何度も確認するんですが、「昔の曲みたいだ」という反応がありますよね。あるいは「ヒップホップ調だ」という評価。この二つが多いですよね。曲を作るとき、一番簡単なのは依頼側の話を聞き、「こういうイメージで」という流れを把握して、そこに沿ってつくることなんです。依頼側のイメージと大きくかけ離れることがない。いっぽう、作り手としては時にこういうことがあるんです。「歌手を見たときのインスピレーションがすべてを上回る」。つまり事務所側の依頼内容すら置いて行ってしまうということです。感じるままに、感覚のままに作曲が始まっていくということです。この「Snapping」もそこから始まり、楽器を手に一つ一つ作っていった曲なので、なおさらそういうことが言えますね。サビ部分も、ちょっと時間をおいて、後の方に出てくるという点があるので、特異に見えてしまうというところはあるかもしれませんね。まあ、他に比べる曲がないというのも確かですが。

筆者撮影
筆者撮影

――最初に聞いて「うわぁこれ、すごい」というよりは耳に慣れていって、そのすごさが分かる、といった楽曲ではないでしょうか。時間的にはどれくらいかけてつくったのでしょうか?

曲の基本的な流れだけだと、3週間程度ですね。ただ、そこまでもいろんなエピソードがありました。僕の後輩でもある、共同編曲者がいるんですが、イントロの音を彼がもってきたんです。これは当初、発表されたものとは違う楽器で弾いていた。通常はこういった作業は事前に話し合って、どんな風にやるか決めてからつくるものなのですが、彼は面倒だったんでしょう。でもそれがすごく良かったので、すぐに編曲の作業をしようということになったりして。あれこれやっていたら、一日を費やしてしまった、ということもありましたね。実際のところ、サビ部分の手前まではスッと1日で作業が進んでいたのですが、このイントロ部分で引っかかったりして。イントロに関しては後日、またやり直し、ということもありましたから。その後、作詞でまた引っかかったりもしましたけどね。この曲、歌詞の部分はまったく考えずにメロディだけを先に作った曲なんです。なんとなく「英語を多く入れた方が合うだろうな」とは考えていましたが。でも全部を英語にするわけにはいかず。韓国語の部分を考えたりして。これで1ヵ月を要しました。

Park Woo Sang
Park Woo Sang

――パッと聞いたとき、チョンハは英語が上手いから、英語の歌詞が多いんだろうなとは思いましたけど。

そのなかでもかなり英語の部分は減らしたんですけどね! 僕は個人的には英語を多くは使わない方なんで。あと曲を書きながら、歌詞もいっしょにつけていく方なんですが、この曲に関しては歌詞は完全に後づけになりました。曲の最後の部分については彼女の方から「英語にしていただけませんか」「もっと英語が多い方がいい」と申し出がありましたが、最終的にはこちらの要望を聞いていただけました。パッと聞いた時にはいいんですが、歌詞の内容が通じにくくなるという説明をして。

――僕、ショーケースで彼女に質問したんですよ。「歌詞の内容をすぐには理解できない外国人がこの曲を楽しむ方法は?」と……今、事情が分かって、ちょっと恥ずかしいっす……。「イントロを楽しんでほしい」と言ってましたよ。

作り手としては、この曲は「爆発的な人気を得たい」というよりは、彼女のイメージ転換、パフォーマンス全体で見せるということを念頭に置いて作ったので、音源ダウンロードの売上げ部分は少し心配しましたよ。

「Snapping」の歌詞の世界。どんなかたちの男女の別れなの?

――合わせて、今日はお聞きしたいことがありました。ショーケースで配られた資料の曲説明を読んだんですが……これが難しいんですよ。女性心理を描く歌です。「彼氏との別れを決意したんだけど、別れの瞬間にふと相手が見せる弱い表情に、女性の方も少し心が揺れる。でも指を鳴らして(Snapping)、先に進む」。こう理解したんですけど。合ってます?

確かに、皆さん「何を歌っているんですか?」と言います。最初はチョンハさんも言いましたから。説明をすれば、理解してくれますが。確かに「Snapping(指を鳴らす)」とは、1曲のテーマにするのは弱い部分がありますよね。だから別のタイトルにして、歌詞を変えようかとすごく迷い、2~3週間考えたのですが、結局元に戻しました。この曲、メディアに配る曲説明の資料では書き切れなかったんですが、男性の方が浮気をしてしまうんです。でも女性の方は好きだから、そこを受け入れて会うことをやめない。でも女性というのは、ある瞬間に気持ちが切れてしまったら、もう会おうとはしないものでしょう。そうなると今度は男性の方が後悔して、残念な姿を見せる。その瞬間のことを描いたんです。でも女性は別れを決意してしまった。そこで指を鳴らすんです。これって、新しい展開を促すときにも使うでしょ? 例えば「照明をONにして」といったときに。

――そういうことだったんですね! まあ恋愛の歌は、「別れを先に告げたのが男性か、女性か」で大きく内容が変わりますよね。

はい……なかなか説明するのも難しくて、最初から理解された方は韓国にもあまりいません! 男性が間違いを犯し、結果、女性の方が先に心が離れてしまったというところですね。

――歌詞の内容を見ると、女性の方も動揺する気持ちを隠していくようなそぶりが見えます。

そうです。もともと好きだった男性が後悔しているんですから。だから「私を次のステップに行かせてほしい」という思いもあるんですよね。だからこの「Snapping」は「相手に対して別れを告げる」という意味に加え、「自分もちゃんとしなきゃ」という意味が込められているんです。これはチョンハさんの解釈でもありますよね。彼女と内容面の打ち合わせをしたんですが、そう理解していましたよ。

韓国でのM COUNTDOWN出演時に

――歌詞のことでもうひとつ聞くと、ブリッジ部分の最後の歌詞で「なぜ、こんなに悲しいの(ウェ イロッケ スルプニ)?」と直接的に言うところがありますよね。ああ、ここは年齢相応の女性だな。ついに本音を言ったな、と捉えたんですが。

うーん、実際のところここの歌詞は、違う言葉を入れたかったんですよ。でも、メロディと文字数の関係があって。入れたいニュアンスがあったんですけど、「字余り」みたいになってしまって! 僕は本来「悲しい」「楽しい」といったストレートな表現はできれば入れたくないんですよ。ここのところは曲を書いていてなんとなく英語だか韓国語だか分からない言葉を当てはめていたんです。「セルポーミー」みたいな。よく分からない言葉。ここを言語化していくのに……すっきりとハマる言葉が見つからなかった。だから最後にエイっと「悲しいの(スルプニ)」という言葉にしたんですよ。

――あはははははは! 読み、大外れです。

個人的には本当にストレートな言葉は使わない方なんですよ! 別の言葉にしよう、と言っていたんですが一緒に作った方が「最初に聞いたガイド(ハミングのバージョン)でも似た発音の音だった。しかも内容が合っている。こうしよう」という意見で。そちらが採用されましたね。話し合いのなかで「悲しいの?」というのは決してベタじゃない。この「悲しいの?」には、彼氏を失って悲しいという悲しさだけじゃなくて、別れ自体が悲しい。そういう意味も含まれているじゃないかと。

――この歌を聞いて、思ったことがもうひとつあります。チョンハは過去の「Why Don’t You Know」では「(サランイ アニラゴ マルルハネヨ)恋じゃないっていうじゃない」と歌っていた。ウブ。恋を知らない。「ローラーコースター」では、相手の男性が近づいては、離れていくんじゃないかという不安を描いています。「すでに12時」では、だいぶ距離感が近くなりました。12時までは相手と一緒にいます。そして続く「Snapping」では……もう、別れちゃうじゃないですか。いったい、チョンハはいつ幸せになるんですか? 心配で心配で。教えてください。

あははは! そうですね、僕自身、女性が彼氏に会って熱くときめく思いというのをあんまり描いたことがないんですよ……別れのテーマが多いです。

今回のファンミーティングの公式ポスターイメージ
今回のファンミーティングの公式ポスターイメージ

男性作曲家が、女性心理を知る方法「大切なのは身近な女性の言葉」

――いずれにせよ、この楽曲は「女性心理を男性が描く」というものでもあります。ふだんから、取材などをされているんですか?

チョンハさんはいわゆる「ガールクラッシュ(女性が憧れる女性)」でしょ? 僕はこのジャンルの曲を多く書いてきたんですよ。今、世界でもそうだろうと思うんですけど、韓国でも「男女の対立」という社会的な問題が起きています。男性の立場が苦しい時もありますし、私の妻や母を見ていて、女性の立場がとても苦しそうに見えるときがありますよ。いろんな思いが交錯します。曲を書くときは、僕が彼女たちからキツいことを言われたとき、調和が必要だなと思った時の心情を留めておいて、創作につなげるんですよ!

――世界事情の話かと思いきや、身近な女性に文句を言われることがソースになっていると!

そういったことを中心に書いています。結婚して、奥さんが僕に怒ったポイントは何か。そこが女性心理の代弁になり、ひいてはガールクラッシュの曲につながるんです。あと、職業上僕の周りには20代前半の女性の歌手がたくさんいます。僕自身、元々言葉が多かったりとか、積極的ではない性格のなか、彼女たちと言葉が交わせるのは貴重なことですよね。数少ない、よく連絡をする人の一人が奥さんですから、彼女とも言葉は交わします。女性と言葉を交わす機会は多い。大部分が女性かもしれませんね。僕自身の性格が男同士でわいわいやる、というところから距離があることもあって。気も弱いですし。そういうところもあって、僕の生活サイクルが女性の歌を書くことに適している面もありますよね。

韓国での番組出演時に/放送局公式アカウントより

――男性でありながら女性心理を描くことは、難しいことではないと。

そうです。僕の場合はむしろ、男性心理の方が、難しいですね。僕、世の男性のテンションとはちょっと違うものを持っていると思いますから。男性は、お酒、女性、そういったものに関心があるとすれば、僕はそこに大きな執着はない。小さいころから、細かいものが好きで、何かを作ることが好きだったんです。友達同士で食事をしていても、「おいおい、今ここに女子を呼ぼうぜ」という話になるんですが「え? なんで? 俺たちだけで話をしたほうが面白いんだけど」となりますね。もちろん、恋愛には興味があるんだけど、軽く遊ぶということが好きじゃない。だから男性のソロ歌手のバラードでは「お酒を飲んで~」といった内容が多いんですが、でも僕はそういったことは描きにくいんです。共感できない部分がありますから。男子アイドルの場合だと、歌詞の世界が心理状況を描くよりは大きな世界観を描く、という方向に行きがちですよね。それもあんまり得意じゃないんです。

――”ガールクラッシュ”というのは、K-POPのシーンでもトレンドのひとつです。40代のおじさんが見ていて、難解な部分はありますよ。でも、存在する以上は知ってみたい。

それこそ、男性が女性心理を知るによいものでもあると思うんです。女性が別れを経験したとき……以前なら受動的な気持ちをずーんと深めていくような曲が多かった。しかし今回の「Snapping」では「I Know I Know(知ってるわよ)」といった歌詞が出てくる。大丈夫よ、といったニュアンスですよね。強くあろうとする姿勢。「あなたが浮気をするのは別にいいわ。でも何度も何度もこういう思いになるのは嫌なの。だから終わりにしましょう」という。かつてなら「なぜ、浮気をするの?」という点を深めたと思うんです。でも最近は「それも分かるけど……」というスタンス。それでも好きだから会ってきた。でも今は嫌になったから会わないという。男性に寄っかかって生きるよりも、自分が主体性をもって生きる。そういう姿です。韓国社会にいても変化は感じますよ。かつては「みんなで楽しもう」という、集団心理が強かったんですが、最近は男性であれ女性であれ、自分ひとりの楽しみをしっかり持とうと考える。

チョンハの印象は「感謝の心をしっかり表現できる人」

――チョンハ本人とも交流がおありですか?

レコーディングの時に会い、先日のショーケースで会った。この2度ですよね。まだ個人的に親しいというところまではきていません。今回、はじめて仕事をしたというところなんで。何より、僕がかなり人見知りをするほうでして……。そういったなかで、感じるのはとても情熱的な人だということですよね。ずっとくじけずに自分の道を進んでいる人ですから。そして感謝の心をしっかりと表現できる人ですよね。プライベートなところまではまだ分からないですけど。とてもよい印象が残っています。

筆者撮影
筆者撮影

――レコーディングの時、彼女が難しそうにしていた点は?

フックの部分ですよね。「I KNOW I KNOW I KNOW I KNOW」という歌詞を歌う時に少し。実際、この歌はガイド(仮に別の歌手が歌い、アーティスト本人に最初に聞かせる)を私たちの事務所の研究生に歌ってもらったのですが、彼女がすごくソウルフルで、ハスキーな声だったんです。チョンハさんとは逆の個性ですよね。だからあまりそちらに引っ張られないように心がけていたようなんですが、それでもファーストインプレッションは頭に残る。少し”混線”といった状態になりました。彼女も、僕も。うまく感じが掴めず、幾度か録音をやり直しましたよね。

――チョンハの歌声、確かに魅力的です。先生も以前からご注目を?

はい。とても”スカッとする声”といいましょうか。好きですよ。ただ、どちらかというと彼女のパフォーマンスのほうに注目してきましたよね。歌は当然上手いものだと、大きく注目はせずに。さきほどもパフォーマンスを引き出す、という話をしましたが、このSnappingは彼女のボーカルということを考えると、その”ハマり度”は80%くらいだと思います。レコーディングをしながら改めて感じたのですが、チョンハさんのボーカルというのは、音を長くとってのびやかに歌ってもらうことで、本来の特長をうまく引き出せるのです。でも今回のSnappingはどちらかというと短く切る音が多いんです。でも彼女はこれを消化してくれてありがたいです。世にリリースしながらも、少し私が気にかけているところですよね。パフォーマンスメインに少し偏った部分があるんじゃないかと。「ここで、こんなダンスがいいんじゃないか?」そういうことを想像しながら作った部分が多いですから。ステージを見たんですが、総合的に見るとやっぱりカッコいいですから。

筆者撮影
筆者撮影

【K-POP論】「まずは心のままに」。8月来日チョンハの振付師チェ・リアンが語る「ダンスの作り方」

――こうやって苦労して作った楽曲が世に発表される。どんな気分ですか?

嬉しいですよ。相当。注目してもらえて。ただ、僕がタイトル曲を書いたのはこれが十数回目くらいだと思うんですが、少しずつ心境に変化が出てきているのも確かです。以前はただただ嬉しくて喜んでいたのですが、最近は……心配なんですよね。僕が批判を受けるならまだしも、歌手がそういう目に遭うんじゃないか。そういう不安ですよね。厳しいファンは、とても厳しいことを言うんです。少しだけ成績が悪いと「下降線だ」といった評価になる。もちろんネットのコメント欄のすべてを気にかけることはないんですが……。今回は歌手側のスタッフ、私たちのような制作側が、すべて「変化する」という統一された意思の下で動きました。チョンハさんも「成績に関係なく、自分たちが満足して、幸せだと思うことをやれることが嬉しい」と。歌手のサイドがそういう選択をしたことも、とても素晴らしいことだと思いますよ。カッコいい。僕はずっと……不安で! まあ批判意見は作曲家のほうに来がちですよね。いずれにせよ、上手くいっている彼女に迷惑をかけないだろうかと……。

――最後に、今回のSnappingを楽しむ日本のファンにメッセージを。

僕も時折日本関連の作曲を手掛けています。ただ……僕自身の日本に対する理解度はまだまだだと思うんですよね。まあ、どの国への理解度も低いんですが。韓国語すら流暢ではないくらいで。まあ言い換えるなら日本についての理解度が低いのではなく、この作曲作業室(インタビュー現場)以外の世界をあまり知らないということですよね。だからMAMAMOOの公演を観に日本から観にいらしたり、僕自身が日本の楽曲を手掛けたりしますが、どういったものを好んでくださるのか、まだまだ知らないんですよ。だからいつも気になっていますし、行ってみなけりゃという思いを持っています。ああ、何をお伝えしましょう……いずれにせよ、一緒に楽しみを共有できるような音楽を作っていきます。今後ともよろしくお願いします! 

--

人見知りする、と言いながらも本当によく喋ってくださったパク・ウサン先生。作曲のスタートで「心の感じるままに作業を始めた」という点には少しハッとした。今夏同じく「Snapping」に携わった振付師チェ・リアン氏の話と同じだったので。作曲家&振付師の「感じるままに」が形になっていった楽曲「Snapping」。ライブで聴ける機会をお見逃しなく!

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

吉崎エイジーニョの最近の記事