台風であってもなくても
台風と熱帯低気圧、その差は皮一枚ほどの違いでしかない。しかし、世の中の受け取り方には大きな差がある。今から17年前の夏、この誤解が痛ましい事故につながり、台風の表現が見直された。台風であってもなくても、雨の強さに大きな違いはないが、今もなお、理解は進んでいない。
【追記1】2016年8月19日16時30分
熱帯低気圧cは19日午後3時、台風9号になりました。今後、発達しながら北上し、日本列島に近づくおそれがあります。
【追記2】2016年8月20日
熱帯低気圧aは19日午後9時、台風10号になりました。今後も西寄りに進む見込みです。
最新の台風情報をご確認ください。
日本列島に近づく3つの熱帯低気圧
台風7号の爪痕が残るなか、次々と台風の卵が発生しています。そのうちの熱帯低気圧aと熱帯低気圧cは今後、発達して台風となる可能性があります。
一般に、熱帯低気圧は台風になる前の弱いものというイメージがありますが、気象学では熱帯の海で発生する低気圧の総称をいいます。日本では中心付近の最大風速が17メートルを超えたものを「台風」と呼んでいます。
極端なことを言えば、最大風速が1メートル違うだけで、台風と呼ぶのか、熱帯低気圧と呼ぶのか、分かれてしまうのです。実際はここまで極端なことはありませんが、風速の強弱で呼び名が変わってしまうことを知っている人は多くないでしょう。
さらに、雨も弱まってしまうと誤解する向きもあると思います。
熱帯低気圧の誤解が悲劇を生んだ
今から17年前の夏、神奈川県西部を流れる玄倉川の中州でキャンプをしていた家族らが濁流に流され死亡する痛ましい事故がありました。
当時は熱帯低気圧が関東地方を通過し、関東西部の山沿いでは激しい雨が降りました。神奈川県相模湖町の日降水量は302ミリに達し、未だに、この記録は破られていません。
当時は今とは違って、台風になる前の熱帯低気圧を「弱い熱帯低気圧」と呼んでいました。この事故の衝撃は大きく、「弱い」という表現が熱帯低気圧を甘くみた原因になったとの指摘が相次いだのです。
この事態を重く見た気象庁は防災上の観点から、弱いという表現は好ましくないとして、熱帯低気圧と台風の表現を見直し、今に至っています。
台風であってもなくても
今の表現方法となって16年が経ちましたが、残念ながら、この誤解は今も残っています。
今年の台風シーズンは例年とは様子が違い、17年前の夏を思い出させるように日本近海に複数の熱帯低気圧があり、北上しています。
今ある3つの熱帯低気圧は今後、台風へと発達するものがあるようです。台風になってもならなくても、雨を降らせる力に大きな違いはありません。呼び名の違いだけで判断することの怖さを今一度、思い出してほしいと思います。
【参考資料】
上野達雄,2000:台風の大きさ・強さ及び熱帯低気圧の分類の表現変更,気象5月号,日本気象協会,4-8.
神奈川新聞:甘くみられた「熱帯低気圧」,1999年8月24日