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デ・ロッシ解任でローマCEOの安全に懸念 8歳&3歳の子にも護衛、元会長「恐怖味わってほしくない」

中村大晃カルチョ・ライター
5月12日、セリエAアタランタ戦でローマを率いていたデ・ロッシ(写真:ロイター/アフロ)

ローマは新体制が決まっても不穏な空気に包まれている。ダニエレ・デ・ロッシ監督の解任から3日、リナ・スルークCEOの身の危険が心配されているのだ。

『Adnkronos』が報じ、各イタリアメディアが伝えたところによると、スルークCEOには2日前から護衛がついているという。『La Gazzetta dello Sport』紙によれば、24時間警備するボディーガードではなく、決められた時間に見回りが来るかたちの様子。8歳と3歳の子どもたちの通学時も警備されているという。

■CEOは「ローマの悪」?

レジェンドOBのデ・ロッシが解任されて以降、サポーターは怒りをあらわにしている。オーナーのフリードキン家やスルークCEOに対する批判は絶えない。一部は先鋭化しつつある。

先日も、練習場の外に「DDR(デ・ロッシ)はローマの海、リナはローマの悪」と、スルークCEOを非難する横断幕が掲げられた。

日に日に高まる緊張感を受け、当局はスルークCEOの身の危険を懸念しているようだ。

■批判の的となった理由

なぜ、スルークCEOはサポーターから非難されているのか。それは、デ・ロッシ解任に大きく影響したとも言われるからだ。スルークら経営陣とデ・ロッシの溝を指摘する報道は少なくなかった。

『calciomercato.com』は、スルークがデ・ロッシの契約延長を望まず、ラッファエッレ・パッラディーノ(現フィオレンティーナ監督)の招へいを狙っていたとも報じている。

また、『La Repubblica』は、サウジアラビア移籍寸前に残留を選んだパウロ・ディバラを巡る衝突を伝えた。45分超の出場14試合で契約が自動的に延長されるのを避けるため、スルークがデ・ロッシに起用制限を要求したが、不服の指揮官は辞意を表明、だがクラブは却下したというものだ。

スルークとオーナーの対応への不満も伝えられている。

フリードキンやスルークは公に意見を表明する機会が少ない。『calciomercato.com』は、ジョゼ・モウリーニョ元監督が解任されて以降、1月から経営陣が沈黙を貫いていると指摘した。

オーナーからの信頼があついスルークだが、ファンに人気だったジョゼ・モウリーニョ監督や、チアゴ・ピント前GM、そして今回のデ・ロッシと、常に衝突がうわさされてきた。各々がクラブを去ってからも、スルークたちから説明はない。その姿勢にファンはフラストレーションを募らせているという。

■恐怖の連鎖を嘆く声

しかし、言うまでもないだろう。

たとえどんな理由があろうと、身の危険にさらされることがあってはならない。未就学児や小学生を警護しなければならない状況こそが異常だ。

熱狂する街の負の側面をよく知る人物も声をあげた。元会長のロゼッラ・センシである。

同じ女性、同じ母として、センシはスルークの現状に心を痛めているようだ。インスタグラムへの投稿で、「抗議、批判、不同意は正当」としつつ、「暴力は絶対に正当ではない」と強調した。

センシは、「私はその恐怖をよく知る」と、自らの体験をまじえ、スルークの現状を憂いている。

「生後25日の娘といた自宅に石を投げられたことを覚えている。私も護衛を経験した。あのような恐怖を誰にも味わってほしくない。だから、スルークCEOに対する全面的な連帯を表明したい。あくまで市民的な抗議にとどまり、恐怖を抱かず自由に生きる権利を持つ人々の私生活に焦点が当てられないことを願う。そうなると確信している」

■応援ボイコットで始まる新体制初陣

イバン・ユリッチ新監督が就任したローマは、9月22日のセリエA第5節でウディネーゼと対戦する。本拠地オリンピコに大きな緊張感が漂うことは想像にかたくない。実際、クルヴァ・スッドのウルトラスは、開始30分はスタンドに入らないと表明した。

好調の首位チームを撃破し、今季初白星をあげれば、ムードは変わっていくのか。いずれにしても、どんな展開になろうとも、安全が脅かされるような事態にならないのを願うばかりだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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