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大学最後のホームゲームで自己最多の31点。いろいろな思いがよぎって感情を抑えきれなかった渡邊雄太

青木崇Basketball Writer
両親の目の前で最高のプレーを見せた渡邊 (C)Takashi Aoki

 2月28日のフォーダム大戦は、渡邊雄太にとって4年間ハードワークを続けた体育館でのラストゲーム。試合前には日本から駆けつけた両親と一緒にコートへと入場し、大学から感謝の意を込めた背番号12のジャージーが入った額をプレゼントされた。そんな特別なゲームで、渡邊は最高のパフォーマンスを見せる。

 ティップオフから29秒後、渡邊が打った最初のシュートは見事にリムの間を通過。前半15分29秒と15分2秒に3Pシュートを立て続けに決めると、完全にリズムをつかんだだけでなく、今シーズンで最も貪欲と思えるくらい、アグレッシブに得点を狙う姿勢を見せる。

「今日は本当に試合が始まったら何も意識することなく、いろいろ余計なことを考えちゃうと自分のプレーに影響すると思ったので、シュートを狙うことを考えて、今日がシニア・ナイトとか、親が日本から見に来てくれたとかは一切考えず、とにかく攻め気で行こうと思っていて、その結果いいプレーができたのでよかったなと思っています」

(C)Takashi Aoki
(C)Takashi Aoki

 こう語った渡邊は、速攻からのダンク、ミドルレンジからのジャンプシュートなどで得点を重ね、前半だけで19点を奪う。前半の終盤からフォーダム大のイバン・ラウトにボールが渡らないよう徹底的にマークされ、なかなかシュートを打てない時間帯もあった。それでも、トランジションでボールを持てば、躊躇することなくゴールへアタックしてフリースローをもらって得点。相手がゾーン・ディフェンスをしてきた場合は、キャップに切れ込んでからのジャンプシュートを高確率で決めていた。

 ジョージ・ワシントン大が終始2ケタのリードを維持して迎えた試合時間残り2分59秒、1本目のフリースローを決め、自己最多を更新する30点目を決めた直後、渡邊はいろいろあったこの4年間のことが頭をよぎったのか、感情を抑えきれなくなってしまう。なんとか気持を切り替えて2本目も決めて31点目を記録すると、1分7秒でベンチに下がることがわかった瞬間に涙が止まらなくなった。

 モーリス・ジョセフコーチを筆頭に、コーチ陣、チームメイト、スタッフとのハグをしている間に試合は終了。そして、ジョージ・ワシントン大のホームアリーナ、チャールズ・E・スミス・センターに駆けつけた観客からは、“YUTA! YUTA!”の大合唱が起こった。アシスタントコーチ、そしてヘッドコーチとして4年間一緒に過ごしたジョセフは、渡邊の人間性とハードワークがもっと称賛されるべきと強調する。

「彼は男として、選手として、ディフェンダーとして成長し、アグレッシブさと自己主張を見せたことにとても清々しい気分になった。成長のプロセスは信じられないものだよ。彼は素晴らしい子で私心のない人間、もちろんすごくいい選手なのも明らか。特別なんだ。皆さんにわかってもらいたいのは、彼がチームに何かを与えようとする姿勢の一貫性がどのくらい信じられないことで、いかにすごいかということだ。腰の状態はすごく悪いし、手首のテーピングも3年間続いている。たくさんのシュートを打ってきたし、ゲームで手首を相当働かせているから、何度もケガしてきた。身体を痛めつけられるようなことがたくさんありながらも、出場時間が全米でトップ26(36.5分)ということに加え、相手のベストプレーヤーをディフェンスすることをみずから志願してやっている。

 学業でも他の選手が6時間のスタディーホール(自習)なら、彼は15時間でも決して文句を言わない。彼はスタンディング・オベーションに値するし、もっと称賛されるべきだと思う」

 大学で最後のホームゲームとなるシニア・ナイトで、自己最多を更新する素晴らしいパフォーマンスによって勝利を手にしたことは、渡邊のハードワークが報われた瞬間と言ってもいい。また、両親が観戦した試合でいいプレーをできたことも、渡邊にとっては大きな意味があった。「この体育館で僕がプレーしているところを親に見てもらいたいというのがありましたし、試合前の入場で親と一緒にコート上に歩いていき、一緒に写真を撮ったりとかしたいと思っていました。今日の試合は満足してくれたんじゃないかな」という言葉が、すべてを象徴している。

 寮にいるよりも長い時間を過ごしたというスミス・センターで、渡邊が試合でプレーすることはない。ジョージ・ワシントン大の14勝16敗という今シーズンの成績では、アトランティック10トーナメントで優勝するしか全米王座を決めるNCAAトーナメントに出場できない。しかし、渡米した時の夢であったマーチマッドネスの舞台に立つために、渡邊にとって家のようなスミス・センターでのハードワークはまだまだ続く。

"Nothing is impossible."

 不可能はないと信じて…。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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