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女性主人公の映画が微増ながら着実に増えるハリウッド。40代スターの地道な努力も要因? 日本では?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
女性主人公の作品を積極的にプロデュースする、オスカー女優リース・ウィザースプーン(写真:Shutterstock/アフロ)

フォーブス誌が恒例の今年いちばん稼いだ男優ランクを発表し、1位はジョージ・クルーニー2億3900万ドル。先日発表された女優版では、1位のスカーレット・ヨハンソン4050万ドルだから、相変わらずハリウッドの男女格差は大きい。それでもスカーレットは、男優7位のアクシャイ・クマール(インド映画のスター)と同額。昨年、女優1位のエマ・ストーンが、男優では14位のライアン・レイノルズと同額だったことを考えれば、少しは格差が縮まったとも言える。

今年のランクにまつわる記事の中では、「映画でセリフを与えられている登場人物のうち、女性の割合は28.7%」というデータも紹介されていた。これは2016年の調査だが、それゆえに高収入を得られる女優が少ないという結論だった。

これまでもさまざまな記事で、ハリウッドにおけるこの男女格差は報じられおり、意識的にその格差を改善していこうという動きは見られる。しかし現実には、男性登場人物メインの作品がまだまだ数が多く、必然的に大ヒットにつながるという循環は崩れていない。

徐々に変わりつつあるメガヒット作の傾向

たとえば2018年、現時点までの北米ボックスオフィスを振り返ると、実写映画でメガヒットの目安となる1億ドルを突破した作品は、全部で14本。その内訳を男性/女性の主人公で分けてみると……。

男性主人公:8本

女性主人公:6本

※女性の6本のうち2本は「男女ほぼ同等だが、どちらかといえば女性」という判断の作品

男性側の作品は『ブラックパンサー』(1位)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2位)など、女性側の作品は『オーシャンズ8』(11位)、『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』(14位)など。

現在、日本でも公開中の『オーシャンズ8』。メインキャストの8人は、すべて女優。
現在、日本でも公開中の『オーシャンズ8』。メインキャストの8人は、すべて女優。

続いて2017年。実写の1億ドル突破作品は全部で27本。内訳は

男性主人公:20本

女性主人公:7本

そして上記の調査が行われた2016年は全部で24本。

男性主人公:16本

女性主人公:7本

同等:1本(『ラ・ラ・ランド』)

メガヒット作品で、女性主人公の映画という割合を、過去に遡ると以下のような数字になった。

2018年 42.9%

2017年 25.9%

2016年 30.4%

2015年 38.1%

2014年 25.0%

2013年 14.8%

2012年 18.2%

2011年 19.0%

2010年 25.0%

ゆっくりだが女性主人公の割合が増加していることがわかる。2017年は本数こそ少ないが、トップ3の『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』『美女と野獣』『ワンダーウーマン』がすべて女性主人公だったことを考えると、本数の割合以上にインパクトが大きかったことがわかる。(興行収入のトータルだと、女性主人公映画が32.1%のシェア)

基本的にブロックバスターとなるアクション超大作は、やはり男性が主人公になるケースが多くなるのは仕方ない。しかし『ワンダーウーマン』や、今後公開されるマーベルの『キャプテン・マーベル』、または過去は男性が主人公だった『ゴーストバスターズ』や『オーシャンズ』を女性チームに変えるなど、明らかに女性が主人公の大作も目立つようになってきた。一般的な感覚として、女性主人公の映画がわずかだが増えていると感じられるのだろう。

日本映画ヒット作の男性/女性主人公の割合は?

では、日本映画の場合はどうか。興行収入が10億円を超えた実写ヒット作を、同じように主人公の性別で分けてみると

2018年(現時点まで)

男性主人公:6本

女性主人公:2本

同等:4本

2017年

男性主人公:18本

女性主人公:3本

同等:7本

ハリウッドと同じくアクション作品では、やはり男性が主人公になるケースが多く、また近年の日本映画に多い人気コミックの実写化でも男性主人公の原作が圧倒的に多く、少女コミックの場合は「男女同等」のパターンが多いので、女性が単独主人公の作品が目立たない。主演男・女優を同等に扱わなければならない「オトナの事情」が見え隠れする作品もある。

女性主人公映画の割合を、2018年から2010年まで遡っていくと

25.0%→14.3%→28.6%→19.0%→33.3%→12.5%→18.5%→21.7%→35.3%

たまに30%超えの年があるが、10%代の年も多く、少なくとも上昇傾向は見られない。

ベテラン女優たちが率先する意識的な動き

先述のフォーブスの「いちばん稼いだ女優ランク」では、ベスト10のうち4人が40代であることも話題になったが、5位のリース・ウィザースプーンに代表されるように、意識的に女性を主人公にした映画を作ってきたスターもいる。現在42歳のリースはあの『ゴーン・ガール』の映画化に率先して動き、自身の製作会社、パシフィック・スタンダードで完成にこぎつけた。企画が止まっているが、伝説の歌手、ペギー・リーの伝記映画など、女性を主人公にした作品を意識的に送り出す姿勢が明らか。2位のアンジェリーナ・ジョリー(43歳)は、自身の監督作で女性のキャラクターを中心にはしていないものの、圧倒的に男性が多い映画監督の世界で着実に映画を撮り続けることで、他の女優や女性監督の指針となっている。8位のケイト・ブランシェット(49歳)は、今年のカンヌ国際映画祭で審査委員長を務めた際に、男性が過半数を占めていた過去の審査員の内訳をしっかりと批判。『オーシャンズ8』のような作品にも積極的に参加する。今年はランク外だったが、シャーリーズ・セロン(43歳)は、現在公開中の『タリーと私の秘密の時間』で20kg近く増量し、ボテボテのお腹をさらすという、大スター女優らしからぬチャレンジ精神に溢れ、少しでも女性主人公の幅を広げようとしている。

こちらも現在、日本で公開中の『タリーと私の秘密の時間』。シャーリーズの女優魂を確認できる。
こちらも現在、日本で公開中の『タリーと私の秘密の時間』。シャーリーズの女優魂を確認できる。

女性の役が少ない問題に、ギャラの格差などが取りざたされるなか、こうしてスター女優たちの率先した「演じる役の拡大」が、少しずつだがハリウッドを動かしているように感じられる。30代のスカーレット・ヨハンソンや、昨年「稼いだ女優」1位のエマ・ストーン、監督2作目の企画も進んでいるナタリー・ポートマンらが、彼女たちの意思を受け継ぎそうだ。

日本では、俳優自身が作品をプロデュースしたり、自ら企画を立ち上げるケースは、大ヒットを狙うメジャー会社の作品では、なかなか見られない。しかし、今年2月に公開された『リバーズ・エッジ』は、主演を務めた二階堂ふみが、岡崎京子の原作に惚れ込んで自ら映画化を模索し、結実させたという例もあり、彼女たちの積極的な、そして地道な動きが、現在のハリウッドの40代スターのような実績につながればいいと思う。現実的には難しい面も多いが、常識を変えることが、日本映画の新たな方向性を示すのだと信じたい。

『オーシャンズ8』

(C) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『タリーと私の秘密の時間』

(c) 2017 TULLY PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

参照記事:

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180817-00022553-forbes-ent&p=1

https://www.forbes.com/sites/natalierobehmed/2018/08/22/the-worlds-highest-paid-actors-2018-george-clooney-tops-list-with-239-million/#2bec01487dfd

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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