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今、地方都市で人気マンション続出。理由は「コロナ移住」ではなかった

櫻井幸雄住宅評論家
札幌中心地で販売されているマンション住戸の例。筆者撮影

 沖縄、福岡、大分、高知、札幌など地方都市で、資料請求が殺到したり、短期間に完売する人気マンションが目立っている。

 その現象から、「東京からの移住」が連想されがち。テレワークの広がりで、地方の自然豊かな場所に居を構え、のんびりした生活を楽しむ人が増え出したのだろう、と。

 しかし、実情を調べると、東京からの移住組は少ない。この1年間で200戸以上を販売した札幌市内のマンションで聞き取り調査したところ、2件あっただけ。大きな流れにはなっていない。

 そして、外国人の購入者もほとんどいなかった。では、どんな人が買っているのか。人気マンションが続出する札幌市内のマンションを取材すると、道内在住の50歳以上が購入者の半数以上を占めるなど、地方ならではの意外なマンション事情がわかった。

札幌市内では、価格上昇しても、マンションが売れる状況

 札幌市内では5年ほど前から新築マンション価格が上昇。現在、札幌中心地の新築マンション価格は、3.3平米あたりの価格が260万円から300万円。70平米の3LDKが5500万円から6000万円になる水準だが、北海道のマンションは80平米以上が多いので、実際の売値はもっと高額だ。

 JR札幌駅の隣駅でも、駅から徒歩3分以内の新築マンション3LDKは4000万円以上が普通になっている。その価格水準でも、好調に売れるマンションが続出。一昨年から昨年にかけては、「ザ・タワーズフロンティア札幌」というマンション(300戸弱)が短期間に完売した。同マンションは札幌中心地から1キロメートルほどの距離で、地下鉄駅から徒歩8分なのだが、現在の中古価格が80平米台住戸で6000万円台、90平米台住戸で7000万円台と高値をつけている。

再開発が進む駅周辺が注目エリア

 「ザ・タワーズフロンティア札幌」が建設されたのは、地下鉄東西線のバスセンター前駅の近く。再開発による新しい街づくりが進んでいる場所だ。同様に、再開発が進んでいる場所が、JR函館本線で札幌の隣駅である苗穂駅周辺だ。

再開発が進む苗穂駅周辺。奥で建設中のマンションが分譲中のもの。大型商業施設「アリオ札幌」があるのも、人気の理由だ。筆者撮影
再開発が進む苗穂駅周辺。奥で建設中のマンションが分譲中のもの。大型商業施設「アリオ札幌」があるのも、人気の理由だ。筆者撮影

 苗穂駅周辺では、現在、2つの超高層マンションが分譲を行っており、北口側、ペデストリアンデッキで徒歩1分に位置するマンションでは、1年ほど前から販売を開始。全300戸のうち、すでに220戸ほどが売れている。

 その購入者の大半は道内在住者。そして、約半数が50歳以上であることが特徴となっている。

 50歳以上の購入者が多いのは、札幌の分譲マンション全般に共通する特徴でもある。

 その理由として以前から言われているのが「マンションなら、冬の雪下ろしや雪かきから解放される」ことだ。

 北海道で一戸建てに住めば、冬の間、屋根から雪を下ろす作業と家の前の道路の雪かきを続けなければならない。高齢になれば、その労力が大変だし、危険でもある。

 その点、中心地のマンションであれば、屋根の雪下ろしが不要で、目の前の道路が融雪されているところが多い。入り口まわりや駐車場の雪かきは、管理スタッフが行ってくれる。楽なこと、この上ない。そして、郊外で暮らす人には、一度は札幌で都会暮らしをしてみたい、という憧れもある。

 その夢を、シニア生活の前に実現する人が多いのだ。

「歳を取ったらマンション暮らし」が増える、別の理由も

 「歳を取ったらマンション暮らし」が広がるのには、別の理由もある。それは、温暖化の影響なのか、巨大台風など自然災害が増えたことによる影響だ。

 近年、日本全国で猛烈な台風やゲリラ豪雨などにより水害に見舞われる地域が多発している。洪水や山崩れが起きたとき、都市部から離れた山村では被害が大きくなる傾向があるし、復旧までの時間もかかる。

 崖崩れで分断された道路が完全復旧するまで数年がかりというケースもある。その怖さや不便さを感じた人たちが、災害に見舞われても被害が少なく、復旧もはやい都市部のマンションに移ろうとしているわけだ。

 札幌に限らず、全国の地方では、コロナ禍も怖いが、多発する自然災害も重大な問題。だから、安心、安全な都市部のマンションに移り住む人が各地で増加傾向にあるのだろう。

 その際に好まれる再開発エリアの大規模マンションが、札幌市内では次々に登場している。それが、札幌で高人気マンションが続いている理由と考えられる。

 最後に、50歳以上が都市部のマンションを購入する場合、「子の賛同を得やすい」という傾向についても触れておきたい。

 駅に近い再開発エリアのマンションであれば、将来も値下がりしにくいし、賃貸としても活用しやすい。だから、「貯金を崩してマンションを買う」と親が言い出しても、子たちが賛成してくれやすい。つまり、50歳以上のマンション購入が実現しやすいのだ。

 若い層よりも、50歳以上が中心地の再開発マンションを熱心に購入検討する……この動きは、今後も全国各地で増えてゆきそうだ。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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