日本で年間「20万人以上を殺す病気」とは
タバコが健康に悪いことは周知の事実だが、どれくらいの人の命を奪っているのだろう。喫煙者の多くは非喫煙者よりも早く病気にかかり、寿命も短い。タバコが、いかに多くの人を不幸にしているのかは、もっと広く知られるべきだろう。
タバコは多くの人を殺す
厚生労働省の研究班がまとめた「たばこ対策の推進に役立つファクトシート(2021年版)」によれば、日本でのタバコによる超過死亡数(2019年、タバコ原因のみの死亡数)は年間21万2000人となる。世界的にもタバコにより年間約870万人が亡くなっていて、日本では高血圧の死者が最も多いが、世界ではタバコによる死者が最も多い(※1)。
厚生労働省の過去調査によれば、喫煙者の約54%がニコチン依存症(WHO疾病分類)と推計されている(※2)。現在の日本の喫煙率を17%とすれば、日本人の約1100万人が治療の必要なニコチン依存症という病気にかかっていることになる。
ニコチン依存症を引き起こすタバコは、日本だけでも年間 20 万人以上を殺す製品というわけだ。さらに、受動喫煙の死者(年間1万5000人、肺がん、虚血性心疾患、脳卒中)を含めると、この数はもっと増える。
社会的負担も大きいタバコ
タバコ関連疾患による超過医療費(介護費などを含む)などの経済損失は総額で約1兆8000億円だ。病気になれば本人のQOL(生活の質)も悪くなるし、家族の負担も増える。
「喫煙は予防できる単一で最大の病気の原因」といわれ、最初からタバコを吸わず、喫煙者が全てタバコをやめれば、タバコが原因で亡くなる人はもちろん、経済損失も社会的な負担もなくなる。
タバコが原因の病気には、がん(肺、口腔・咽頭、喉頭、鼻腔・副鼻腔、食道、胃、肝臓、膵臓、膀胱、子宮頸部など)、循環器系の病気(虚血性心疾患、脳卒中、腹部大動脈瘤など)、呼吸器の病気(慢性閉塞性肺疾患=COPD、呼吸機能低下など)、2型糖尿病、歯周病、低出生体重児・胎児発育遅延、アルツハイマー型認知症など、多くのものがある(※3)。
例えば、国立がん研究センターが2019年に発表した論文(※4)によると、全くタバコを吸わない人に比べ、現在喫煙者がすい臓がんになるリスクは男性で1.59倍、女性で1.81倍であり、喫煙量と喫煙年数にも、すい臓がんの発症リスクと関係があることが示された。
また、加熱式タバコにも含まれるニコチンが加熱によって化学反応したり、体内で代謝される際に発生する発がん性物質のニトロソアミン類(TSNA)が、すい臓の腺がんの発生に関係していると考えられている(※5)。
前述した「たばこ対策の推進に役立つファクトシート」(2021年版)によれば、タバコの影響による死亡は全ての病気の中の15.1%、健康状態の悪化は12.1%となっている。また、タバコがなかったら男性の平均寿命は1.8年、女性は0.6年伸びたと推計されている。
厚生労働省の人口動態統計によれば、新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)による死者は、2020年が3466人、2021年が1万6766人、2022年が4万7638人となっている。タバコによる毎年の死者は、少なく見積もっても新型コロナの何倍も多い。
そもそも一般に売られていて、パッケージに命を落とす危険性があると書かれている製品はタバコだけだ。毎年5月31日は世界ノータバコデー(世界禁煙デー)だが、この記事を読んでいるあなたがもし喫煙者ならタバコをやめることを考えてみたらどうだろうか。
※1:GBD 2019 Risk Factors Collaborators, "Global burden of 87 risk factors in 204 countries and territories, 1990–2019: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019" THE LANCET, Vol.396, Issue10258, 1223-1249, 17, October, 2020
※2:厚生労働省「平成10年度 喫煙と健康問題に関する実態調査」
※3-1:J V. Been, et al., "Effect of smoke-free legislation on perinatal and child health: a systematic review and meta-analysis" THE LANCET, Vol.383, Issue9928, 1549-1560, 2014
※3-2:K Frazer, et al., "Legislative smoking bans for reducing harms from secondhand smoke exposure, smoking prevalence and tobacco consumption" Cochrane Database Systematic Review, Vol.2(2), CD005992, 2016
※3-3:T Faber, et al., "Effect of tobacco control policies on perinatal and child health: a systematic review and meta-analysis" THE LANCET Public Health, Vol.2(9), e420-e437, 2017
※3-4:Y Rando-Matos, et al., "Smokefree legislation effects on respiratory and sensory disorders: a systematic review and meta-analysis", PLoS One, Vol.12(7), e0181035, 2017
※3-5:T Faber, et al., "Tobacco control policies and perinatal and child health: a systematic review and meta-analysis", Tobacco Induce Disease, Vol.16(1), 157, 2018
※3-6:M Gao, et al., "The effect of smoke-free legislation on the mortality rate of acute myocardial infarction: a meta-analysis", BMC Public Health, Vol.19(1), 1269, 2019
※3-7:M K. Radó, et al., "Cigarette taxation and neonatal and infant mortality: a longitudinal analysis of 159 countries", PLOS Glob Public Health, Vol.2(3), e0000042, 2022
※4:Yuriko N. Koyanagi, et al., "Smoking and Pancreatic Cancer Incidence: A Pooled Analysis of 10 Population-Based Cohort Studies in Japan" Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention, Vol.28, Issue8, 1, August, 2019
※5-1:Hildegard M. Schuller, "Mechanisms of smoking-related lung and pancreatic adenocarcinoma development" nature reviews cancer, Vol.2, 455-463, 1. June, 2002
※5-2:Xin Chen, et al., "4-(Methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone provokes progression from chronic pancreatitis to pancreatic intraepithelial neoplasia" iScience, Vol.25, Issue1, 21, January, 2022