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ACLのヒントにも? “隙を作らず、隙を突く”ハリルホジッチが日本サッカーにもたらす勝利の戦術

河治良幸スポーツジャーナリスト

バヒド・ハリルホジッチが日本代表監督に就任することがほぼ確実となった。

アギーレ前監督は就任する前の時点で、もともと筆者はブラジルW杯で監督をつとめた4人の人物(ペケルマン、サンパオリ、ピント、ハリルホジッチ)を推していて、そのうちの1人がハリルホジッチだったのだが、トルコのトラブゾンシュポルと契約してしまい、日本は早い段階でハビエル・アギーレに決まったことから、アギーレ・ジャパンの取材に気持ちを切り替えていた。

アギーレはアギーレで2度のW杯で母国メキシコをベスト16に導いた実績があったし、オサスナで強豪チームを打ち破ったサッカーは現在の日本に欠けている部分だと思っていたので、それなりに期待しながら取材していた。しかし、八百長疑惑のあおりを受ける形で、準々決勝で敗退したアジアカップの直後に契約解除となってしまった。選手の評判は良く、まだまだ引き出しがあったはずで、もっとアギーレ・ジャパンを見てみたかったのが正直な気持ちだ。

ただ、悔やんでばかりいても仕方がない。あらためて4人の人物を見ると、ペケルマンはコロンビア、サンパオリはチリでブラジルW杯からそのまま継続しており、ピントはブラジルでベスト8に躍進したコスタリカ代表の監督を辞任したが、昨年11月の親善試合で日本に大敗したホンジュラスの監督に就任していた。だが、もう1人のハリルホジッチはすでに双方合意の形でトラブゾンシュポルを契約解除し、フリーの身となっていたのだ。

協会があげていた基準に照らし合わせて考えれば、当初スポーツ新聞やテレビにハリルホジッチの名前があがらなかったことが驚きだった。しかし、霜田委員長は水面下でしっかりとハリルホジッチを評価し、交渉の道を探っていたということだろう。とっぴょうしもない高額なビッグネームはさておき、日本が契約できる指導者ではベストチョイスではないだろうか。監督に100%の成功は無いが、今回の選択と基本合意までこぎ着けた関係者の努力は評価したい。

ハリルホジッチはハードワークと素早い攻守の切り替えをベースに、シンプルで速いパスをつないで縦に迫力を出して行くのが基本スタイルで、出来る限り高い位置でボールを奪うために前からプレッシャーをかける。中途半端に長くボールを持つことを嫌い、つなぐ時は素早く、ドリブルは高い位置で縦を狙う時にほぼ限定させている。中盤ではなるべくリスクをおかさない様に指示を徹底するが、フィニッシュ時には5、6人の選手がアタッキングサードに侵入することをチームで共有させる。

つまりトータルの運動量だけでなく、動き出すタイミングの判断力や必要な時に数十メートルをスプリントできる瞬発力と持久力などが重視されるということだ。またそれらを個として発揮するだけでなく、味方とうまく共有してバランス良く繰り出していく必要がある。おそらく最初はある程度、自分の理想とするスタイルを実現できる万能型の選手を何人か中心に置きながら、ドリブルやフィニッシュなどで違いを出せる個性的な選手を加え、彼らの持ち味を失うことなく動きの量や質、判断力を高め、チームを組み立てていくはずだ。

高い位置でボールを奪い、前線に攻撃の迫力を出していくことを理想とするが、ブラジルW杯のドイツ戦の様に、相手の中盤がハイレベルであれば、リトリートで縦を切り、そこからボール保持者にプレッシャーをかける戦いかたを選択することもできる。しかも、そうした守備からでも攻撃に切り替わればしっかり危険な攻撃を繰り出せるのがハリルホジッチの見事なところであり、対戦相手の分析に裏打ちされたものであることは間違いない。

コートジボワールでは4−3−3、アルジェリアでは4−2−3−1をベースとしていた様に、メインのシステムは日本の特徴を見ながら決めてはいくはずだが、状況に応じて多様なシステムを用いる監督であり、そうした戦い方ができるチームを作っていくのではないか。ただ、そこで大事なのはシステムを自分たちの特徴から見るだけでなく、対戦相手との相性を照らし合わせる必要があるということ。そのビジョン無しにハリルホジッチのサッカーを語ることは無意味だろう。

正確な技術をベースにしながら対戦相手を研究し、松本山雅の反町監督ではないが、“隙を作らず、隙を突く”サッカーを植え付けていくはず。そうした意識や理論は日本代表がアジア予選を突破し、世界で戦うために必要なピースであるが、同時にACLで苦戦が続くJリーグを含む、日本サッカーに足りないものをもたらしてくれるものと期待している。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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