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リニューアル版PlayStation Plus対Xboxゲームパス、勝つのはどっちだ?

多根清史アニメライター/ゲームライター
ソニー・インタラクティブエンタテインメント

ソニーのPlayStation 5とマイクロソフト(以下「MS」)のXbox Series X|S、どちらが勝つのか? 一昔前なら「Xboxがプレステに市場シェアで上回ること」はあり得なかったし、考えるまでもありませんでした。

第2世代のXbox 360こそ善戦していたものの(日本でも約200万台!)第3世代のXbox Oneは体感インターフェースKinectを無理やり同梱したためにPS4より100ドル高くなってしまい、初手で躓いたことで米国までも劣勢というありさま。その構図は第4世代でも変わらず、発売以来ずっとPS5が Xbox Series X|Sにリードを保ってきました。

が、ここに来て雲行きが怪しくなってきています。まず今年2月には、ビデオゲーム産業情報誌GamesIndustry.bizが「ヨーロッパでPS5よりもXboxのほうが売れた」との市場レポートを発表。さらに日本のファミ通.comも、5月9日~15日にはX|SがPS5を超えたとの推定販売台数を公表しています。

これらの報道は、ほとんどが「PS5が手に入らないから、在庫のある(しかも安い)Xbox Series Sで妥協」の色合いが濃い、PS5が品薄だからこそという論調でした。実際、ファミ通のデータでは翌週にはPS5が逆転しており、ソニー優位は多少の振れ幅はあっても揺るぎないのでしょう。

でも、Xboxの追い上げを明らかに意識している企業があります。それは、他ならぬソニーです。

この6月1日から新生PlayStation Plus(PS Plus)のサービスが始まり、「エッセンシャル」「エクストラ」「プレミアム」の3段階に分けたプランが提供されます。最もお高いプレミアムは、初代PSやPS2、PSPやPS3など懐かしのタイトルが200本以上も楽しめるというもの。12ヶ月利用権なら1万250円で、1ヶ月あたり900円弱となって大盤振る舞いとも思われます。

すでに新生PS Plusが先行してサービスインしたアジア諸国からは、「PS5で初代PSやPS2ゲームを遊んでみた」といった体験レポートが次々と届けられています。初めのうちこそ有料プランに加入せず個別タイトルが買えた、などの好評価が伝えられてきました

が、その後に不穏な空気が漂ってくることに。たとえば初代PSゲームの中にはNTSC版(日本や米国向け)ではなく、フレームレートが低いPAL版(欧州や中国向け)が混じっていてる。あるいは、もともと1440pの解像度だった初代PSゲームがPS4では1080pに落とされる、PS2のゲームは720pの粗い画面にされているというぐあいです。

まるでソニーが遅れを取るのを焦って、中途半端なまま送り出してしまったかのようです。まぁ大不評だった『プレイステーション クラシック』のように、本当に開発担当者が“分かってない”人達だった可能性もありますが。

実際、ソニーが焦っていたフシはあるのです。なにしろ、新生PS Plusの社内コード名として噂された「スパルタクス(Spartacus)」は、共和制ローマ期の剣闘士で「スパルタクスの反乱」を率いた人物のこと。その名前には、MSの定額制ゲームサービス「Xbox Game Pass」(以下「Xboxゲームパス」)への反撃開始の意図が込められていると推測されていたからです。

Xboxゲームパス加入者数の推移を追っていくと、2020年4月に1000万人、9月に1500万人、2021年1月に1800万人と発表。さらに2022年1月には2500万人とアナウンスされており、右肩上がりの成長を続けています。

かたやPS Plusは2020年末には4760万人であり、増減がありつつも2022年3月末時点では4740万人と発表。数の上でこそXboxゲームパスに優っていますが、完全に足踏み状態が続いていたわけです。

サブスクリプション(定額制サービス)は1人1人の単価こそ小さいように見えますが、ゲームを「買う」習慣がない人達からも定期収入が入ってくる強みあり。今や巨大な予算が投じられたAAAタイトルでも100万本を突破するものが稀な中で、数千万人が月に数百円~1000円も払ってくれるのはとてつもないことです。

おそらくMSの本命は、テレビに挿すだけでXboxゲームが遊べる「クラウド専用Xbox」でしょう。

Microsoft
Microsoft

MSが提供中のクラウドゲーミングサービス「Xbox Cloud Gaming」は、インターネット接続環境が良好であれば、スマートフォンやタブレット、PCなどで本格的なXboxゲームがプレイできるもの。MSのサーバー側でゲームを動かし、手元のデバイスに映像をストリーミングするため強力なハードウェアは必要ありません。つまり、クラウド専用Xboxは低価格に抑えやすいわけです。

すでにMSはクラウド専用Xbox「Keystone」を開発中だと認めており、低価格なハードウェ」を通じてXbox体験を身近にするとの声明も出しています。安価なハードウェアを普及させてXboxゲームパスを遊ぶ敷居を下げれば、Xbox Series X|SがPS5とのシェア争いで勝てなくても、サブスク競争では勝てるという計算があるのでしょう。

しかも、ソニーとMSはクラウドゲーミングの分野で「戦略的提携」を締結しています。将来のクラウドソリューションはMicrosoft Azureを活用して共同開発、ソニーのゲームやストリーミングのプラットフォームとしてMSのデータセンターを使うとのこと。

ソニー 社長 兼 CEO 吉田 憲一郎(左) マイクロソフト CEO サティア ナデラ(右)
ソニー 社長 兼 CEO 吉田 憲一郎(左) マイクロソフト CEO サティア ナデラ(右)

要は、ソニーが対抗してクラウドゲーミングに力を入れるほど、MSの技術力に頼らざるを得ないということ。もしもXboxゲームパスがPS Plusにシェアを奪われたとしても、総合的にはMSは利益が得られると思われます。サブスク競争、クラウドゲーミング競争にソニーを付き合わせることで、どちらに転んでも美味しい目ができる可能性が高いわけです。

そう考えれば、かつての「セガVS任天堂」あるいは「メガドライブVSスーパーファミコン」のようなゲームハード競争は、遠い過去のものになったのかもしれません。。

もっとも、快進撃を続けてきたXboxゲームパスも、提供されるはずのAAAタイトルが次々とリリース延期になっているため(ベセスダの『Starfield』や『Redfall』など)解約したとの声も目立ってきています。そろそろテコ入れしないと、約10年ぶりに加入者数が減って株価もガタ落ちしたNetflixの二の舞となる恐れもありそうです。

アニメライター/ゲームライター

京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、TechnoEdgeで記事を執筆中。

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