日本代表が取り戻すべき「W杯への飢え」。原点回帰が求められる崖っぷちの中国戦
オマーン戦の最大の敗因「W杯への意識の差」
2日の2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア最終予選初戦・オマーン戦で屈辱的敗戦を喫し、2018年ロシア大会に続く黒星発進を強いられた日本代表。
大阪・吹田スタジアムで勝利したオマーンが歴史的勝利に喜びを爆発させ、歓喜の抱擁を交わす様子を目の当たりにし、彼らがこの日本戦にどれだけ全身全霊を注いできたのかを再認識させられた。
それに対して、日本の方はどこかで「勝って当たり前」と高をくくっていたところがあったのではないか。フィジカルコンディションや戦術面、球際や寄せの部分、森保一監督の采配など敗戦の要因はさまざまだが、「W杯への意識の差」が勝負の明暗を分けた最大のポイントだったのではないか。
海外組が代表への熱を持ち続ける難しさ
98年フランス大会から6回連続W杯出場を果たし、うち3度もベスト16に進出した日本にとって、目下の目標はベスト8の壁を越えること。それは森保監督も2018年8月の就任時から繰り返し言い続けてきている点だ。ベスト4に終わった東京五輪でメダル獲得を追い求めていたのも、カタールW杯で成功するため。指揮官も選手たちも日本サッカー協会も「世界トップに上り詰める」ことだけを追い求めてきた。
「個人能力の向上」を求めて久保建英(マジョルカ)や堂安律(PSV)のように早くから欧州へ赴く選手も多くなり、日本代表に選ばれなくても欧州各国リーグで自己研鑽できる時代にもなった。そんな彼らがアジア予選でつねに高いモチベーションを持って戦うのは難しい。それは紛れもない事実だろう。
「『W杯に行きたい』『W杯でプレーしたい』『W杯ってどんなものだろう』って思いに突き動かされていた4~5年前の方が、”W杯への飢え”は強かった。それは自然なことだと思うけど、今のままだと気持ちが乗ってこない。もちろん僕自身はもう1回、W杯に出たくて仕方ないし、ベルギーにリベンジしたい気持ちはすごく強い。それをどれだけ思い返せるか、自分の中の熱みたいなものを蘇らせることができるかどうかだと思う。それがないんだったら試合に出ない方がいい」
3年前のロシア大会のベルギー戦で先制弾を叩き出した原口元気(ウニオン・ベルリン)も偽らざる本音を吐露したが、それはW杯経験者に共通する感情かもしれない。
流れを変えるべきW杯未経験者たち
オマーン戦出場メンバーを見ると、W杯の舞台に立ったことがない先発組は、植田直通(ニーム)、遠藤航(シュツットガルト)、伊東純也(ゲンク)、鎌田大地(フランクフルト)の4人だけ。交代で出た古橋享梧(セルティック)、東京五輪世代の久保建英(マジョルカ)と堂安律(PSV)も未経験だ。そういったフレッシュな面々がW杯への渇望を前面に押し出し、停滞感をガラリと変えるくらいの働きをしてくれれば、いきなり暗雲が立ち込めた今回の最終予選の流れを変えられるかもしれない。
過去のW杯予選を振り返っても、天国と地獄を味わった98年フランスW杯予選では、伏兵・岡野雅行(鳥取GM)が「ジョホールバルの歓喜」の立役者になった。2006年ドイツW杯予選の時も、初戦・北朝鮮戦(埼玉)で、まだ頭角を現したばかりの大黒将志(G大阪アカデミーコーチ)が奇跡の決勝点をゲットした。さらに終盤の山場だった2005年6月のバーレーン戦(マナマ)でも、レギュラーをつかみきれずにいた小笠原満男(鹿島アカデミーアドバイザー)が切符を引き寄せる劇的弾を決め、チームに活力を与えた。
ロシアW杯最終予選では原口、大迫、浅野、井手口らが爆発
2010年南アフリカW杯予選でも、北京五輪から一気に主力FWに躍り出た岡崎慎司(カルタヘナ)がゴールを量産。出場権を手にした2009年6月のウズベキスタン戦(タシケント)で決勝点を奪い、南アへの扉をこじ開けた。
彼や本田圭佑、香川真司(PAOK)らが絶対的エースとして順当に結果を出した2014年ブラジルW杯予選はアウェーのヨルダン戦の黒星以外、波乱なく進んだが、前回ロシアW杯予選は本当に苦しんだ。原口や大迫勇也(神戸)、久保裕也(シンシナティ)、浅野拓磨(ボーフム)、井手口陽介(G大阪)といったヴァイッド・ハリルホジッチ監督(モロッコ代表)に抜擢されたW杯未経験者たちが次々と結果を出さなければ、6大会連続出場権獲得は叶わなかったかもしれない。
つまり、今回も既存の中心選手以外のブレイクがなければ、徹底的に日本を分析・研究し、対策を講じてくる相手に不覚を取ってもおかしくないのだ。オマーン戦は森保監督がベースと位置づける面々で戦ったが、次の中国戦以降は意表を突く選手の抜擢やフォーメーションの採用などがなければ、ずっと苦戦することにもなりかねない。
久保や堂安ら若い世代に求められる貪欲さ
そこでやはり期待がかかるのは、W杯予選初挑戦の久保と堂安だ。彼らは東京五輪での活躍によってすでに世界中に知られた存在になっているが、”W杯への飢え”は前面に押し出せるはず。むしろそれをしなければ、日本の救世主にはなれないだろう。
彼らとポジションを争う形になっている鎌田や伊東、古橋らもガツガツ感が足りない印象だ。日頃から感情を表に出さないタイプだけに周りに伝わりにくいところがあるが、ここは自分から「もっとこうすべき」とアクションを起こし、周りに要求してもいいはずだ。
オマーン戦を見たサッカー関係者数人が「あんな消極的な試合をしていたら、昔の代表だったら選手同士が言い合いのケンカになっていてもおかしくなかった。ホントに意思疎通が足りない」とボヤいていたが、確かに本田や岡崎、長友佑都らの世代だったら、熱く意見を戦わせるくらいのことはあったのではないか。そういう自己主張含めて、W杯未経験の面々にはもっともっとやってもらいたいものだ。
森保監督は「ドーハの悲劇」を今の選手に伝えて!
もう1つ言うなら、チームの中で最もW杯への渇望を抱いているのは、「ドーハの悲劇」の生き証人である森保監督自身ではないか。イラク戦で後半ロスタイムに失点し、94年アメリカW杯行きを逃した時の心境を、今こそ選手たちに熱っぽく伝えるようなトライがあっていい。フィールドプレーヤー最年長の長友でさえ「ドーハの悲劇のことは覚えてないですね」と話していたのだから、ほとんどの選手にとって苦い出来事は遠い過去でしかないのだ。
ただ、現役時代の森保監督のように絶望感に打ちひしがれた人たちの思いが積み重なって、日本はここまでの地位を勝ち得た。
キャプテン・吉田も「初めてフランス大会に出てからずっとW杯に出ていて、今までの先輩たちが必死に戦ってつかみとってきたもの。それは僕自身も体験していることですし、その流れをこのチームで途切れさせるわけにはいかない」と責任感を改めて口にした。
「このチームで途切れさせるわけにはいかない」という吉田の覚悟
そんな代表としての原点に今一度、立ち返って中国戦に挑めば、オマーン戦のような士気の低い試合には絶対にならないはずだ。
「日本のサッカー選手みんながW杯に出たいと絶対に思っている。でも結局、その時々に選ばれたメンバーしか試合ができない。自分たちはそういう人たちのために戦って切符をつかみ取らないといけない。いろいろな思いを背負って戦いたい」とベルギー戦経験者の昌子源(G大阪)も自戒を込めて語っていたが、本当にそういった大前提に立ち返って1から出直し、ここからの最終予選を戦ってほしい。
まずは7日の中国戦。誰が凄まじい情熱をピッチで示してくれるのか…。そこをしっかりと見極めたいものだ。