富士山 初冠雪にまつわる奇妙な話
甲府地方気象台からみた富士山の初冠雪は平年で9月30日。観測史上最も早かったのは2008年8月9日で、白い頂きの正体は雪ではなく、雹(ひょう)だった。
東京の雨は富士山の雪
山頂付近にかぶさるように降り積もった雪を冠雪といいます。気象台では夏が終わって、初めて山頂が白く見えたとき、初冠雪を発表します。現在、富士山の初冠雪を発表しているのは甲府地方気象台のみ。以前は、静岡県の三島測候所、山梨県の河口湖測候所でも初冠雪を観測していましたが、職員が常駐しなくなったため、観測は途絶えました。気象観測も時代の波には逆らえません。
甲府地方気象台からみた富士山の初冠雪は平年で9月30日です。
22日(金)正午の富士山頂の気温は1度。このところ夜間は氷点下まで下がっています。東京都心で雨が降るころ、富士山頂では雪に変わるでしょう。本格的な雪となれば、23日(土)以降、初冠雪の便りが届くかもしれません。
ただ、富士山頂に雪が積もっても、雲に覆われていてはふもとから見えません。甲府地方気象台から山頂が白く見えてはじめて初冠雪の発表があるのです。
これまでの富士山の初冠雪の歴史を振り返ってみましょう。観測は1894年(明治27年)から途絶えることなく続いています。スーパーコンピュータが栄える現代に、初冠雪という旧時代の気象観測が役立っているとは言い難い。でも、100年以上同じ場所から見つめた富士山の歴史は重いと思います。
真夏の初冠雪
これまでの初冠雪をグラフにしてみました。平年より早い年を青棒で、平年より遅い年を赤棒で表すと、戦前は今よりも早く、その後はだんだんと遅くなっていることがわかります。
昨年(2016年)は観測史上最も遅い10月26日でした。ちょっとした話題となったので、覚えていらっしゃる方もいるでしょう。
一方、観測史上最も早かったのは2008年8月9日です。北京オリンピックの開会式翌日に初冠雪がみられました。
真夏なのに、どうして?
それは雪ではなく、雹(ひょう)だったからです。
こちらは当日の気象衛星ひまわり6号(運輸多目的衛星新1号)の雲画像です。富士山周辺には発達した積乱雲がみられます(黄丸)。
天気ノートには山梨県から静岡県、神奈川県西部で激しい雷雨、甲府市では径12ミリの雹(ひょう)が降ったとあります。
初冠雪は雪と決まったことではなく、雹(ひょう)のような固形物でもいいのです。2008年はとても珍しいケースだったため、初冠雪の発表はそれから2週間以上後の8月27日でした。発表当日は前日からの雨が止み、青空が広がっていたので、てっきり今日だと思ってしまい、発表文を読んで驚いたことを今でも思い出します。ウソのような本当の話です。
【参考資料】
甲府地方気象台ホームページ:初冠雪の記録(甲府)