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国連PKOへの参加は世界の常識。国連加盟国の実質的には「義務」のようなもの

黒井文太郎軍事ジャーナリスト
ボスニア内戦時のサラエボ国際空港に展開した国連PKO部隊 撮影:黒井文太郎

先日、とある番組で、自衛隊の南スーダン撤退に関して、お話しさせていただく機会がありました。

南スーダンからの撤退については、撤退すべきという意見が多いことは承知しています。しかし、撤退しないほうがよかったという意見もあります。私自身は、撤退を残念に思う一人です。

撤退しないほうがよいという意見はあまり報道されることはありませんが、論拠はあります。ここではそれを述べてみたいと思います。ざっくり言うと、「PKO参加は世界では当然のことであり、実質的には国連加盟国の義務のようなものだ」ということと、「人道的観点から、人の命を救うという最も優先すべきことにとって重要だ」という2点です。

日本のPKO参加人数は現在54位。スーダン撤退で最下位レベルへ

むろん国連PKOへの参加については、さまざまな意見があります。それは国民一人ひとり考えが違って当然ですし、議論は必要です。

しかし、日本での議論では、国連PKOの実態があまり顧みられていないようにみえます。以下はPKOに関する「ファクト」ですが、これらの数字をみれば、PKOはなにも特別なことではなく、世界中の国が普通に参加している当たり前のものであることがわかります。

PKOが開始されたのは1948年で、すでに69年の歴史があります。その間、71ものミッションが行われてきました。現在、実施されているミッションは16です。

現在は(2017年2月28日調査時点で)、計10万7574人126カ国から派遣されています。そのうち制服要員は9万1846人(部隊が8万0238人、警察官が9787人、軍事監視要員が7821人)で、やはり126カ国から派遣されています。

その他には、文民職員が1万4258人(外国人職員4784人、現地国職員9474人)、国連ボランティアが1470人です。

派遣人数の多い国は、順にエチオピア(8321人)、インド(7606人)、パキスタン(7128人)、バングラデシュ(6900人)、ルワンダ(6137人)、ネパール(5212人)、ブルキナファソ(2993人)、インドネシア(2871人)、セネガル(2837人)、ガーナ(2794人)となっています。

日本は272人で、順位でいえば54位になります。ただ日本の場合、272人の国連予算派遣以外に、警備要員などで日本政府独自予算でも隊員を派遣しており、合計の派遣要員数は360人になります。仮にその人数で順位をみると、50位相当になります。

その他に主要国をみると、たとえば中国は12位(2567人)、イタリアは23位(1080人)、フランスは25位(995人)、ドイツは40位(552人)、イギリスは48位(401人)、ロシアは68位(99人)、アメリカは76位(68人)となっています。ちなみにお隣の韓国は38位(624人)です。

ちなみに、現在、日本が唯一参加しているPKOである「国連南スーダン派遣団」(UNMISS)ですが、約60カ国から1万5767人(うち制服要員は1万3255人)が参加しています。日本はわずか360人(うち国連予算派遣は272人)ですから、その中ではほんの一部にすぎませんが、そこから撤退したら、日本のPKO参加人数は世界でも最下位レベルに落ち込むことになります。

ボスニアに展開したPKO  撮影:筆者
ボスニアに展開したPKO  撮影:筆者

近年のPKOは途上国が主力。主要先進国はPKOより厳しい「有志連合」へ

以上がPKOの実態ですが、前述した派遣人数上位国をみるとわかるように、近年の傾向としては、PKOがより積極的に紛争地域の安定に関与する傾向があり、そのために紛争地域の近隣国からの参加が増えています。

また、先進国より発展途上国の参加が多くなってきていますが、それは先進国が国際的な軍事力の展開を減らしているわけではありません。紛争の絶えないこの世界では、国連PKOよりはるかにシビアな国際的枠組みの軍事介入が「有志連合」のかたちで行われており、そこに多くの先進国(対IS戦ではアラブ諸国も)が参加しています。ひらたく言えば、より厳しい有志連合の作戦を一軍(先進国の軍隊)が、より対応が易しい国連PKOを二軍(発展途上国の軍隊)がメインになって担当しているわけです。

このように、PKOでは世界中の国々が普通に参加しています。日本では「国際貢献」「国際協力」という言葉の印象から、なにか日本が「特別に世界に対して≪いい顔≫を見せている」かのようなイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。PKOはあくまで任意であり、法的に義務があるわけではありませんが、慣習上、実質的には国連加盟国の義務のようなものになっています。

カンボジアのPKO  撮影:筆者
カンボジアのPKO 撮影:筆者

自衛隊が行ってきたインフラ整備や輸送はPKOの主任務ではない

PKOはいわば、国連加盟国であれば順番に引き受けるべき「当番」のようなもので、特に各国の個別の「国益」などもそれほど関係ありません。たとえば、私はかつてカンボジア、ボスニア、ソマリア、レバノンのPKO現場を取材したことがありますが、カンボジアでのガーナ軍やナイジェリア軍、ボスニアでのオーストラリア軍やアルゼンチン軍、ソマリアでのインドネシア軍、レバノンでのネパール軍やフィジー軍など、現地に特に関係のない国々が普通に参加していました。

国連は第二次世界大戦後に世界の安全保障の仕組みとして誕生したものですが、加盟国ならその活動には当然、参加しなければなりません。そこに日本は、90年代まで参加してきませんでした。1992年のカンボジアから参加するようになり、それ以降はそれなりの規模で参加してきました。

しかし、日本は世界からみて、他の国々が担当しているような通常の参加はしていません。平和維持活動、すなわちピース・キーピング・オペレーションの主任務である停戦監視治安維持には、これまで一度も参加していません。危険を避けて、道路工事輸送など、PKOとしての主任務ではない後方任務だけに留めてきました。

もちろんそれは、日本が憲法によって海外での武力行使を自ら禁じているからですが、それは日本国内のローカルなルールであり、世界からみれば、日本は主要国で唯一、国連加盟国の実質的な義務を果たしていない国ということになります。

日本では、PKOはきわめて危険な、たいへんな任務と認識されていますが、有志連合が戦っているような激戦地での任務に比べれば、ずっと安全度の高い任務です。国連安保理常任理事国入りを主張している日本は、世界10位の人口を持ち、世界3位の経済力を持つ堂々たる主要国で、世界トップクラスの装備を誇る強力な軍隊を持っています。であれば、有志連合戦闘部隊の一翼を担っておかしくない話ですが、憲法の縛りからそれには一切参加せず、それよりずっと安全度の高い国連PKOでも主任務を回避しています。

カンボジア首都で警戒任務に就くPKO部隊 撮影:筆者
カンボジア首都で警戒任務に就くPKO部隊 撮影:筆者

PKO死亡者はこれまで3549人

なお、有志連合の任務に比べれば安全度が高いとはいえ、PKOも軍事活動ですから当然、危険はあります。これまでの死亡者は3549人です。現在行われている16のミッションでの死亡者は1768人。自衛隊が参加している南スーダンPKOでの死亡者は48人です。

これまでのPKOでの全死亡者を国別でみれば、多い順にインド(163人)、ナイジェリア(148人)、パキスタン(140人)、ガーナ(136人)、バングラデシュ(129人)、カナダ(122人)、フランス(113人)、エチオピア(111人)、イギリス(104人)、アイルランド(90人)となっています。

日本の死亡者は6人。うち3人が現地武装勢力に殺害されています(カンボジアで2人、タジキスタンで1人)。

ちなみに、私が過去に取材したPKOをみてみると、92年から93年までのカンボジアの「UNTAC」では、45カ国から約2万2000人が参加し、48人が殺害されています。

92年から95年までのソマリアの「UNOSOM1」「UNOSOM2」では、36カ国から約2万9000人が参加し、153人が殺害されています。

92年から95年までのボスニアの「UNPROFOR」では、42カ国から約3万9000人が参加し、167人が殺害されています。

78年から現在も続いているレバノンの「UNIFIL」では、2013年時点で40カ国から約1万人が参加していており、それ以外にも過去には9カ国が参加していました。これまでの戦死者は27カ国の計312人です。ここでは私が取材中にもフィジー軍とネパール軍に死亡者が出ていました。

ヒズボラに砲撃されたレバノン派遣PKOのフィジー軍基地 撮影:筆者
ヒズボラに砲撃されたレバノン派遣PKOのフィジー軍基地 撮影:筆者

紛争地で失われる命を見捨てていいのか

こうした数字をみれば、有志連合よりずっと安全なPKOでも、参加することに危険が伴うことは明白です。これまでの日本の派遣要員では、前述したように武装勢力に殺害された人はいましたが、自衛隊が戦闘に臨んだ局面は一度もありません。それは自衛隊の活動が、危険度のきわめて小さいエリアでの、危険度のほとんどない任務に限定されていたからです。

したがって、いくらPKOが世界中の国々が普通に参加している国連加盟国の「当番」のようなものだといっても、日本が積極的に普通の国のようにPKOへ参加すべきと主張するのは「自衛隊員は死んでもいいのか」という批判に直面します。PKOの主任務である停戦監視や治安維持任務に参加すれば、いずれ自衛隊員の犠牲も考えられます。なので、「自衛隊員は死んでもいいのか」と問われれば、沈黙するしかありません。

しかし、それはいわゆる人道主義とは別のものです。なぜなら、自衛隊員を危険にさらしたくないとの理由でPKO参加を拒否する考えは、紛争現場で失われる命を見捨てる主張であるからです。

もちろんそこは、人それぞれの考えがあっていいと思います。ただ、私個人の考えを述べれば、たとえば私にも子供がいますが、たとえば南スーダンの子供たちの命を救うのは世界中の大人たちの義務ではないか、少なくとも見殺しにしてはいけないのではないか、と考えています。

いずれにせよ、世界のシビアな現状や、国連PKOの実態を知ったうえで、日本はどうすべきかを議論していくことが重要です。それを実現するためのツールにすぎない法律をどうするかの議論などは、本来はその後のことでしょう。

レバノン南部に展開したPKO車列 撮影:筆者
レバノン南部に展開したPKO車列 撮影:筆者
軍事ジャーナリスト

1963年、福島県いわき市生まれ。横浜市立大学卒業後、(株)講談社入社。週刊誌編集者を経て退職。フォトジャーナリスト(紛争地域専門)、月刊『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。ニューヨーク、モスクワ、カイロを拠点に海外取材多数。専門分野はインテリジェンス、テロ、国際紛争、日本の安全保障、北朝鮮情勢、中東情勢、サイバー戦、旧軍特務機関など。著書多数。

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