ヌードも求められる魔性の女役に。アブノーマルに見えて実は純愛な原作の世界へのアプローチ
2024年に生誕100年を迎え再評価の高まる増村保造監督が映画化した名作でもよく知られる谷崎潤一郎の小説「痴人の愛」。
同小説が生まれて100年でもある節目の年、新たな映画「痴人の愛」が生まれた。
新たな映画化に挑んだのは2023年に同じく谷崎文学の代表作である「卍」を、新解釈で現代の愛憎ドラマへとアップデートした井土紀州監督と脚本家の小谷香織のコンビ。
今回の「痴人の愛」もまた新機軸。原作の踏襲すべきところは踏襲しながらも、がらっと変えた物語で、ファムファタール=運命の女、ナオミと、彼女にいつの間にか魅入ってどうにも離れられなくなってしまった脚本家の男・譲治の愛の果てを描き出す。
つかまえていられそうだが、気づけばいなくなっている。いまニコニコしていたかと思ったら、次の瞬間には怒って当たり散らす。
自分勝手だけど小悪魔的で憎めず譲治を大いに翻弄するナオミ役に抜擢されたのは、これまでグラビアを中心に活躍してきた奈月セナだ。
難役でヌード・シーンも求められた本作にいかにして取り組んだのか。
魔性の女、ナオミをいかにして演じ切ったのか?
「俳優・奈月セナの代表作になった」と語る彼女に訊く。全七回/第二回
そもそもナオミってほとんどの人が理解不能だと思うんです
前回(第一回はこちら)、出演の経緯を明かしてくれた奈月。
その中で、脚本と原作を前に、原作の独特の世界観をきちんと守りながら演じていかなければならないと思ったと語ってくれた。
ナオミ役に正式に決定してから、どんどん「ナオミ」という女性に魅入っていったところがあったという。
「原作の世界観を崩すことなく、きちんと守りながら演じなければいけない。
そう思ったんですけど、だからといって『自分がその世界観を崩しちゃいけない!』といった変なプレッシャーを感じることはなかったんです。
むしろ期待したといいますか。この独特の世界観の中に、自分が身を委ねてナオミを演じたときにどんなことになるのか、予想がつかなくて楽しみでした。
それから、ナオミ役も、考えても考えても興味が尽きない。
そもそもナオミってほとんどの人が理解不能だと思うんです。
どんな女性?と問われても、なかなか答えられないじゃないですか。
ほんとうに天邪鬼でとらえどころがなくて、何を考えているかわからない。
本心がほとんど見えてこない。
それから、前回少しお話ししたように、わたし自身は自分の中にナオミのような魔性性はないと思っています。
だから、最初は、自分と重なるようなところがほとんどない女性だと思ったんです。
それゆえに興味がよりわいたといいますか。
あまり自分にない感情を持っていたり、自分とはかなり違う性格だったりするので、彼女のことをどんどん知りたくなっていきました。
彼女から感じるわたし自身にはない感情を、自分なりに解釈して演じてみたいと思いました。
ナオミのことを考えれば考えるほど、わからなくなるんですけど、それがもっと知りたいという興味につながっていきましたね」
役作り自体は楽しかったんですけど、ほんとうに苦戦しました
そこからいざ演じる段階に入って、ナオミという役にどのようにアプローチしていったのだろう?
「脚本を読みこんでいった後も、『ナオミってわたしに似ているのかな?』と不思議に思ったことはずっと続いていたんですけど……。
わからないゆえにどんどん興味はわいていったんですけど、一方でやはりどう演じるかを考えたときは、ナオミの本質や要素というものがどこにあるのかわからない。そのことですごく悩みましたし、考えました。
だから、役作り自体は楽しかったんですけど、ほんとうに苦戦しましたね。
ナオミは生を謳歌したいようなところもあれば、どこか刹那的でいつ死んでもいいみたいなところもある。
恋人となる譲治をどれだけ愛しているのか、女優になる夢にどれだけ執着しているのかも、いずれも謎めいていてわからない。
これはわたし一人で解決できることではないので、井土監督と、ナオミを幼少期の時代からさかのぼって、どのように生きてきて、現在に至ったのを話し合いました。
監督とのセッションを重ねることで、ナオミの歩みを体に叩き込んでいって、それをもとにナオミの脳、つまり心の部分を作り上げていった感じでしたね」
(※第三回に続く)
「痴人の愛」
監督:井土紀州
脚本:小谷香織
出演:大西信満 奈月セナ
土居志央梨 佐藤峻輔 柴山葉平 中島ひろ子 芳本美代子 村田雄浩
公式HP: https://www.legendpictures.co.jp/movie/chijinnoai/
池袋シネマ・ロサにて公開中、以後、全国順次公開予定
筆者撮影以外の写真はすべて(C)2024「痴人の愛」製作委員会