カイパーベルト天体「クアオアー」に太陽系で7番目の環を発見。中心天体から遠すぎるその謎とは?
2023年2月8日、英国シェフィールド大学らの研究チームは、海王星以遠の太陽系外縁天体「クアオアー(50000 Quaoar)」が土星のように環を持っていることが判明したと発表した。太陽系で7番目となる天体の環の発見は、8日付けの科学誌「ネイチャー」に掲載された。これまで土星や木星など大型の惑星以外にも小惑星に環が発見されているが、クアオアーの環は他の天体に比べてかなり遠くにあり、リング状に存在していることは珍しいという。
クアオアーは、2002年に発見された太陽系外縁天体。直径はおよそ1100キロメートルと推定され、2006年にはハッブル宇宙望遠鏡の観測からその衛星「ウェイウォット(Weywot)」が発見された。冥王星のように準惑星の可能性を持つ候補天体であり、太陽系外縁天体の中では高い密度を持つとも考えられている。太陽系外縁部はその距離から観測は難しく、米国の探査機「ニュー・ホライズンズ」が接近、通過しながら観測した冥王星や「アロコス」といったわずかな例を除いて謎が多い。
2019年には東京大学木曽観測所の超広視野高速カメラ「トモエゴゼン」により、天体が遠くの恒星の光を隠す現象を観測する掩蔽(えんぺい)観測によってクアオアーは大気を持たないことが確認された。
シェフィールド大学のチームは、スペイン領ラ・パルマ島のカナリア大望遠鏡に設置された超高感度カメラ「HiPERCAM」によって掩蔽観測を行った。ごく薄く淡いものの、環の存在と考えられる掩蔽現象が見られたという。これまで太陽系の天体で環を持つことがわかっていたのは、惑星では木星、土星、天王星、海王星。小天体では木星と海王星の間に位置する小惑星カリクローと準惑星ハウメアがあり、太陽系では6天体とまれな存在だった。今回のクアオアーの環発見は7番目になる。
クアオアーの環は珍しいだけでなく、顕著な環を持つ土星とは異なる大きな特徴を持っている。中心天体クアオアーと環の距離が、これまでの一般的な説を超えて非常に遠いのだという。
クアオアーの環は、クアオアーの半径7つ分よりも遠くに離れている。一般的に天体を取り巻く環は、中心天体に接近しすぎた衛星などが潮汐力で破壊されてバラバラになり形成されたと考えられている。天体を構成している物質同士が引き合う重力よりも潮汐力の方が大きくなる距離を「ロシュ限界」といい、土星の場合は最も外側の環でも土星の半径3つ分以内にある。クアオアーの環はロシュ限界とされる距離の2倍以上遠く、これほど外側に物質があるならば集まって衛星となっても不思議ではないのだという。
新たな環の発見によって、天体の環の理論に新しい挑戦が始まっている。シェフィールド大学のVik Dhillon教授は「今回の新たな発見で、みなさんご存知の壮大な土星の環を始めとする環という現象に新たな洞察が得られると期待しています」と述べている。