日本のアイドルとたこ焼きはモンゴルで受け入れられるか?(後編・たこ焼き編)
たこ焼き。大阪の家庭には必ずたこ焼き器があると言われるくらい、大阪人のソウルフードとして愛されている。そのたこ焼きを、草原の国、肉食文化の国モンゴルに持ち込んだ人がいる。
「日本のアイドルとたこ焼きはモンゴルで受け入れられるか?」後編は、たこ焼きをご紹介する。
モンゴルの日本フェスでたこ焼き屋に長蛇の列
ジャパン・フェスティバル・イン・モンゴリア 2019。8月17日~18日の土日2日間にわたって首都ウランバートルで開かれたこの催しには、50ほどの企業・団体がブースを連ねた。その中でひときわ長蛇の列を作っているブースがあった。
テントの正面には「TAKOYAKI」の文字。たこ焼き屋だ。
ブース内では、たこ焼き器を前に店の人4人が手際よくたこ焼きを焼き上げている。中に入っている具はもちろん、たこ。天かすもたっぷりと。焼き上がったたこ焼きにソースを塗り、マヨネーズをかけ、青のりをふり、かつお節をかける。大阪でよく見るスタンダードなたこ焼きを、モンゴルの人たちが次々に買い求めていく。
一番手前でたこ焼きをひっくり返していた男性が、私を見て話しかけてきた。
「あ、あなた、相澤さんじゃないですか?」
「はい、そうです」
「私、あなたを知っていますよ。本を買いましたから」
この男性が店主だった。今岡工(たくみ)さん。実は本業は歯科医だという。長らく大阪で開業していたが、最近、実家のある奈良市に移った。それにしても、なぜモンゴルに店を?
「私がこの国に来だして5年になります。最初はたまたまだったんですけど、来るにつれてこの国の魅力にとりつかれました。彼らは遊牧民の発想なんですね。僕ら農耕民族とは違う発想です。ノマディック(遊牧・放浪)な暮らしに憧れがあったんです。その日暮らしなんですけど、それが理にかなっている。これからすごく伸びていくと思ったんです」
なぜ歯科医がモンゴルでたこ焼き屋?
それにしても、歯科医が専門の今岡さんが、なぜたこ焼き屋を?
「いや、最初はモンゴルで歯科医をしようかと思ったんですよ。でも調べてみると、モンゴルにはすでに歯科医は大勢いて、レベルも高い。それじゃあ歯科医の代わりに何かと思って、まず医療用化粧品の販売を始めたんです」
「事業を始めてモンゴルの人を雇って気づいたんですが、モンゴルではまだまだ仕事が少ないんですよね。もっと仕事が、職場がほしいと彼らは感じている。何かさらに新しい事業ができないか?そう思っているところに、日本に行ったうちのモンゴル人スタッフの1人が『たこ焼きがおいしい』と言い出したんです。こんな食べ物はモンゴルにはないと。海がない国で、たこを使った料理はどうかと思いましたが、やってみようと決めました」
草原の民にあえて大阪風のたこ焼きを
モンゴルは内陸国で遊牧の国。食事は羊などの肉が中心だ。たこ焼きの具として、たこの代わりに肉を入れるということも考えたという。だが、やはり、大阪のソウルフードの味は譲れない。本来の大阪の味でいこうと決めた。
食材はすべて大阪から取り寄せる。さらに、従業員を1か月間、大阪に派遣し、本場のたこ焼き屋で修行させた。今岡さんの隣に立つモンゴル人従業員が「大阪」という文字とたこのイラストが描かれたTシャツを着ているのはそのためだ。
「モンゴルの人はたこ焼きのことをまったく知りませんからね。『中身がどろっとしているけど大丈夫か?』と聞いてくるお客さんもいます。でも、まずモンゴルにいる日本人が来てくれるんですよ。それから、日本に留学したり滞在したりしたことのあるモンゴル人。そういう人たちからじわじわ普通のモンゴルの人に広がっていきますよ。この催しでもこれだけのお客さんが来てくれてるわけですから、潜在的なニーズは高いと思います」
たこ焼き屋はモンゴルで成功するか?
今岡さんは今年5月、モンゴルで初めてのたこ焼き屋を開店した。出店を後押ししたのは、モンゴル在住17年になる中村功さん、通称「コー」さんだ。前編・アイドル編でご紹介したように、モンゴルと日本のビジネス交流を支援する専門家で、JICAで働いている。
「モンゴルは世界有数の親日国。日本企業が来れば相当有利。人口300万でも、ここを押さえると、隣の内モンゴル、さらに中国本土もにらむことができる。小さい国だけに今がビジネスチャンス」というのがコーさんの持論だ。
今岡さんのたこ焼き屋がモンゴルで成功するのか?これからが正念場だ。
【執筆・相澤冬樹】
ちなみに、シリーズ第1回「日本のアイドルとたこ焼きはモンゴルで受け入れられるか?(前編・アイドル編)」は8月17日に記事を出しています。