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【戦国こぼれ話】織田信長の一代記『信長公記』とは、どういう史料なのだろうか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
マスク姿の織田信長像。(写真:イメージマート)

 7月24日(日)から、『新信長公記』というテレビ番組がはじまるという。『信長公記』は織田信長の一代記であるが、せっかくなので、どのような本なのか深掘りしてみよう。

■『信長公記』とは

 『信長公記』とは織田信長の一代記であり、信長の生涯を探るうえで欠かすことができない史料である。同書は単に『信長記』、あるいは『原本信長記』とも称される。同書を執筆したのは、信長に仕えた側近の太田牛一(うしかず、ぎゅういち)である。

 牛一は記憶力が非常によく、また日頃からメモを残していた。慶長8年(1603)頃には、それらをもとにして、『信長公記』を完成させた。信長が亡くなったのは天正10年(1582)6月なので、完成したのは21年後のことだ。

■『信長公記』の原本は3種類ある

 『信長公記』の原本は、次のとおり3種類が伝わっている。

 (1)『永禄十一年記』(東京・尊経閣文庫、1巻本)

 (2)『信長記』(岡山大学附属図書館・池田家文庫所蔵、15巻本)

 (3)『信長公記』(京都・建勲神社所蔵、15巻本)

 (2)と(3)は重要文化財であるが、信長が京都に入洛する前の動向を示す首巻が欠けている点に特長がある。なお、(2)は福武書店から昭和51年(1976)に影印本(原本を写真撮影しそのまま本にしたもの)として刊行された。

 ほかにも良質な写本として、陽明本、町田本、天理本の存在が知られている。現在、それらを比較検討しながら、研究が進められている。

■一番の善本は

 3種類の原本の中で、(2)には朱筆の訓点(漢文を訓読するために書き入れる文字や符号)が施されており、また牛一自筆の冊が含まれると考えられ、もっとも善本であると指摘されている。

 現在、広く活用されている奥野高廣・岩沢愿彦校注『信長公記』(角川ソフィア文庫)は、陽明本を底本としている。残念ながら、同書は長らく品切れになっており、入手が極めて困難である。

■利用に際しては史料批判が必要

 『信長公記』は信長研究で欠かすことができない史料であり、二次史料とはいえ、おおむね記事の内容は信頼できると評価されている。信長研究の根本史料であることは疑いない。

 ただし、成立年は信長の死後から21年が経過しているので、いかに牛一のずば抜けた記憶力やメモがあったとはいえ、誤りや記憶違いもあると危惧される。

 したがって、必ずしも『信長公記』は万能とは言えないので、史料批判を十分に行って使用する必要がある。利用に際しては慎重さが必要で、一次史料(同時代の古文書や書状など)との照合が必要なのだ。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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