一人暮らしと所帯持ちで大きく異なる「遺産」への考え方(2024年公開版)
単身世帯は使い切り、夫婦世帯は子供へ残したい
自分が亡くなった後の自分の財産を遺産と呼ぶ。その処分方法には人それぞれの考え方がある。その実情を金融広報中央委員会の「知るぽると」が毎年実施している調査「家計の金融行動に関する世論調査」(※)の公開結果から確認する。
今項目では「遺産についてどのような考えを抱いているか」を、主に財産処分方法と、子供に残すか否かの2つの視点から複数の選択肢を提示し、回答者にもっとも自分の考えに近いものを選ばせている。つまり自分が財産を残す立場となった時、該当する資産をいかなる方法で子供に財産として残すか、それとも残さないかを選んでもらったもの。当然回答者の中には現在財産を残すどころか受け取る立場的な年齢の人もいるが、将来そのような立場の年齢になった場合を想定し答えてもらっている。
単身世帯での最多回答は「子供がいない&人生を楽しみたいので財産使い切り」派。一方二人以上世帯では「老後の世話か家業引き継ぎなどの条件無しに、子供に財産を残したい」派。それぞれ「一人身」か「子供がいる(今はいなくとも将来的な話も含む)」かによって、遺産への考え方が大きく異なってくる状況がよく分かる結果である。要は「残す相手がいなければ手持ちの資産は自分で全部使い切りたい」「残す相手がいればとにかく残したい」。
他方、「家業引き継ぎ」を遺産相続の条件に挙げている人はごくわずか。元々引き継ぎが必要な家業をしている人が少数なのも一因だが、遺産を取引材料として家業引き継ぎを「強要」することを是とはしていないようだ。一方で交換条件的に何かを要求する選択肢としては、「老後の世話をしてくれれば遺産を」とする意見が、二人以上世帯で1割強確認できる。子供を持つ親の考え方としては現実的。
気になるのは「子供はいるが、自分の人生を楽しみたいので(財産は残さず)使い切りたい」との意見。単身世帯(将来結婚して子供をもうけるとの仮定、あるいは諸事情で子供と別居中)はともかく、二人以上世帯でも18.2%が同意している。
また「その他」の回答率が単身世帯で3割近く、二人以上世帯でも2割近くもいるのも目にとまる。具体的にどのような考えを持っているかについては尋ねていないが、個々の状況によるところがあるのだろう。あるいは例えば半分を寄付、半分を子供にといった形で、どれか一つの選択肢には当てはまらない考えを持っているのかもしれない。
年齢で遺産への考え方は変わる
直近年分につき、回答者の年齢階層別に動向を確認したのが次のグラフ。
大勢はそれぞれの世帯構成における全体値と大きな違いはない。一方で詳細を見ると、年齢階層により考え方にいくぶんの違いが生じているのが分かる。単身世帯の場合「老後の世話をしてくれるならば、子供に財産を残してやりたい」の値は年齢とともに減少し、40代を底値にそれ以降は再び増加。他方、「子供はいるが使い切りたい」との回答は、若年層の場合回答者が単身赴任か何かで単に子供と一時的に離れている可能性が高いため少数だが、50代で大きく跳ね上がり、それ以上では別居状態が継続している場合が多くなるため、年齢が上になるに連れて値が高くなる。
二人以上世帯の場合は、子供が同居している場合が多々あり、また自身の体の衰えを実感することも併せ、「老後の世話をしてくれるならば、子供に財産を残してやりたい」がおおよそ年齢とともに上昇する(30代がイレギュラー的に大きな値が出てしまっているが)。他方、「老後の世話をしてくれるか、家業を継ぐかなどにかかわらず、子供に財産を残してやりたい」は20代と50代でやや低い値が出るが、それ以外は1/4以上を示している。さらに世話をしてもらう必要の無い高齢層が増えてくるからか、60代以降は年齢とともに「子供はいるが使い切りたい」との意見が積み増しされる傾向があるのも興味深いところではある。
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※家計の金融行動に関する世論調査
直近分となる2023年分は世帯主が20歳以上80歳未満の世帯に対しインターネットモニター調査法で、2023年6月23日から7月5日にかけて行われたもので、対象世帯数は単身世帯が2500世帯、二人以上世帯が5000世帯。過去の調査も同様の方式で行われているが、二人以上世帯では2019年分以前の調査は訪問と郵送の複合・選択式、2020年では郵送調査式だった。
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