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一昨年の高速女王で昨年の最速王者に挑むジョッキーのストーリー

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
週末のアイビスSDに一昨年の勝者ダイメイプリンセスで挑む秋山真一郎(高松宮記念時

騎手二世として生まれG1ジョッキーに

 「テンのスピードはあったけど、最後は止まったのでダート馬だと思いました」

 騎手・秋山真一郎がそう語るのはライオンボスについて。今週末のアイビスサマーダッシュで連覇を目指す同馬が初めて芝を走ったのは昨年1月の知立特別。その際、手綱を取ったのが秋山だった。彼は2年ぶりのアイビスサマーダッシュ制覇に懸けるダイメイプリンセスでライオンボスに挑む。

昨年のスプリンターズS(G1)出走時のダイメイプリンセスと秋山
昨年のスプリンターズS(G1)出走時のダイメイプリンセスと秋山

 1979年2月9日生まれで現在41歳。元騎手で元調教助手の父・忠一と母・まゆみの間に生を受け、妹と育てられた。幼い頃から騎手になるのが夢だった。97年に競馬学校を卒業すると、栗東・野村彰彦厩舎からデビュー。その際、師匠に言われた事を、今でも心掛けていると語る。

 「『お尻をドンと鞍につけるような乗り方はするな』と言われました」

 デビュー2戦目に初勝利を挙げ、1年目は33勝。2年目にはカネトシガバナーに騎乗して神戸新聞杯(G2)を優勝。早くも初重賞制覇を飾った。

 「2年目という事で確かに皆さんに『早い』と言っていただけました。でも幼い頃から騎手を目指していた自分としては決して早いとは思えませんでした」

 当時から駿馬を任された。自厩舎で桜花賞(G1)を勝っていたキョウエイマーチの背中を託され「G1馬の反応を知る事が出来た」と語る。

 2007年にはオークス(G1)で1番人気に推され、自身初のビッグタイトルに手が届くかと思えた。しかし……。

 「騎乗したベッラレイアで直線、抜け出したのに最後にハナだけ差されてしまいました」

 しばらくは悔しくて眠れなかったと続けた。それから更に5年後の12年。同じ5月の東京競馬場でチャンスが巡って来た。デビューから3戦3勝のカレンブラックヒルで臨んだNHKマイルC(G1)で1番人気に支持されると、今度はその期待に応える騎乗を披露した。

 「デビュー16年目で初めてのG1制覇でした。終わってみたら2着に3馬身半の差をつけていたけど、直線ではターフヴィジョンを見る余裕もなく、最後まで必死に追いました」

カレンブラックヒルでNHKマイルCを優勝。秋山にとってデビュー16年目で初のG1制覇だった
カレンブラックヒルでNHKマイルCを優勝。秋山にとってデビュー16年目で初のG1制覇だった

 騎乗機会にして55回目のG1で初めての優勝を果たすと、次のチャンスは意外なほど早く来た。それから僅か7ケ月後の同年12月、ローブティサージュを駆って阪神ジュベナイルF(G1)を勝利。2つ目のG1勝ちを記録した。同馬については次のように述懐する。

 「函館の調教で初めて跨った時はそれほどピンと来ませんでした。でも新馬で良い勝ち方をした時には『G1を勝てる馬だ』と思いました。自分自身G1を勝った後だったのも良かったのか『こういう馬が大仕事を出来るんだ』と感じられたんです」

 5番人気だった阪神ジュベナイルFを勝てたのは、前走のファンタジーS(G3)が大きかったと続ける。

 「ファンタジーSですんなり流れに乗れば勝てると思いました。でも、そうすると折り合い欠く馬になると思いました。少し行きたがったけど、のちのち距離をもたせるためにあえて抑えました。結果、2着に負けてしまったけど、お陰で阪神ジュベナイルFの時はしっかりと折り合いがつきました」

ローブティサージュと秋山
ローブティサージュと秋山

海外遠征、そして最速女王との出合い

 16年には前年から主戦を任されていた関東馬ネオブラックダイヤと共にドバイへ遠征し、ドバイゴールドCに挑戦。結果は8着に敗れたが、改めて競馬について考え直す良い機会になった。

 「海外へ挑戦したい気持ちはありました。ただ、なかなか自力で行く勇気ないが出ない中、日本馬の遠征について行く形で行かせてもらえました。実際にメイダン競馬場で乗ってみて『凄く良いな』と感じました。他のレースを(武)豊さんが勝つところを見て、『格好良いなぁ……』と思うと同時に、自分もそういうジョッキーにならなくてはいけないと考えました」

 更に、次のようにも考えるようになったと言う。

 「招待される馬の陣営から騎乗依頼が来るような騎手にならないとダメだと考えるようになりました」

ネオブラックダイヤでドバイのドバイゴールドCに挑戦した
ネオブラックダイヤでドバイのドバイゴールドCに挑戦した

 ドバイ遠征の翌17年、出合ったのがダイメイプリンセス(栗東・森田直行厩舎)だった。

 「北海道でマユ(黛弘人騎手)がずっと乗っていて『良いモノを持っているけど、イレ込んじゃう』と言っていました。“勝ち切れない馬”というイメージを持っていたけど、実際に乗ってみたら思った以上にスピードあって、最後までしっかり走ってくれました」

 外から見ているよりも能力の高い馬だと感じ、乗り続けると「1戦ごとにイレ込みもマシになり、少しずつ落ち着いていった」と言い、更に続けた。

 「今でも馬場には先に入れているように、厩舎の努力の積み重ねもあって落ち着いて来たのだと思います」

現在も馬場には先に入るダイメイプリンセス。写真は3月のオーシャンS出走時
現在も馬場には先に入るダイメイプリンセス。写真は3月のオーシャンS出走時

 「自分は何もしていない」と言うが、そもそもこの馬を1000メートル戦に使うにあたっては、秋山の助言も大きかったようだ。

 「準オープンを走っていた当時『次走を1000メートルにするか1400メートルにするか、どちらが良いと思う?』と(森田)先生に聞かれ『良い脚が一瞬なので短い方が良いと思います』と答えました」

 こうして新潟の直線競馬に舞台を移したダイメイプリンセスは覚醒。この条件に限れば3連勝で18年のアイビスサマーダッシュを優勝した。

 「正直、自信はありました。終始好手応えのまま勝てました」

 しかし、昨年、そのディフェンディングチャンピオンに立ちはだかったのが秋山も騎乗経験のあるライオンボスだった。前走の韋駄天Sでも同馬の後塵を拝したが、その差は1馬身にも満たず、今週末、文字通り雌雄を決する新旧チャンピオンの対決に改めて臨む。

 「心掛けている事はデビュー以来ずっと同じです。“いかに馬を速く走らせるか?”。それを20年以上ずっと考えて乗っています。未だに分からないけど、ずっと追求し続けないとダメだと考えています」

 自分自身の信条をそう語る秋山は、現在のダイメイプリンセスについて、次のように言って〆た。

 「中間も乗り、前走時より良くなっている手応えを感じています。一昨年の覇者として、良い競馬が出来ると信じて乗ります!!」

 スピード女王がその座に返り咲けるのか、昨年のチャンピオンが死守するのか、はたまた光速の新王者が生まれるのか。日本最速の1戦での秋山の手綱捌きに注目したい。

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(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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