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パリ五輪のメダル発表! エッフェル塔の一部が宝石のように胸に輝く

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
パリオリンピック、パラリンピックのメダル(写真は全てParis2024公式写真)

パリはオリンピックの歴史に新たな1ページを刻みます。

世界が注目する中、2024年2月8日、パリオリンピック、パラリンピックのメダルが初めて公開されました。

発表はオリンピックのメインスタジアムがあるパリ郊外のサンドニ市で開かれました。登録したジャーナリストたちはその様子をウエブでも同時に視聴することができ、その会場にいるかのような雰囲気を味わうことができました。

というわけで、このホットなニュースをお届けします。

発表会の主役は二人。

パリオリンピック、パラリンピック委員会会長トニー・エスタンゲ氏とアントワーヌ・アルノー氏です。アントワーヌ・アルノー氏はLVMHグループを率いる世界屈指の富豪ベルナール・アルノー氏の長男で、同グループのイメージ・環境部門の責任者を務めています。

今回のメダルデザインは、LVMHグループのハイジュエリーメゾン「ショーメ」が担当したことから、アルノー氏の登場となりました。

右がトニー・エスタンゲ氏、左がアントワーヌ・アルノー氏(公式写真から/2024-02-07 LVMH x CHAUMET reveal CHROMIE & LUMIERE-8)
右がトニー・エスタンゲ氏、左がアントワーヌ・アルノー氏(公式写真から/2024-02-07 LVMH x CHAUMET reveal CHROMIE & LUMIERE-8)

エッフェル塔からの贈り物

最も注目すべきことは、エッフェル塔に実際に使われていた鉄片が各メダルに据えられていることです。

「鉄の貴婦人」の異名をもつエッフェル塔は、フランス革命のちょうど100年後、1889年に完成しています。以来、塔はしばしば改修工事が行われてきて、その際に取り替えられた部品はこれまで大切に保管されてきているのだそうです。今回のメダルでは、その鉄材にパリオリンピックのマークが刻まれ、中央に配されています。

私たちが目にするエッフェル塔は茶色がかった色をしていますが、これは塗装の色。メダルに使われる鉄はその塗装を落とした素材本来の姿です。また、六角形のフォルムは、「エクザゴン(六角形)」と呼び習わされるフランス本土の形から来ています。

中央に六角形にカットされたエッフェル塔の鉄材がセッティングされている。鉄材の重さはおよそ18グラム。メダル全体の重さは金が529グラムで最も重く、銅が455グラム
中央に六角形にカットされたエッフェル塔の鉄材がセッティングされている。鉄材の重さはおよそ18グラム。メダル全体の重さは金が529グラムで最も重く、銅が455グラム

LVMHグループのジュエラーがデザイン

この画期的なメダルのデザインは、パリを代表するジュエリーメゾンの一つ「ショーメ」によるもの。メダルがジュエリーメゾンによってデザインされるというのはオリンピック史上初めてのことだそうです。

創業1780年の「ショーメ」は、皇帝ナポレオンの妃ジョゼフィーヌをはじめ、歴史を彩るセレブリティたちに愛され続けてきたブランド。現在は、パリオリンピックのプレミアムパートナーであるLVMHグループの一翼を担っています。今回のメダルはそのメゾンが培ってきた伝統技術、美意識、クラフトマンシップがデザインに反映されており、ハイジュエリーの歴史という点でも新しいページを開くことになりました。

六角形にカットされたエッフェル塔の鉄は6つの爪で固定されています。それは宝石のセッティングに使われる「Clous de Paris(パリの釘)」と呼ばれる伝統的な技法そのもの。エッフェル塔の一部だった鉄はまるでジュエリーのセンターストーンさながらに、メダルの中央で独特の艶を放っています。

金、銀、銅の部分の放射状のデザインは昇華のシンボルでありますが、このモチーフは特にフランスのベルエポックから20世紀初頭の女性たちの冠状の髪飾りとして好まれたものと言われます。「ショーメ」のアーカイブにもこれを用いた作例があり、時代を超えてインスピレーションの元になってきたモチーフがメダルにも生かされています。

「ショーメ」のチームによるデザイン©️THOMAS DESCHAMPS
「ショーメ」のチームによるデザイン©️THOMAS DESCHAMPS

総数5000余のメダルがパリの中心で生まれる

製造はポンヌフのたもと、セーヌ左岸にある造幣局「オテル・ドゥ・ラ・モネ」で行われます。18世紀からの由緒あるこの歴史的建造物では、1924年のパリオリンピックのメダルも制作されました。通常の貨幣などよりも複雑な工程を踏むそうですが、今回の大会に必要なメダル5000以上がパリの中心で作られているというのは、何かとても象徴的な気がします。

また、選手たちの首にかかることになるリボンは、フランス中部の街サンテティエンヌの染織工房の制作で、エッフェル塔の交差する鉄のモチーフがデザインされているそうです。

ちなみに、2004年のアテネ大会からの規定で、オリンピックメダルの表面にはパナシナイコスタジアムのから出てくる勝利の女神ニケが必ず描かれることになっているのだとか。今回はそこにエッフェル塔の図像が加わり、パリ大会を象徴しています。

一方、パラリンピックのメダルの方は、同じエッフェル塔でも下から見上げた図像が、触覚要素と共に形どられています。

オリンピックのメダル。2004年から規定された図像に加えて、女神の右にエッフェル塔が表されている
オリンピックのメダル。2004年から規定された図像に加えて、女神の右にエッフェル塔が表されている

パリパラリンピックのメダル
パリパラリンピックのメダル

パリ2024会長、トニー・エスタンゲ氏はカヌー競技で3度金メダルを得ているアスリート。彼の次のような言葉がまさに今回のメダルを端的に表現しています。

「メダルは卓越性の象徴であり、動機付け、自己超越、そして究極の達成感の源泉です。ただの物体以上のもの、高いレベルのスポーツ選手にとっては聖杯を象徴しています。

パリ2024では、メダルを称賛し、それらが私たちのオリンピックとパラリンピックについて何かを語るようにするという新たな挑戦に直面しました。これらのメダルが真にユニークで、パリ2024のシグネチャーを持つようにしたいと考えました。

『ショーメ』のおかげで、パリ2024のメダルは本物の宝石のように想像されました。表も裏も、フランスの最も美しい顔を見せます。エッフェル塔の一部を有することで、これらのメダルは完全にユニークな作品となり、メダリストと私たちの国との間に真の絆を作り出します。」

このメダルが日本選手の胸にも輝くであろう日まで、あと160日あまり。パリではこれからますますオリンピックムードが高揚してゆくことでしょう。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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