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台風などの風水害犠牲者の半数は屋外で遭難 風雨が激しいときの屋外行動は要注意

牛山素行静岡大学防災総合センター教授
2018年台風21号の際の暴風により道路に散乱している車.大阪市内.筆者撮影.

 筆者は,最近約20年間に発生した洪水・土砂災害などの風水害で,犠牲者(死者・行方不明者)がどのように発生してきたのか,調査を続けています.そのあらましは下記の記事をご参照下さい.

風水害犠牲者の半数は屋外で遭難

図1 遭難場所別風水害犠牲者数.筆者調査結果による.
図1 遭難場所別風水害犠牲者数.筆者調査結果による.

 図1は当方の調査をもとに,1999~2019年までの風水害犠牲者の発生場所を「屋内」「屋外」に大別したものです.集計期間により若干数値は前後するのですが,概ね「屋内」「屋外」の比率は半々です.風水害犠牲者というと,避難せずに自宅で死亡,といったイメージがあるかもしれませんが,実はかなり多くの犠牲者が屋外で発生している事が分かります.比率がほぼ半々なのでどちらとも言えるのですが,あえて注意を促す意味で言えば,「風水害犠牲者のほぼ半数は屋外で遭難している」と言えそうです.

図2 原因外力・遭難場所別風水害犠牲者数.筆者調査による.
図2 原因外力・遭難場所別風水害犠牲者数.筆者調査による.

 犠牲者の発生場所を,原因となった外力別に集計すると図2となります.土砂災害の犠牲者のみは,屋内での発生が8割程度を占めます.一方,洪水(川からあふれた水による犠牲者),河川(あふれてはいないが増水した河川付近での犠牲者)といった水関連の犠牲者や,強風,高波などの犠牲者は,7~8割が屋外となっており,原因外力別に傾向が異なる事が分かります.

 土砂災害を中心に,自宅等が土砂や洪水に見舞われ死亡するといった被害を軽減するためには,災害の危険性のある自宅等から,安全な場所へ避難する事(立退き避難,水平避難などとも言われます)が重要でしょう.一方,風雨が激しくなった中で,自宅から別の場所に移動するために屋外で行動すると,水や風によって命を落とす危険性に直面する事になります.

強風による犠牲者も多くは屋外で

 図2の「その他」のうち,強風による犠牲者は87人,そのうち屋外が75人で,多くが屋外での犠牲者となっています.強風による屋外での犠牲者の発生状況は詳しくは集計していませんが,この間では強風で家屋が倒壊して死亡というケースは確認できませんが,強風で倒れたクレーンが建物を損壊して死亡したケースがあります.屋内での犠牲者は,屋内の窓の付近で作業をしていたり,屋内に飛来物が突入するなどしたケースです.また,屋外での犠牲者はたとえば下記のようなケースがあります.

  • 路上で風に煽られて転倒し,地面などに頭を打ち死亡
  • 屋根やアンテナなどの修理のため屋根に上がり,転落して死亡
  • 飛来物に当たり,死亡
  • 風による倒木などに当たり,死亡

 現在接近中の台風2020年10号は,非常に強い勢力で九州付近を通過する事が予想されており,かなりの暴風が生じる事が懸念されます.風の強い台風では,自宅からの避難,あるいは何かの用事なども含め,台風接近時の屋外行動は極力回避した方がいいのではないでしょうか.自宅からの避難だけではなく,「予定を変更する・見合わせる」という事も重要な避難行動のひとつです.早めの準備が重要だと思います.

 なお,風雨が激しい際の屋外行動の危険性については下記の記事も書いていますので,よろしければあわせてご参照下さい.

静岡大学防災総合センター教授

長野県生まれ.信州大学農学部卒業.東京都立大学地理学教室客員研究員,京都大学防災研究所助手,東北大学災害制御研究センター講師,岩手県立大学総合政策学部准教授,静岡大学防災総合センター准教授などを経て,2013年より現職.博士(農学),博士(工学).専門は災害情報学.風水害、特に豪雨災害を中心に,人的被害の発生状況,災害情報の利活用,避難行動などの調査研究に取り組む.内閣府「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン検討会」委員など,内閣府,国土交通省,気象庁,総務省消防庁,地方自治体の各種委員を歴任.著作に「豪雨の災害情報学」など.

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