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武漢肺炎(新型コロナウイルス)で日本人がアメリカに渡航できなくなる日

山田順作家、ジャーナリスト
「第二の武漢」と言われるようになったダイヤモンド・プリンセス号(写真:ロイター/アフロ)

 昨日(2月15日)、アメリカ大使館からクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客のうちアメリカ国籍者の帰国のためにチャーター便を出すことが発表された。現在、船に残る約2600人の乗客のうちアメリカ人は416人と日本人に次いで2番目に多く、乗員も12人。このうち、希望者はアメリカ政府が手配したチャーター便により、羽田空港からカリフォルニア州のトラビス空軍基地に送られ、その後、14日間ほど隔離されて検疫を受ける。

 アメリカ政府としては、これまでの日本の対応のまずさに業を煮やしたといえる。

 すでにアメリカのメディアは、日本の対応に批判的で、NYタイムズは、専門家の見解として「公衆衛生に関わる危機について、こうしてはいけないと教科書に載る見本だ」と報道した。連邦議会でも、一部議員から「自国民を1日も早く救出せよ」という声が挙がっていた。アメリカでは、すでに日本(クルーズ船)は、「第二の武漢」と言われるほどになっている。

 また、2月14日、CNNのインタビューで、CDC(疾病予防管理センター)の所長ロバート・レッドフィールド氏が、「ウイルスはすでに国内に感染拡大の根を下ろしてしまった可能性がある。今後、ウイルスはアメリカ国内でも蔓延し、感染問題は今年中に終わらず、来年まで続くかもしれない」と警告した。

 アメリカの感染者はまだ15人である。それなのに、大々的な感染防止の処置を取ろうとしている。保健福祉省およびCDCは、中国以外のアジア諸国、日本、シンガポール、香港などとの人的交流を規制することを提言しているという。

 私はこれまで、今回の「武漢肺炎」(当初中国ではそう呼んでいた。アメリカでも Wuhan coronavirus:新型コロナウイルス=COVIT-19)の騒動はいずれ終息する、インフルエンザと同じようようにやがて一般化して、それなりの対応策で落ち着くだろうと考えてきた。心配なのは騒動を大きくすることで、ウイルスそのものに対しては心配してこなかった。それは、健常者なら感染したとしても発症しないか、発症しても軽くてすみ、死には直結しないと思ってきたからだ。これまでの報道では、致死率は2%ほどで、WHOのチーフサイエンティスト、スーミャ・スワミナサン氏は「検査を受けた患者の数が増えるにつれ、死亡率は日ごとに低下している」(ブルームバーグの報道、2月12日)と言っていたからだ。

 さらに、中国の取り組みが、武漢市を全面封鎖するなど、これまでのSARSなどのときと違って全面撲滅に動いている。報道規制やごまかしを繰り返してきた中国政府も、今回ばかりはそれを認め、これまで発表してきた感染者数の統計数字には未発症者が含まれていないと発表した。また、上海市当局も300人の発症と1人の死亡を隠していたことを認めた。

 武漢市の幹部も更迭され、新型コロナウイルスの発生源として疑われている武漢ウイルス研究所には、中国人民解放軍の少将であり、トップクラスの科学者が送り込まれた。この少将は女性であり、陳薇(チェン・ウェイ)という。

 彼女は、SARS とエボラ出血熱のエキスパート。SARSとの戦いでもっとも貢献した学者で、生物化学兵器部門の最高責任者である。

 ここまで、中国がやっているのだから、インフルエンザ同様、暖かくなれば終息すると考えるのが自然だろう。

 しかし、こうした中国政府の対応を裏返しに考えると、武漢肺炎の発生源は海鮮市場ではなく、武漢ウイルス研究所であり、新型コロナウイルスは人工的なものというのが真実かもしれない。

 武漢ウイルス研究所の石正麗研究員は、いま、SNSで血祭りに上げられている。それは、彼が昨年、「コウモリからコロナウイルスを抽出し新種のコロナウイルスを研究する」という講演会を行ったことがわかり、SNS上で開発者として名指しされたことに怒りのツイートをしたからだ。

 これに対して、現役研究員の1人が、目撃情報も暴露したので、人工ウイルス説の信憑性が高まっている。

 アメリカ政府は、こうしたことを知っていて、早くから、対応を厳しくしたのではないだろうか。アメリカ国務省は1月31日には、自国民の中国への渡航を禁止した。また、大統領令により、アメリカ入国前14日以内に中国(香港とマカオの特別自治区を除く)に滞在歴のある人間の入国を禁止した。これを受けて、アメリカの大手航空会社は、中国便の運航を全面停止した。

 新型コロナウイルスの感染力は、想像以上に強い。未発症者からも感染する。

 ここからは私事だが、現在、私の娘はニューヨーク在住である。今回の武漢肺炎の騒ぎが起こる前から、家内は娘を心配して、何度もラインやメールをしている。それは、アメリカでは史上最悪のインフルのアウトブレークが起こっていて、すでに1万人以上の死者が出ているからだ。とくに、ニューヨークは感染拡大がひどい。

 これに、武漢肺炎が加わったのだから、在米日本人の不安は募るばかりとなっている。

 そして、いま、武漢肺炎は新たな局面に入り、このまま日本の感染者が全国的に増え続ければ、アメリカ政府は中国同様、自国民の日本渡航を禁止するだろう。また、日本からの渡航者も入国拒否しかねない。例えば、過去2週間以内に東京に滞在歴があれば、入国禁止の措置がとられる可能性もある。

 そうなれば、アメリカの航空会社も他国の航空会社も日本便の運航を停止するだろう。現在、ユナイテッド、デルタ、アメリカンは中国に飛んでいない。欧州のルフトハンザ、ブリティッシュ・エアウェイズなども中国便を欠航している。

 となると、娘を含め在米日本人は日本に帰ってこられない。また、ほかの方法で帰ってこられたとしても、アメリカに再度入国できなくなる。この3月初旬、娘は仕事で日本への一時帰国を予定している。また、私も4月に取材でアメリカ行きを予定している。いったいどうなるか、いまは、固唾を飲んで事態を見守るほかない。

《2月19日追記》

(1)記事内の「武漢ウイルス研究所」などの記述は、ネットメディア「Zero Hedge」(1月31日)、「National Post」(2月1日ほか)、「In Deep」(一連の記事)、人民解放軍の機関紙「解放軍報」(1月31日)、台湾の新聞「自由時報」(2月11日)の報道、中国版ウィキペディア「陳薇」などに基づいている。

(2)なぜ「武漢肺炎」なのか?

 わざと「武漢」を使わないほうが、偏見・差別・風評被害を助長することになる。しかも正確ではない。「新型肺炎」「新型コロナウイルス」では、知らない読者の推測を招く。つまり、読者をバカにしている。この言い方でわかるだろうと勝手に決めつけている。名称は、正確でなければならない。福島原発から福島を外してほかの言い方をするのと同じだ。今後、また新型のウイルスが出たとき、どの年の新型かあらためて説明しなければならない。偏見・差別・風評被害を招くのは、文字ではなく人の心だ。今後、WHOのネーミング「COVIT-19」が定着すれば、それを使うのは言うまでもない。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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