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辞めた保育士の「生の声」 無意味な監査の横行、募る不公平感

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 保育士の不足が大きな問題となっている中で、「保育士はなぜ辞めてしまうのか」、「どうすれば保育士の離職を防げるのか」は注目の的だ。

 そんな中、今年3月に保育士を辞めた方から、私に連絡が寄せられた。私の記事を読んでSNSからメールをくれたのだが、保育士が辞めてしまう実情について訴えたいという。

8月は、保育士大量離職の危険が蓄積する

 私も年間に数百件の保育士の労働相談に関わり、様々な問題を指摘してきたが、やはり「生の声」には圧倒的な臨場感がある。

 先日「保育園落ちた、日本死ね」で、保育園利用者の「生の声」が社会を動かしたように、当事者の「生の声」には社会を動かす力があると思う。

 そこで、今回はいただいたメールをほぼ、そのまま紹介し、それを元にこの問題を考えたいと思う(本人の掲載許可を得た上で、わかりにくい箇所などは聞き取って修正した)。

 今年の3月まで関東地方の保育園で保育士をしていましたが、今は退職しています。

 退職した理由は、色々な問題が積み重なり、もう保育の世界ではやっていけないと思ったからです。

 今は、保育士不足だと騒がれていますね。保育士不足の理由は、賃金の問題だったり、待遇だったりがあると思いますが、氷山の一角になっている問題もたくさんあります。

 もっと保育士不足の現実をたくさんの方に知ってもらいたいのです。

 文章書くのがへたくそなので、いくつかにわけて書いてみますね^^

1 免許を持っていない人でも、子育て支援の研修を受ければ、保育士として仕事ができる

 まずは、このことなのですが、メリットとしては、保育士不足を補えるからよい考えだと思います。

 私が保育士として働いていたときに免許を持っている先生たちと話したことは、子育て支援の資格を持った人が働くのはよいのですが、保育士さんに雑用をさせて、支援員の人が、本読みや主になって働いている。そうではなくて、子育て支援員の人が雑用などをしたほうがいいのではないか、立場上納得がいかない。時給も支援員さんのほうが保育士さんよりよい人もいる。

 「県外まで親に学校に出してもらい、高額な学費も払ってもらって、取った免許なのに、こういうことがあるならば、取らなければよかった」と皆さん。

 私は正社員だったのですが、資格の評価が低いことへの不満は、主に自分の子育てが落ち着いて復帰してきたパートの先生が言っていることです。

 そして、賃金も正社員の方はアップしようとする動きが今、世間ではありますが、正社員は何千円かあがったけど、パートはそのままの時給。コンビニと同じ時給なら、やりがいはあるけれど、コンビニと同じ時給なのは疑問に思うと言っていました。

 やはり、子育て支援員と、保育士の役割を最初から決めていたほうがよいと思います。

2 監査の意味のなさ

 年に1度、監査があります。監査は何月何日の何時に来ます。という予告があります。

でもそれでは、意味がないのです。私は今まで4つの園で働きましたが、どの園も、監査の日だけいつもしていることを隠せと園長から指示があります。

 その指示は、例えば、

  • 認可保育園では給食を職員が食べてはいけないことになっている。給食費を職員から徴収していれば食べてもいいが、うちの園は職員から徴収していないので、監査の日だけ先生たち皆お弁当持ってきて、と言われる。
  • うちはタオルを忘れた子どもは、園で一枚のタオルで、何人も拭かせているけれど、監査の日だけ、指摘されるからペーパータオルを子どもたちが拭く用に準備して、と言われる。
  • 人数をごまかしているから、ばれたら悪いから、監査の日だけ近くの公民館を借りて、そこに隠す。ある日はグループ園に移動させて隠す。部屋もいつも保育士や子どもが配置されている部屋じゃなくて、いつも使っていない部屋に配置したり、保育士を基準どおりに配置して出勤させる。いつもは基準をみたしていない。
  • 監査のときの書類も嘘を書いて提出する。
  • 監査の日だけ子どもたちの給食の量を増やしてと指示がある。私はわんずまざーのような虐待をしている園でも働いていました。園長が怖くて皆黙っていましたが、保護者はそのことは知りません。虐待だと思います。

 ようするに、監査の時にだけちゃんとしてれば、補助金がおりるし、何にも言われないのです。だからわんずまざーのような事件や森友のような事件がおきるのです。犠牲になるのは、保育士や子どもさんたちです。経営者さえよければいいんです。それが今の保育園の現状です。

 こういった問題が起きるのは、厚生労働省がしっかりしてないからです。昔の古い決まりのまま、保育がされている。これでは、保育士不足は解決しないのです。

*「わんずまざー」事件

兵庫県姫路市の私立認定こども園「わんずまざー保育園」が、定員の約1・5倍の園児を受け入れていた問題。園は給食を約40人分しか外注せず、約70人で分けることが常態化。1、2歳児のおかずは大きめのスプーン1杯分程度だった(朝日新聞 3月20日)。また、園は市の定期監査に提出する書類に園児数を定員通りに記入し、定員超過を隠蔽していたこともわかっている。

3 保育士の賃金不足が問題になっていますが・・・

 保育士の給料では一人暮らしは絶対に無理です。

 私がつとめていた先生たちは・・・暴露しますが、皆副業をしていました。その副業というのは、

 シャルレの下着を売る。キャバクラ。風俗。ねずみ講。夏休みの海水浴場の駐車場の整備。 塗装。みな保育で体がボロボロなのに、副業をしないと生活できないんです。副業をすることにより、保育の質も下がります。負の連鎖です。

どうにかしていかないといけないと思います。

4 書類の意味のなさ。

 私たちは月案、週案、日案、児童表、園便りなど書類がてんこ盛りです。

 持ち帰って作り物と併用しながら、夜中まで毎日作業をしています。その書類は膨大な量で、書いても書いても終わりません、中には内容が重複しているものがたくさんあります。週案(保育の一週間の計画)は必要だと思いますが、同じ内容の書類も、かなり重複するのです。その他の書類は、私は必要ないのではないかと感じています。書類を必要最小限にしてほしいです。

 連絡帳を、何十冊も毎日書くのはかなり大変です。幼稚園みたいに、今日の出来事はまとめておたよりで知らせて、体調のことのみ、必要最小限連絡帳に書けばよいのです。昼休みが大体どこの園も子どもたちのお昼寝している時間の中の30分から1時間に設定されていますが、その時間に、子どもを見ながら、(皆んな寝てないです)連絡帳を何十冊も書き、週案、日案、月案、報告書、作り物、掃除、ごはんは、10分でかきこみ。休憩が休憩でない。やってることは中国雑技団並みです。いっそ。休憩がないなら、二交代制とかにすればいいんです。

 あと、母の日、父の日、時の記念日などいろいろな行事があるたびに作り物の嵐です。私もこどもがいますが、大きいクラスになると自分たちで作ったものを持って帰るので、うれしいですが、小さいクラスは先生がほとんど作っています。例えば赤ちゃんクラスなど、作りものができないので、先生たちがほとんど作り、あとは赤ちゃんに指スタンプさせたり、手形とったりです。うれしいのはうれしいですが、正直いらないと思います。作り物も必要最小限にしてほしいです。

 作りものは、自分で製作が出来るようになってから、すればいいのです。

5 親の預け方について

 最近では短時間、長時間の制度が導入されましたが、あれも、全国で統一してないとおかしいです。

 例えば、A市の保育園では、短時間保育で預けた場合、短時間=8時間です。基本的に、8時半から4時半の間にしか預けられません(時間設定は市や園によって違います)。

 6時半に迎えに行くと、1時間の延長料金は100円なので、(料金も市や園によって違います)100円×2時間=1日200円の延長料金になります。

 9月に1か月間月〜土毎日預けると200円×25日=5000円かかります。

 B市の保育園でも、短時間保育で預けた場合は、短時間=8時間です。8時半から4時半の間にしか預けられません(市や園によって違います)。

 6時半に迎えに行くと、1時間の延長料金は100円なので、(料金も市や園によって違います)100円×2時間=1日200円の延長料金。

 9月に1か月間月〜土毎日預けると200円×25日=5000円ですが、上限1000円という決まりがある為、何日預けても1000円なのです。

 A市とB市では料金にかなりの違いがあります。1時間あたり、200円の園もあるし、30分単位で料金が発生する園もあります。A園では早めに子どもは減りますが、B園ではなかなか減りません。保育所によってぜんぜん扱いが違うのもおかしいです。

 B市では、長時間、短時間の料金の差が1000えんしかないのもおかしいです。何のための長時間、短時間保育なのか。

 あと、私が今まで書いた中でも一番疑問にかんじたことは、週末保育の使い方です。月から金まで勤務のお父さんお母さんがいます。土日休みです。

 平日は朝早く制服を着て子どもを預けにきます。仕事だからそれはいいんです。ところが、土曜になると、いつも7時に預けに来ていたその夫婦は9時に私服で子どもを預けてデート。月に1回とかならいいんですが。毎週です。しかも早めにお迎えに来ればいいのに、デートをして迎えにくるのは夜の七時。完全に子ども放置です。子どもがかわいそうです。私がつとめていた園は 予約すれば日曜もあずけれます。でも月から日曜まで7日続けて、いや何十日もつづけて来る子どもさんもいます。じゃぁ家族の時間はいつ作るの? と疑問になります。

 土曜こういったデートや遊びのために預ける親がいなくなれば、土曜保育士も休めます。ところが、土曜は一番登園してくる子どもが多いので、私は自分の子どもを保育園に預けて、デートをするために預けられた親のために出勤することがただありました。

 なぜ? なぜ? と不満をいだきながら、働いていました。土曜遊びのために預けるなら一回1500円とかの有料にすればいいのです。本当に仕事がある人だけ、会社に就労証明を書いて出せば500円で預けれるとかにもすればいいんです。

 本当に預けたい人だけ、土曜日のぶんの就労証明も別の用事に書いてもらって出せば500円で預けれるとかにもすればいいんです。お盆も同様です。

 そうすれば土曜保育士も休めて、平日に出勤できて保育士不足も多少なり解決するのです。なぜ私たちが遊ぶ親のために働かなければいけないんでしょうか? 本当に疑問になります。子どもがほんとにかわいそう。

 あと、親が自営をしていたら、親に就労証明を書いてもらうだけで、働いてなくても認可に預けている親御さんを何人も知っています。それは市役所が抜き打ちで会社に出向き確認するなどすればよいのです。

 だから、本当に働きたい人は預けることができません。それもおかしいと思います。

 まだまだ疑問な点はたくさんありますが、今日思いついたことを書きました。

 私はこういったことがつもりつもって退職しました。もう保育士はする気はありません 。厚生労働省がちゃんとした法律でも決めてくれなければ、一生保育士はすることはないです。

もう記事にするしか、世間には知らせることができないのです。

こういった問題を記事にしてもらいたいです!!

お願いします!!!

このメールから考えること

 私はこのメールを受け取って、給与や待遇だけではなく、いろいろな不満が保育士不足を招いているのだということを改めて感じた。

 まず、資格への評価や待遇の低さ、保育園ごとの待遇の違いや、監査がまったく機能していないことへの訴え。これらは私も繰り返し労働相談の現場で直面してきたことだ。「生の声」からは、監査のいい加減さや、副業をせざるを得ないほどの待遇の厳しさが切迫感をもって伝わってくる。

 復業せざるを得ないほどの待遇の劣悪さの改善は、保育士不足解消にとって急務だろう。実際に、保育士向けの転職サイトの調査では、副業をしている保育士は半数を超えているという。

半数以上の保育士さんが副業を経験?!128人に聞いたお仕事の実態

 

 さらに、こうした状況に足下を見て、日曜日、夜間の副業を斡旋するサイトも多数見受けられる。中には、

「保育士とのダブルワークで多いのがこちら。水商売は、短時間の労働で高収入を得られるため、時間がない保育士には人気の副業です」

「日常的に人と会話をしている保育士のスキルを水商売で活かすこともできます」

 と、勧誘するサイトも実在するのである。

 一方で、待遇の問題意外にも、「親の預け方」への不満が大きいことも、なかなか理解されていないところだろう。

 このメールにもあるように、子どもを持つ親が、土日を自由に過ごしたいことは保育士たちもよくわかっている。しかし、あまりにも「使い放題」のように使われてしまっていることや、自治体とごとに制度が違うことが不満の種になっている。

 背景には、自治体が独自の制度として、保育サービスを拡充していることがあると考えられる。子育て世代を誘致するために、各自治体は保育のサービス拡張競争をしているのだ。しかし、実際には保育士の人数は限られているために、そうしたサービス競争の負担がすべて保育士にいってしまう。

 また、土曜保育は、親の働き方が変わっているにもかかわらず、制度が付いて行っていない問題でもある。平日の開演時間も当初は8時間であったものが、長くなっているのに行政からの運営費はそれに見合ったものになっていないのだ。

 社会的ニーズが高まり、自治体にも誘致競争に利用されているのに、資格の評価は低く、いいように使われているのでは、不満が募るのも無理はない。

 厚生労働省が一律に延長保育、土曜保育の制度を拡充し、自治体間の格差や、保育士の「乱用」を防ぐことも、保育士不足解消にとって、重要なステップになるはずだ。

おわりに

 今回の告発からは、保育士の離職を防ぐためには、待遇面の改善はいうまでもなく、保育士の職業としての資格を尊重することや、本当に意義があり、不公平感のない保育園の活用が実現するような施策が必要だということがわかった。

 私たちは、これからも当事者の埋もれた声をこれからも拾い上げ、社会に発信していきたい。もちろん、職場を改善したいという方も大歓迎である。末尾の相談窓口の利用も含め、さらなる情報提供を呼びかけたい。

 最後になるが、今回の当事者の声が今後の政策に生かされることを願っている。

全国の保育士向けの無料の労働相談窓口

介護・保育ユニオン

HP:http://kaigohoiku-u.com/

TEL:03-6804-7650(受付:平日17時~22時、土日祝12時~22時)

メール:contact@kaigohoiku-u.com(随時受付)

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

http://www.npoposse.jp/

ブラック企業被害対策弁護団(全国)

03-3288-0112

http://black-taisaku-bengodan.jp/

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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