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卓球混合ダブルスで金を初めて逃した卓球王国の中国は落胆

宮崎紀秀ジャーナリスト
奥左から中国の許昕と劉詩雯の両選手。手前は伊藤選手 7月26日(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 混合ダブルスで水谷隼選手と伊藤美誠選手の組が中国ペアを下し、卓球で日本に初の金メダルをもたらした。一方、敗れた卓球王国、中国は「初めて金を逃した」としてがっかりしている。

卓球で初めて金を逃す

「中国の卓球はこの17年間で初めて金を逃す」

 2004年のアテネ五輪以降の17年間で初めて金メダルを逃したと報じたのは、中国新聞網。

 記事はこう続く。

 卓球が1988年のソウルで五輪の正式種目になって以来、32個の金メダルのうち、28個は中国が得てきた。そうした中で、男女のシングルや団体戦で金メダルを取るのがいかに難しいかは、日本にとっては「言わずもがな」。

 だから日本は東京五輪の機会に、混合ダブルスを種目に加え、卓球での金メダル獲得の突破口にしようとした。

 しかし、日本の願望は全く非現実的だったわけではない。中国は混合ダブルスを「戦略的に放棄」してきたからだ。こうなるシナリオは既に描かれていた、云々。

 と、中国敗北の「一大事件」を、少々、未練がましく伝えた。

中国のネット民は厳しい?

 中国ペアは、31歳の許昕と30歳の劉詩雯というベテランの2人だった。

 自国ペアの敗北に対し、中国のネット民は手厳しい。

「許昕はハートが強いと言われるが、実は精神的に脆い」

「老兵は引退すべきだ」

 一部の中国メディアは、2人にとっては恐らく最後の五輪とも書いている。

 ネット上では、更に「コーチが悪い」と指導陣の責任を問う声もあれば、試合の途中で中国の卓球協会のトップが席を立ったことに触れ「こんな時に、なんの重要な電話だ」と憤る声もあった。

 中国のファンのもどかしさと焦りぶりが目に浮かぶような、ユニークな書き込みもあった。

「水谷選手の眼鏡に絶対問題がある。ハイテクで球の回転が見えるに違いない」

「中国チーム何やっている!もう少しでテレビを壊しそうになった!」

中国の劉詩雯選手は号泣で謝罪

「チームに対して申し訳ありません。チーム全体が混合ダブルスのために、多くの犠牲を払ってくれました。この試合で役目を果たしたいと思ったのですが」

 中国の国営テレビのカメラの前でこう話した劉詩雯選手は、はっきり言って号泣だった。

「皆さんごめんなさい」

 試合中は鋭い眼光を放っていた劉選手が、迷子になった子供のように自信なさげ瞳を揺らし、止めどなく涙を流す様子に、私も思わずもらい泣きしてしまった。

 さすがに、この劉選手の姿には中国のネット民も心打たれたようだ。同情的だった。

「全力を尽くしたのだから、それでいい。貴方は私の英雄だ」

「謝ることなんか何もないよ。力を尽くしたあなたは一番素晴らしい」

 中国のアスリートは、国を背負っているという意識が非常に強い。それは長く国の宣伝を担ってきた歴史とそうしたプレッシャーを受け続けてきたためでもある。時に完璧なまでのパフォーマンスを見せる彼らは、試合では何やら非人間的な怖い存在に見えることさえあるが、取材で接する際の姿は、皆、アスリートらしい爽やかな若者たちである。

 表彰台に上がる際も、沈んだ表情のように見えた許・劉ペアだが、成績は立派な銀メダル。

 メダルを取れても取れなくても、素晴らしい試合をしたアスリートたちは、皆、胸を張って欲しい。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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