【衆議院任期満了まで後3か月】 “西村問題”で迷走する菅政権に国民が突き付けた低支持率
4度目の緊急事態宣言下でオリンピック開催
いよいよ7月23日に東京オリンピックの開会式が開かれるが、この57年ぶりの国際的な祭典に国民は諸手を挙げての歓迎ができないにちがいない。開催地である東京都では、新型コロナウイルス感染症による4度目の緊急事態宣言が7月12日から8月22日までの予定で発令され、8月8日までのオリンピックの日程は完全に飲み込まれることになる。
2021年も半分を過ぎたのに、「なんでもない日」はわずか28日。そういうことで「慣れ」が生じているのか、今や緊急事態宣言があってもまん延防止等重点措置があっても、街中の人出はたいして変わらないように思う。
金融機関や酒屋を使って飲食店を締め上げる
その一方で飲食店の営業時間は大きく制限されている。酒類の提供についても、まん延防止等重点化措置では午後7時までの提供だったが、緊急事態宣言では酒類やカラオケ設備を提供する飲食店は休業要請を受けて全面禁止。それを確実にしようとしたのだろう。西村康稔経済再生担当大臣は7月8日、金融機関や酒類販売業者が酒類を提供する飲食店に“働きかけ”るように要請することを発表した。
「金融機関は(取引先の飲食店と)さまざま日常的にやりとりを行っていると思いますので、これは法律に基づく要請あるいは命令でありますから、そういったことをしっかり順守していただけるように、金融機関からも働きかけを行っていただきたい」
その前提として、酒類の提供を止めない飲食店の情報を金融機関に提供し、酒類販売業者にも取引停止を依頼することを公表した。すでに内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室と国税庁酒税課は連名で、酒類業中央団体連絡協議会各組合宛てに取引停止の依頼書を送付。こうして酒類提供を止めない飲食店への“締め付け”は完成し、成果が出れば西村大臣の功績となるはずだったが……。
金融機関の“働きかけ”は撤回したものの……
これに対して凄まじい批判が巻き起こった。なぜ金融機関が顧客の飲食店に対して本来の業務ではない“働きかけ”を行わなければならないのか。さらには行政府から民間へ酒類の提供を止めない飲食店についての情報提供は妥当なのか―。
さすがにその翌日、金融機関に対する“働きかけ”の依頼については撤回されたが、酒類販売業者に対する飲食店への酒販売停止要請はそのままだ。だが酒類販売業者にとっては販売停止要請は死活問題に直結する。しかも酒類を提供する飲食店の情報提供問題をクリアしていない。酒類業中央団体連絡協議会は7月12日に自民党本部を訪れ、下村博文政調会長に強く抗議した。だがさらなる問題は、これらをどういうプロセスで決定したのかという点だ。
責任者は誰なのか
「西村大臣が発言されたことは承知していない」
菅義偉首相は7月9日、記者団に対してこう述べた。政府分科会メンバーの館田一博東邦大医学部教授もテレビ番組で、西村大臣の発言内容が事前に分科会に上がっていなかったことを明らかにしている。
加藤勝信官房長官は7月9日午後の会見で、西村大臣の独断によるものではないとしたが、では内閣官房と財務省と経済産業省と金融庁が関与したこの決定は、いったい誰の責任で行われたのか。
金融機関による“働きかけ”にしろ、酒類販売業者による販売の停止にしろ、その目的は飲食店を“締め上げる”ことに相違ない。西村大臣は7月8日の会見で「これは法律に基づく要請あるいは命令でありますから」と胸を張ったが、その脳裏に死活問題に喘ぐ飲食店の姿は浮かばなかったのか。
内閣支持率に如実に反映
7月12日に公表されたNHKの世論調査では、菅内閣の支持率は前月比4ポイント減の33%で、不支持率は1ポイント増の46%。内閣支持率は2012年12月に自民党が民主党(当時)から政権を奪還して以来の最低となった。
また同日に公表されたNNNと讀賣新聞の世論調査では、不支持率が53%と最高値を記録。支持率は37%で最低タイとなった。いずれの調査も7月9日から11日にかけて行われており、東京都の緊急事態宣言発令とともに“西村問題”も影響したことは否めない。これは明らかに人災だ。
衆議院の任期満了まで後3か月を残すばかりになった今、菅首相はこうした問題をどのようにクリアしていくのか。コロナ禍でたまった国民の不満は、決して小さくはない。