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井上尚弥陣営がスパーリング相手に招いた“対抗王者”は仮想タパレスの最適任者

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ロブレスvs.マクレガーの結末(写真:Jennifer Charlton)

井上のパートナーたちの受難

 ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチが正式発表された。WBC・WBO世界スーパーバンタム級統一王者井上尚弥(大橋)vs.WBAスーパー・IBF世界同級統一王者マーロン・タパレス(フィリピン)は年末12月26日、東京・有明アリーナでゴングが鳴る。

 横浜の大橋ジムで調整を行う井上にメキシコからスパーリングパートナーがやってきた。来日したのはエリク・ロブレスとホセ・アンヘル・ガルシアの2人。さっそく彼らと手合わせした井上は「今のパートナーがすごくいいので、延長してもらうかもしれません」と語っている。2人は1ヵ月の予定で滞在するが、もしかしたら最終調整まで井上をサポートすることになるかもしれない。

 井上のスパーリング相手を務めることは、ものすごい精神的プレッシャーを受けるという。プロ、アマチュアを問わず、日本のトップクラスが証言している。一瞬でも気が抜けないからだ。そして被弾するとダメージが加わるから相当なタフネスを持っていないと任務を果たせない。私は今月上旬ラスベガスでタパレスと11月15日、井上の実弟WBA世界バンタム級王者井上拓真(大橋)に挑むジェルウィン・アンカハス(フィリピン=元IBF世界スーパーフライ級王者)にインタビューする機会があったが、両者とも「これまで何人ものフィリピン人がイノウエに破壊されて帰ってきた」と証言していた。まさにモンスターである。

23歳のロブレス

 その重責を担うメキシコ人2人のうち、ロブレスは14勝9KO1敗の23歳。フルネームはエリク・ロブレス・アヤラ。所属の「サンフェル・ボクシング」はフェイスブックで彼と井上の写真をアップ。傘下選手をPRしている。もう一人のガルシアは記録サイト「ボックスレク」によるとフルネームはホセ・アンヘル・ガルシア・ロドリゲス。グアダラハラ出身の25歳のフェザー級は9勝8KO3分無敗。

スパーリングで井上をサポートするロブレス(写真:Zanfer Boxing)
スパーリングで井上をサポートするロブレス(写真:Zanfer Boxing)

 頼もしいヘルパーを得た井上は「ギアを上げてやって行こうと思います」と一段とジムワークが熱を帯びている様子だ。彼らメキシカンのうち、IBFスーパーバンタム級12位にランクされるサウスポーのロブレスはIBО(インターナショナル・ボクシング・オーガニゼーション=国際ボクシング機構)スーパーバンタム級王者である。メジャー4団体と呼ばれるWBC(世界ボクシング評議会)、WBA(世界ボクシング協会)、WBO(世界ボクシング機構)、IBF(国際ボクシング連盟)に対し、IBОは一般的にマイナー団体と区分けされる。1999年から会長を務めるエドワード・レヴァイン氏の個人団体みたいな存在にも思える。

アウェーで王者に就く

 それでもロブレスは“世界”のベルトを保持し、井上の対抗チャンピオンである。彼がIBО王者に就いたのは今年7月21日、英国スコットランド・エジンバラのリング。当時IBFスーパーバンタム級11位だったリー・マクレガー(英)との王座決定戦で無名のロブレスは3-0判定勝ちを収めた。スコアカードは3ポイント差が1人、2ポイント差が2人だったが、実際はもっと開いていた印象がした。

 これがその一戦の映像。やや大柄に見え、白いグローブを着用しているのがマクレガー。サウスポースタイルで赤いグローブがロブレス。初回からアグレッシブに攻め立てるロブレスがリード。映像はフルラウンドなのでハイライトをご覧になりたい方は14分ごろからの5,6ラウンド、30分ごろからの10ラウンド以降をお勧めする。

7月に行われたマクレガーvs.ロブレス戦(Wasserman Boxing)

 ちなみに地元のマクレガーはバンタム級時代に井上の対戦候補として取り上げたことがある。彼は一足先にスーパーバンタム級に転向していた。しかしこの試合で初黒星を喫した26歳のスコットランド人は12勝9KO1敗1分となり、ロブレスに世界ランカーの座を明け渡してしまった。

 それにしても井上陣営の先見の明、洞察力には恐れ入る。ロブレスの構え、パンチの打ち出しと回転力、フットワークはタパレスを彷彿させるものが感じられる。私には瓜二つに思える。同時にマクレガーのボディー打ちを食らっていたシーンはフィリピン人選手に共通する欠点に見える。仮想タパレスとして最適なパートナーではないだろうか。

フルトンの王座を継承

 マクレガーとのIBО王座決定戦は井上の軍門に下ったスティーブン・フルトン(米)が以前保持していたベルトの一つだった。井上との縁は何かのめぐり合わせだろう。マクレガー戦の前日、計量を終えたロブレスはサンフェル・ボクシングのユーチューブ・チャンネルに出演。5日後に行われた井上vs.フルトンの予想を聞かれ、しばらく考えてから「私はフルトンが勝つと思う。彼はフェザー級進出も考えているというから、スーパーバンタム級ではイノウエよりも強いだろう」と答えていた。まさか3ヵ月後に井上をバックアップすることになるとは想像していなかっただろう。

 タパレスとの決戦まで2ヵ月。最高のスパーリングパートナーを得た井上は、いっそう調整に拍車がかかると思われる。招へいされたロブレスもモンスター相手に収穫は殊の外、多いと推測される。マイナー王者を脱し、将来、井上に挑む日が訪れるかもしれない。彼にとって、ただのヘルパーに終わるか、強豪にのし上がるかは、ここ1,2ヵ月の日本滞在にかかっているのではないか。少なくとも途中でギブアップすることはあるまい。盤石な仕上がりが期待できる井上のパフォーマンスがますます楽しみになってくる。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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