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中谷潤人の親友オラスクアガが無効試合→TKO勝ち変更をWBOにリクエスト

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
オラスクアガと中谷潤人。ロサンゼルスのジムにて(写真:筆者)

初回145秒で終了

 14日、東京・有明アリーナで開催された「PRIME VIDEO BOXING10」DAY2の世界タイトルマッチ第1試合、WBO世界フライ級タイトルマッチは1ラウンドに発生した偶然のヘッドバットにより挑戦者ジョナサン“ボンバ”ゴンサレス(プエルトリコ)が左目周辺をカット。無効試合の裁定が下った。初防衛戦に臨んだ王者アンソニー・オラスクアガ(米)はひとまず王座は安泰となったが後味の悪さを残した。

 前WBO世界ライトフライ級王者のゴンサレスはタイトルを返上し、指名挑戦者として2階級目のベルト獲得を目指した。相当、士気は高かったはずだが、開始早々に出血に見舞われ、戦意喪失したかのような仕種を見せレフェリーにアピール。米国のロバート・ホイル主審は2分25秒、試合終了を告げた。

 その前にホイル主審はゴンサレスにドクターチェックを要請。続行が許可されていた。しかしオラスクアガが左フック、右アッパーカットで攻め込むとクリンチになり、ゴンサレスは左目をグローブで触り出血を気にする素振りを見せた。まるで「ストップしてくれ」と訴えているようにも感じられた。

 このゴンサレスの行為を指摘したのがオラスクアガのトレーナー兼マネジャーのルディ・エルナンデス氏。「ドクターがゴンサレスにチェックを要求し続行された後、1ラウンドはまだ時間が残っていた。クリンチの時、彼(ゴンサレス)はもう続行したくなかった。そしてレフェリーが試合を止めた。ドクターが続けられると判断したのに辞めたくなったのだからオラスクアガのTKO勝ちになるべきだろう」という旨のレターをWBOへ送り裁定の変更をリクエストしている。

レフェリーがアクションを止め、あっけなく試合終了(写真:ボクシング・ビート)
レフェリーがアクションを止め、あっけなく試合終了(写真:ボクシング・ビート)

別のプエルトリコ人も続行を拒否

 それはそれとして、もし1ラウンド終了ゴングが鳴ったとしてもゴンサレスはインターバルで棄権する意思を示したのではと推測される。そうなれば同じく無効試合に終わったかもしれないが、オラスクアガのTKO勝ちの可能性も出てくる。

 思い出されるのは2021年11月に行われたWBC世界フライ級タイトルマッチ。当時の王者フリオ・セサール・マルティネス(メキシコ)が2度、挑戦者マックウィリアムズ・アローヨ(プエルトリコ)からダウンを奪い優勢に進めていた。ところが2ラウンドに起こったヘッドバットでアローヨが右目をカット。インターバルでアローヨは3ラウンド開始ゴングに応じず、試合を投げるかたちになった。マルティネス側はTKO勝利を主張したが、レフェリーは無効試合と判断した。

 今回のケースと似ている。ゴンサレスもアローヨと同じプエルトリコ人。反則に厳しいレフェリーなら、オラスクアガとマルティネスの失格負けの裁定が下ることも想定される。これはゴンサレスとアローヨの“勝ち逃げ”のパターンを意味する。

ドクターチェックを受けるマルティネス戦のアローヨ(写真:Ed Mulholland)
ドクターチェックを受けるマルティネス戦のアローヨ(写真:Ed Mulholland)

裁定が覆る可能性は少ない?

 それでもエルナンデス氏が作成しWBO本部へ送ったレターが受理され、裁定が覆せる見通しは低いと見られる。このニュースを伝えた「ザ・リング」のジェイク・ドノバン記者は「(オラスクアガ側の)要請は最後に耳を傾けられなくなるだろう」と記す。

 その根拠としてオフィシャル裁定を下したのはJBC(日本ボクシング・コミッション)を代表する安河内剛氏(執行理事)であり、タイトル承認団体WBOの権限は及ばないとしている。「公式裁定の権限はJBCに属している。WBOは試合を再度、映像でチェックしてアドバイス的なことはできるが、JBCを動かすのは難しい」と同記者は見なす。

 いずれにしても議論の余地はありそうだ。出血にめげずゴンサレスにもう少し戦意があったらと悔やまれる。たとえ最後は無効試合になってもファイトマネーはもらえるから本人は問題ないが、せっかく好ファイトが期待されたのだからもっとヤル気を発揮してもらいたかった。ちなみにゴンサレス(33歳)は28勝14KO3敗2無効試合。もう一つの無効試合は13年2月までさかのぼり、これも初回で相手のメキシカンのラビットパンチで続行不可能になったもの。

対戦オプション多し

 とりあえず7勝5KO1敗1無効試合となったオラスクアガ(25歳)には「PRIME VIDEO BOXING10」DAY1でタナンチャイ・チャルンパク(タイ)に判定勝ちで防衛を果たしたWBA王者のユーリ阿久井政悟(倉敷守安)やクリストファー・ロサレス(ニカラグア)をストップしてWBCライトフライ級王者からWBC王者に就いた寺地拳四朗(BMB)とのフライ級統一戦も話題に持ち上がる。

 寺地にはゴンサレスの欠場により急きょ代役で起用され、善戦したものの9回TKO負け。リベンジしたい気持ちが強い。さらにオラスクアガには12日、名古屋でシベナティ・ノンティンガ(南アフリカ)を倒してIBF世界ライトフライ級王者に就いた矢吹正道(LUSH緑)からも挑戦のラブコールが送られている。

 寺地戦の激闘、ベルトを巻いた加納陸(大成)でのKO勝ちと日本のファンにエキサイティングな試合を提供しホームリング同様にしているオラスクアガ。WBC世界バンタム級王者中谷潤人(M.T)の親友であると同時にエルナンデス氏とは養子の関係にある。師弟コンビの願いが実現するかはわからないが、ゴンサレスとの再戦、日本人王者との統一戦などで今後もファンを楽しませてくれるだろう。

 

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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