希望の党「外国人参政権反対」の踏み絵は是か非か あなたは「恐怖」と「希望」どちらを選ぶ 感情の政治学
希望の党の公約
小池百合子都知事が代表を務める新党「希望の党」の公約案が報じられています。
(1)憲法改正。国民の知る権利、地方自治の明記。自衛隊の存在を含め9条改正を議論
(2)消費税率10%引き上げの凍結
(3)国会議員の定数と歳費の削減
(4)経済政策
(5)2030年までに原発ゼロ。再生可能エネルギーの割合を30%に
(6)教育福祉
(7)ダイバーシティー(多様性)社会の実現。性的少数者(LGBT)に対する差別撤廃の法制化
(8)地方分権。道州制
(9)危機管理。集団的自衛権の限定的な行使のあり方を検討
どのような党内の民主的プロセスを経て公約が策定されているのか、全くうかがい知ることはできません。
がしかし、「消費増税の凍結」と「30年までに原発ゼロ」が安倍政権に対する大きな柱になりそうです。
踏み絵
希望の党が「ダイバーシティー」を柱の1つに掲げながら公認候補と結ぶ「政策協定書」に「外国人に対する地方参政権付与反対」を盛り込んだことが論議を呼んでいます。
外国人参政権の問題は、主権にこだわる右派と、国境をなくして主権を薄める左派の対立軸です。
「外国人参政権反対」を党公認の踏み絵にした小池知事は間違いなく右派の政治家です。
希望の党に合流した民進党(旧民主党)は党内の一部に慎重派を抱えながらも、かつては「定住外国人の地方参政権を早期に実現する」ことを旗印に掲げていました。
それが「外国人参政権反対」に署名して希望の党から立候補するとは、あきれたものです。
最高裁の判断
国立国会図書館調査及び立法考査局の「人口減少社会の外国人問題 総合調査報告書」によると、地方公共団体における選挙権に関しては3つの立場があるそうです。
(1)地方公共団体が選挙権を外国人に付与することは禁止されている
(2)外国人への選挙権の保障は憲法上許容されており、立法政策の問題
(3)憲法は選挙権の外国人への保障を要請している
最高裁判所の判断は次の通りです。
「我が国に在留する外国人のうちでも永住者などであってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものに対して、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員などに対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない」
「しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない」
憲法の番人である最高裁は(2)外国人への選挙権の保障は憲法上許容されており、立法政策の問題―という見解です。これに対して、小池知事の希望の党は(1)地方公共団体が選挙権を外国人に付与することは禁止されている―との立場を公認希望者に押し付けています。
193カ国中65カ国が外国人の選挙権認める
世界の状況はどうかと言えば、外国人参政権について研究している米サンフンシスコ州立大学のロン・ヘイダック准教授によると、国連に加盟している193カ国中、外国人の選挙権を認めているのは65カ国。欧州では44カ国中30カ国が外国人の選挙権を認めているそうです。
人の移動がグローバル規模で広がる中、移民の社会参加と統合を促すため外国人参政権を広く認める傾向が広がる一方で、ナショナリズムが強まり、選挙権は主権と不可分として外国人から剥奪せよとの極端な主張も目立っています。
英マンチェスターで開かれた保守党大会の最終日、党首演説を行ったメイ首相を紹介したのはケミ・バデノック下院議員(37)。両親はナイジェリア人。本人はイギリス生まれでナイジェリア育ち、イギリスに戻ってきたのは16歳の時でした。
バデノック下院議員は保守党員になり、2015年からロンドン市議会議員、先の解散・総選挙で初当選を果たしました。彼女は欧州連合(EU)離脱派で、議会での処女演説で「私のヒーローはウィンストン・チャーチル(第二次大戦を戦った英首相)とマーガレット・サッチャー(イギリス初の女性首相)」と述べました。
ナイジェリアのようにイギリス連邦(イギリスとその旧植民地からなる緩やかな国家連合)に加盟する国々の出身者にはEU離脱派が多いのです。
イギリスの夢
かつて七つの海を支配したイギリスでは同国に居住する18歳以上のイギリス人、アイルランド人、居住権を持つイギリス連邦出身者にすべての選挙権を与えています。総選挙にも立候補できます。
バデノック下院議員は「アフリカ系移民が16歳の時にイギリスにやって来て下院議員になる。これこそイギリスの夢」と強調しました。ダイバーシティーとはこのことです。
バデノック下院議員はイギリス生まれなのでイギリス国籍が与えられますが、イギリス連邦出身者に参政権を大盤振る舞いすることには反発も起きています。移民問題を考えるシンクタンク「マイグレーション・ウォッチUK」はこう指摘します。
「イギリス連邦からの移民100万人がイギリス国民でないのに総選挙の投票権を持っている。帝国時代の遺物で時代錯誤も甚だしい。相互主義に基づきイギリス国民に同じように選挙権を認めている加盟国を除いて選挙権付与を終わりにすべきだ」
昨年末現在、日本の在留外国人数は238万2822人と過去最高を記録しました。日本でも定住外国人の社会参加と統合を真剣に議論すべき時期が来ています。外国人参政権は排除するのではなく、議論の俎上にのせるべき大きなテーマです。
野党党首の二重国籍が大問題になったり、政党が外国人参政権反対を踏み絵にしたりする日本は北朝鮮の核・ミサイル問題があるとは言うものの、旧植民地出身者に寛大なイギリスに比べ、心が狭すぎると思います。
交錯する「恐怖」と「希望」
下の写真は先のエントリーで紹介したドイツ連邦議会選の最中、旧東ドイツのドレスデンで撮影したものです。
反イスラム団体「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国主義者」(ペギーダ)は毎週月曜日、難民に門戸を開放したアンゲラ・メルケル独首相を批判する集会とデモ行進をしています。
ペギーダには過激な排外主義者、民族主義者のほかロシアのウラジーミル・プーチン大統領を崇拝するロシア系住民も加わっていますが、参加者には難民が増えたことに不安を覚える高齢者や若者も少なくないのです。
ペギーダの集会が開かれる月曜日、市民と難民が交流する「月曜カフェ」が市民団体の手で催されています。毎回100~200人もの人が集まるようになりました。3分の2が難民、3分の1が市民だそうです。
フランスを代表する国際政治学者ドミニク・モイジ氏は著書「『感情』の地政学――恐怖・屈辱・希望はいかにして世界を創り変えるか」を発表しています。人間の感情を代表する「恐怖」と「屈辱」と「希望」が世界を動かしているという内容です。
写真をご覧になって、ペギーダのデモ行進に参加している人たちより「月曜カフェ」の難民や市民の笑顔の方が自然な喜びにあふれていると思いませんか。ペギーダのエネルギーは「恐怖」なのに対し、「月曜カフェ」は「希望」に輝いていました。
極右や極左が台頭する欧州を取材していて痛感するのは、人間は正しい行いをしている時に素晴らしい笑顔を見せるということです。しかし世界のパワーバランスが大きく変化する中で、どの国でも政治的感情は「恐怖」に支配され始めています。
「希望の党」の踏み絵は現行憲法が禁じていない外国人参政権の道を閉ざすもので、「希望」ではなく「恐怖」政治の萌芽のように感じられてならないのですが。
(おわり)