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【熊本地震】兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の教訓を活かせているか?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:児玉千秋/アフロ)

活断層が引き起こしたM7.3の直下地震

今回の地震では、布田川断層帯・日奈久断層帯が活動し、本震はマグニチュード7.3でした。破壊形式は右横ずれ断層です。六甲断層帯で発生した兵庫県南部地震(災害名は阪神・淡路大震災)と同じマグニチュード、破壊形式です。大変よく似た地震です。これら、内陸直下の地震では局所的に強い揺れが襲います。

キラーパルス

いずれの地震でも周期1秒程度の強いパルス性の地震動が観測されています。こういった揺れはキラーパルスと呼ばれることもあり、古い木造家屋や10階建てくらいのビルにとっては厳しい揺れとなります。熊本の被害の様相は、神戸の被災地の様子と重なります。

寝ている時間の地震、高齢者と大学生が犠牲に

地震の発生時刻は1時25分、多くの人が寝ている時間です。夜明け前の5時46分に発生した兵庫県南部地震に似ています。その結果、どちらの地震でも、耐震性が不足する家屋に居住する高齢者や大学生が多く犠牲になってしまいました。

古い木造家屋の被害

益城町を中心に、古い木造家屋が甚大な被害を受けています。多くは、瓦屋根で、壁が少ない古い木造家屋です。兵庫県南部地震で被災した家屋と共通します。重い屋根による大きな地震力、不足する耐震要素、柱・梁の補強金物の不足などが、弱点になります。兵庫県南部地震以降、耐震改修促進法を制定し、現行耐震基準を満足しない1981年以前の既存不適建物の耐震補強を進めてきましたが、熊本の耐震化は遅れ気味だったようです。平成20年時点では、熊本県の住宅の耐震化率は72%と全国平均79%を下回っています。

ピロッティのマンションは心配

1階が駐車場のマンションの被害映像がテレビに映し出されています。映像を見ると帯筋と呼ぶ鉄筋量が不足気味のようです。このようなピロッティ建築は、1階部分が2階以上と比べて柔らかいために、1階の柱が大きく変形します。帯筋が不足する柱では、その変形と建物重さに耐えられず、1階がつぶれてしまうことになります。兵庫県南部地震で目立った被害そのものです。こういった古い耐震基準の集合住宅は、早急に耐震補強が必要です。

防災拠点の市役所や病院が使えなくなった

残念なことに、災害時に最も重要な役割を果たすべき宇土市役所や熊本市民病院の被害が報じられています。財政上の問題ということで、耐震化が遅れていたようですが、兵庫県南部地震から21年も経っているのに、最重要の防災拠点である市役所や病院の耐震化がされていなかったことは残念でなりません。全壊した神戸市役所、神戸市西市民病院のことをぜひ思い出したいものです。

南阿蘇の大規模土砂災害

強い揺れを受けると、地形的・地質的に危険度の高い斜面が土砂崩れを起こします。火山灰が堆積した南阿蘇村で大規模な土砂災害が報じられています。兵庫県南部地震の時にも仁川で大規模土砂崩れが起き、多くの犠牲者を出しました。

道路、鉄道、ライフラインの途絶

路面の盛土崩壊・亀裂・段差などによる道路の途絶、車両の脱線による鉄道運休、大規模停電、断水、ガス途絶など、生活に必要となる物流やライフラインが途絶しています。サプライチェーンに頼る製造業への影響も懸念され始めています。改めて、災害時のための平時の備え(備蓄、事業継続計画)の大切さが分かります。

災害は繰り返す、過去の教訓を活かすしかない

熊本の様子を見て、兵庫県南部地震の教訓を活かせたかどうかの点検が必要だと思います。小中学校の被害が報じられていないことは、耐震化の成果かもしれません。地震発生直後から、様々な災害情報も提供され、初動も早かったと思います。一方で、兵庫県南部地震と同様の被害が多数生じていることも否めません。災害を減らすには耐震化、家具固定、備蓄など、日ごろの努力を地道に継続するしかないと感じます。改めて、現状を反省し、これを契機に改善したいものです。

最後に、犠牲になった方々の冥福をお祈り申し上げると共に、被災された方々にお見舞いを申し上げます。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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