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ハリウッドのセクハラ騒動:今度はジェームズ・フランコ。オスカーレースへの影響は?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
アワードシーズンで勢いに乗る中、セクハラ疑惑が浮上したジェームズ・フランコ(写真:ロイター/アフロ)

 膿は、まだ完全に出きってはいなかった。身に覚えのある人はひととおり処刑されたかと思われたところへ、今度はジェームズ・フランコの名前が浮上したのである。それも、彼が監督と主演を兼任した「The Disaster Artist」がアワードシーズンで勢いに乗っている真っ最中に、だ。

 彼のセクハラ疑惑が最初に浮上したのは、ゴールデン・グローブ授賞式が行われた西海岸時間7日。反セクハラを示す「Time’s Up」のバッジを胸元につけて出席し、見事、コメディ部門を授賞してみせた主演男優賞フランコに対して、「どうしてジェームズ・フランコはあそこにいることを許されるの?」「ジェームズ・フランコが、今、賞を取った。どうして私が映画/テレビ業界を離れたのか、聞かないで」というツイッターが投稿されたのだ。ほかにも、彼が17歳の女の子とホテルで会おうとしたとか、女性の前で性器を露出したなどの告白が出た。

 その2日後の火曜日にスティーブン・コルベア、水曜日にセス・マイヤーズの深夜トーク番組にゲスト出演したフランコは、それらの主張を「正確でない」と否定。最初のツイートをした女性アリー・シーディについても、「僕が彼女に何をしたのか、まったくわからない。僕は彼女をオフブロードウェイで演出したけれど、彼女とはとても楽しい時を過ごしたし、どうして彼女が怒っているのか謎だ」と語っている。しかし、木曜日の「Los Angeles Times」紙は、フランコの監督作でトップレスを強要されたり、ヌードシーンで性器部分を隠すカバーを勝手に取り除かれたりするなどの被害に遭ったという、フランコの演技スクールの生徒など5人の体験を紹介した。フランコは、その夜の放送映画批評家協会賞授賞式に出席する予定でL.A.行きの飛行機にも乗っていたのだが、結局、欠席している (フランコは欠席のままコメディ俳優賞を受賞した)。

コメディ映画「The Disaster Artist」でフランコ(右)は主演と監督を兼任(A24)
コメディ映画「The Disaster Artist」でフランコ(右)は主演と監督を兼任(A24)

 この思わぬ展開に困惑しているのは、オスカーを含め、これから発表される賞の投票権をもつ人たちだ。アカデミー賞のノミネーション発表は現地時間今月23日。投票はゴールデン・グローブ授賞式2日前の5日に開始し、12日に締め切られた。投票者が一番多いのは初日と最終日だそうで、事実を知る前にフランコに入れてしまい、後悔している人がいることは、十分推測される。

 史上最悪の映画と呼ばれるトミー・ワイゾーのインディーズ映画「The Room」の製作舞台裏を描くこのコメディで、フランコは、ほかにインディペンデント・スピリット賞と映画俳優組合(SAG)賞にノミネートされている。SAG授賞式は21日で、投票締め切りは19日。インディペンデント・スピリット授章式はオスカー前日の3月3日で、投票は2月3日から16日にかけて行われる。これらの賞の投票者には、まだ考えを変える余裕がある。

ケイシー・アフレック問題はどうするのか

 この事実が発覚するまで、フランコは、オスカーでも主演男優部門候補5人に食い込む可能性大とされてきた。アワード分析者の意見を集計するgoldderby.comでは、「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」のトム・ハンクスよりも上に位置するほどである。ほかの4人は、ゲイリー・オールドマン(『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』)、ティモシー・シャラメ(『君の名前で僕を呼んで』、)ダニエル・ディ=ルイス(『ファントム・スレッド』)、ダニエル・カルーヤ(『ゲット・アウト』)。ホラー映画のカルーヤは別として、あとの3人の主演作はシリアスなドラマで、コメディに出たフランコの受賞確率は、もともと低い。とは言え、これらの人々に混じって候補入りする意義は、キャリア上、重大だ。最初の2日間に投票した人のうち、何人が入れてくれたかによっては、フランコが候補入りをする可能性はまだあるが、たとえそうなったとしても、アカデミーもフランコ自身も、気まずい思いをするだろう。

過去にセクハラで訴訟されたことがわかっていながら、ケイシー・アフレックは「マンチェスター・バイ・ザ・シー」で昨年のオスカーを受賞した(Amazon Studios)
過去にセクハラで訴訟されたことがわかっていながら、ケイシー・アフレックは「マンチェスター・バイ・ザ・シー」で昨年のオスカーを受賞した(Amazon Studios)

 アカデミーには、もうひとつ悩みのタネがある。「#MeToo」運動が起こる前、ぎりぎりセーフで昨年のオスカーを受賞してしまったケイシー・アフレックだ。アフレックには、監督作「容疑者、ホアキン・フェニックス」の撮影中にふたりの女性にセクハラを行なったとして訴訟され、示談で解決した過去がある。

 オスカー授賞式では、毎年、前年の主演男優賞受賞者が主演女優賞のプレゼンターを務め、同様に前年の主演女優賞受賞者が主演男優賞を発表する。その伝統に従うならば、アフレックは今年のオスカーで舞台に立ち、主演女優賞受賞者にオスカー像を渡す役割を担う 。

 goldderby.comによると、現在、主演女優部門で有力とされているのは、「スリー・ビルボード」のフランシス・マクドーマンド。7日のゴールデン・グローブ授賞式で、マクドーマンドは、「#MeToo」「#TimesUp」に賛同するパワフルなスピーチをして拍手を受けている。その彼女に賞を渡すのがセクハラ男というのは、なんとも間抜けではないか。そもそも、アフレックが受賞した時にも批判は起きたし、賞を読み上げたブリー・ラーソンは、彼に拍手を贈らなかった(後にそのことを聞かれたラーソンは、『私の行動に気持ちが表れていますよね』と答えている)。「#TimesUp」で盛り上がる今、彼を出すのは、針のむしろにしてくれというようなもの。しかし、伝統を破ってアフレックを舞台に立たせないのであれば、代わりに誰を出すのか。そして、その人には過去のセクハラ問題が絶対に浮上しないという保証はあるのか。

 ハーベイ・ワインスタイン、ケビン・スペイシー、ブレット・ラトナーなど、今年は授賞式に呼ばれないこれまでの常連が、すでに何人かいる。だが、フランコの例が示すように、まだこっそりと出席するワケありの人は、いるかもしれない。いっそ、空港のセキュリティチェックポイントのように、オスカーの舞台の袖に、男たちが通過しなければいけない“セクハラ感知チェックポイント”でも設置したらいいのではないか。そうなったら、肝心の受賞結果より、舞台までたどりつく男性が果たして何人いるのかで、賭けが盛り上がりそうである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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