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コロナが世の中をよくする可能性について――資本主義と民主主義の修復のチャンス

上山信一慶應大学名誉教授、経営コンサルタント
長岡花火(筆者撮影):ニューノーマルの価値観はいずれ花火のように空を覆う

 最近はやりの「ニューノーマル」という言葉には未来への期待が込められている。誰にも先のことはわからない。だがコロナ危機をきっかけに時代が大きく変わると多くの方が感じている。今まで「よいこと」とされてきた常識的なライフスタイルや価値観がしだいに否定されていく予感がある。否定される常識とは、例えば安定した会社勤めが成功という常識、あるいは仕事の充実こそが人生の喜びという常識、経済成長や蓄財が大切という常識、そして競争は切磋琢磨の源だから基本的に是とする常識などである。

 なぜ、そうなるのか?ウィズコロナの時代は経済も投資もスローダウンせざるを得ない。またコロナは社会全体が結束しないと克服できない。社会の分断を助長するトランプ氏やブラジルのジャイール・ボルソナロ大統領のような扇動的ポピュリストの活躍の場は自ずと少なくなっていく。ウィズコロナの2、3年は経済も政治もクールダウン、あるいはスローダウンせざるを得なくなる。これは現代人に絶妙なタイミングでもたらされた「強制休止」、ラマダンのようなものだ。イスラム教徒はラマダンに断食し自分を見つめなおす。私たちもウィズコロナの期間に暴走する資本主義と制度疲労でぼろぼろの民主主義を見つめ直すことになるだろう。

〇マイノリティの思想が主流化

 近代以降、人類は資本主義のもと競争による切磋琢磨で生産性を上げてきた。現に競争こそがイノベーションの鍵だった。しかし、将来はAIの本格活用で生産性が著しく上がる。高齢化もあいまって、しだいに人々は時間を持て余すようになる。すると若いうちから社会貢献にいそしみ、質素な生活の中でもたくさんの趣味をもって充実した時間を過ごすライフスタイルが賞賛される。すでに2000年以降生まれの若者たち、いわゆるミレニアム世代の間ではミニマリストやノマド的ライフスタイルが憧れの対象になりつつある。これらは最近まではマイノリティ、あるいは異端的な考えとみなされてきたが、コロナを機に一気に市民権を得つつある。彼らにとって「ニューノーマルの時代」とは従来の常識や成功モデルから自由になって自分らしさに忠実な生き方ができる時代を意味するのである。

 彼らミレニアム世代に導かれ、私たちの生活と価値観はしだいに変わるだろう。それは競争主義、拡大思考から利他主義、共感主義へのシフトであり、また「よりよき未来への発展」よりも「何気ない日常の幸せの持続」に重きを置く価値観への転換である。ずいぶん大きな変化、非連続なジャンプと感じる向きもあるかもしれない。だが、実は世代を問わず、いつかこうした日が来ると予感していた人は意外に多いように思う。

 〇いままでのノーマルこそがアブノーマル

 

 例えば、読者のみなさんはこうした思いに駆られたことがないだろうか。夜の都心を歩く。高層ビル群の屋上には航空障害灯が点滅し、窓には煌々と光が灯る。綺麗だ。しかし「こんなたくさんのビルの中で人々は朝から晩まで何をしているんだろう」「ビルは100年以上、ここに存在し続ける。だが本当にずっと全部必要なのか・・・」と。高層ビルの中でヒトの人生の大半の時間が費やされていく。神が宇宙からその姿を見たら、実は養鶏場と変わらないのではないか(失礼)。

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慶應大学名誉教授、経営コンサルタント

専門は戦略と改革。国交省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)を経て米ジョージタウン大学研究教授、慶應大学総合政策学部教授を歴任。平和堂、スターフライヤー等の社外取締役・監査役、北九州市及び京都市顧問を兼務。東京都・大阪府市・愛知県の3都府県顧問や新潟市都市政策研究所長を歴任。著書に『改革力』『大阪維新』『行政評価の時代』等。京大法、米プリンストン大学院修士卒。これまで世界119か国を旅した。大学院大学至善館特命教授。オンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/。1957年大阪市生まれ。

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