リビア内戦化に怯える原油市場、それでも深刻な供給不足は起きない
東部を拠点とする軍事組織と暫定政権の戦闘が激化しているリビア情勢を受けて、国際原油価格が騰勢を強めている。リビアは石油輸出国機構(OPEC)にも加盟している北アフリカの主要産油国であり、このままリビアが本格的な内戦に陥れば、2010~12年の「アラブの春」がリビアにも波及した際と同様に、同国からの原油供給出が一気に落ち込む可能性を抱えているためだ。
OPECによると、3月時点のリビアの産油量は日量109.8万バレルとOPEC全体の3.7%を占めており、今後のリビア情勢によっては、国際原油供給環境が一変する可能性がある。特に、現在は米政府がイランとベネズエラに対する経済制裁強化の動きを見せているだけに、世界各地で同時多発的な減産圧力が発生するリスクに、国際原油市場は緊張感を高めている。
国際指標となるNYMEX原油先物相場は、昨年12月24日の1バレル=42.36ドルをボトムに、既に60ドル台中盤まで値上がりしているが、これは昨年11月1日以来の高値更新となる。昨年10月の70ドル台中盤からは大きく値下がりした状態に変化はないが、約3ヵ月半で50%を超える値上りは、ガソリン価格はもちろん世界経済に対するインパクトも大きなものになる。
一方で、これから国際原油市場が深刻な供給不足状態に陥り、原油価格が本格的に高騰するとみている向きは少ない。例えば、米金融大手のゴールドマン・サックスは2019年のWTI原油価格予想を従来の55.50ドルから59.50ドルまで引き上げたものの、今夏以降には原油価格が再び弱含むとの慎重な見方を示している。
背景の一つが、OPECやロシアなどが大量の増産余力を有していることがある。OPECやロシアなどは現在、1~6月期に日量120万バレルの協調減産を実施することで合意しており、シェールオイル増産や世界経済の減速で緩んだ国際原油需給を正常化させるため、大規模な減産対応を行っている。しかも、実際には合意以上の大規模な減産が実施されており、OPECのみでも200万バレル規模の減産が行われている。これは、いざとなれば増産対応に踏み切る余地が多く存在することを意味し、国際エネルギー機関(IEA)も供給障害に対して「保険」があると指摘している。
つまり、OPECやロシアが減産を取りやめる、ないしは縮小する決断を下すだけで、例えリビアが内戦化して同国からの原油供給が途絶える最悪の事態になっても、対応は可能な状態にある。
もちろん、OPECやロシアなどの産油国にとって、原油高は望ましい現象である。原油価格は高ければ高いほどに好ましいという面があることは間違いない。一方で、従来と異なるのはシェールオイルの存在であり、過度に原油価格を押し上げてシェールオイル増産ペースが加速すると、漸く安定化し始めた国際原油需給環境が再び大きく供給過剰に触れてしまう可能性がある。
実際に、ロシアのプーチン大統領はコントロール不能な原油高は望んでいないとして、早くも年後半の協調減産体制見直しの可能性を示唆している。原油高が加速すれば、OPECやロシアはシェールオイル増産の脅威に再び直面することになるが、少なくともロシアは適度な原油高に留めることで、伝統的産油国とシェールオイル産業が共存できる環境が望ましいと考えている。
現在のOPECやロシアは、過度の原油安と同様に過度の原油高も望んでおらず、原油高を鎮静化させるための政策調整が行われる可能性が高まっている。OPECやロシアがいつ、「これ以上の原油高は危険」との評価を固めるのかを打診しているのが現在の国際原油相場である。